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最終章?
業
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「……」
まだ過去を旅行してきたせいで足元がふわふわとしていて、それなのに気持ちは深い沼に沈んでいた。自分がこの目で見たものが真実だとして、あれからエイミーがどんな心情で生き続けているのかを想像するのも辛かった。
「分かったか? エイミー・レンブラントは[転生者の篝火]だ」
俺がよっぽど沈んだ表情をしていたのか、ウォーカーはワインを注いでくれる。「飲め」とグラスを持たされ、俺はそれを一気に煽った。ウォーカーもグラスを持ち、正面のソファに腰を下ろす。
「エイミーの目的は……一体何なんだ?」
それが分からなくて、ウォーカーに掠れた声で問う。
エイミーと初めて出会った時、彼女は転生してきたばかりの転生者のフリをしていた。彼女はそのまま死をも偽装した。再び彼女と会い、全てを聞いた後は、身分を偽ったのはウォーカーに復讐する仲間として相応しいかを見極めるためだと、俺は思っていた。
だが、結局エイミーは転生者ですら無かった。シズクという名を使い、まるで彼女が初めて出会った転生者のような口調と立ち振る舞いをしていたが、転生者ですら無かったのだ。
「……転生者だと偽っているのは、単に彼女がおかしくなってしまったからなのか?」
「身分を偽っているのはその点もあるだろう。しかし、エイミー・レンブラントは確かに歪んでしまったが、その行動に意図を持っていないわけではない」
ウォーカーは後ろの棚に手を伸ばす。首は前を向いたまま横着するように、腕だけを後ろにやってある冊子を取り出した。その手際を見るに日頃から、その冊子を取り出しているのだろうとおれは推測する。
「エイミー・レンブラントという[転生者の篝火]を知ったのは、奴と聖女ミラを『龍頭の迷宮』で殺そうとした時だ。俺もその時まで、奴のことをシズクという転生者だと思っていた」
喋りながら、ウォーカーは冊子から外した紙を一枚ずつ丁寧にテーブルに置いていく。最終的にはそれらはテーブルを埋め尽くした。
「これは……」
それらは雇用願い書のようで、しかし少し違ったものだった。左上に顔写真が、横に名前とステータス、下には経歴のようなものが書かれている。その内、名前と特典、何らかの日付が赤文字で強調されていた。
『幻術』ミキヤ(623.9~625.7)
『魔操』タイガ(626.7~627.3)
『召喚術』アイカ(630.12~633.4)
『透明化』モエ(638.7~640.9)
『回帰』ヤスオ(645.8~645.12)
『黒炎騎士』ヨシヒサ(660.4~668.11)
『界隙』マイ(670.1~674.10)
『次元孔』ハヅキ(680.7~683.5)
『一蹴』サクラ(690.12~696.7)
『具現化』タクミ(702.8~703.5)
『光器』ユウ(705.9~706.10)
『雷神の怒り』ワカナ(710.4~715.6)
『闇刀』リュウノスケ(710.4~715.4)
『壊楽』ユイ(717.11~718.6)
『改造体』ショウイチロウ(719.6~720.3)
『自己強化』ユメ(721.4~721.12)
『水精の加護』ミライ(724.10~726.8)
『魔の手』カオル(724.10~726.8)
『反射』カホ(730.9~731.3)
『木霊の指揮者』エイタ(731.1~732.5)
「俺があらゆる方法で調べたエイミー・レンブラントと関わりがある転生者たちの記録だ。一応説明しておくと左から順に、転生者特典、所持者、そしてエイミー・レンブラントと共に行動し始めてから死ぬまでの期間を表している」
今は832年だ、そして記録の初めの日付は623年。一体どれだけの時間を掛けたのだろうか。二百年も前の、たった一人の行動を追跡するなど容易なことでは無い。その執念に感嘆しつつも、俺は最後の一人の日付が気になった。
「最後は732年……ちょうど魔王大戦の頃か」
「あぁ、それ以降奴はダンジョンに閉じ込められていたからな」
ウォーカーは俺のことをじっと見る。俺の次の発言を待っているようだ。だが、俺は何も言わなかった。これ以上真実を知りたくない気持ちと、しかしそれと相反する感情が拮抗していて、何か言葉を吐くと同時に良くない現実が確定してしまう気がしたから。
「本当は気づいている癖に、わざと気付かないフリをしているな。もっと気になる点が二つあるだろう」
「……」
「チッ、ひとつは初めの日付だ」
沈黙を貫く俺に舌打ちをしながら、ウォーカーは一枚目の紙を持ち上げて眺める。
「623年9月、『召喚』のミキヤとエイミーが旅を始めた時だ。そして、さっき俺たちが<歴視>で見た洞窟の光景、あれも623年の9月だ」
「……」
「随分と立ち直りが早いよなぁ? 何年も共に冒険したシズクが自死し、それを喰らい生き延びたというのに、その月の間にもう別の転生者と旅を始めている」
ひらひらと紙を揺らしながら、俺の方をウォーカーは意地悪い笑みを浮かべて見た。
「もうひとつ、これは簡単だ。転生者が早く死にすぎだ。なぁリューロよ、お前はこれらをどう考える?」
「エイミーが……転生者を殺している」
絞り出すように俺は答える。そうでもしなければウォーカーは話を進める気が無いようだったし、答えとしても正直それしか無かった。
いくら危険な冒険をしているとはいえ、転生者がウォーカーによって作られた人工魔物では無い、ただの魔物に殺される確率などゼロに等しい。残った答えは、『エイミーが転生者を殺している』、ただ一つだった。
「そうだ。それこそが、転生者を殺すという行動そのものが奴の行動原理だ」
「……え?」
思っていた返答と異なり、俺は素っ頓狂な声が出てしまう。
転生者を殺した先に何かがあって、それを求めてエイミーが転生者を殺しているのだと俺はてっきり思っていた。殺すという過程を通ってはいるが、それこそウォーカーのように、その先に何か大きな目的があるのだろうと。
──そうではなく、殺すことそのものが目的だと……?
狼狽える俺を見ながら、ウォーカーはワインを煽る。そして続きを話しはじめた。
「エイミー・レンブラントは自分の大切なものを自分から壊すことを自己確立の手段としている節がある。これは色々な転生者特典を使って判明した確実な事実で、決して俺の勝手な想像では無い」
「自己確立……」
「それはシズクの血肉を喰らい生き延びた自身を肯定するために、奴の無意識が産んだものなんだろう。なんだ大切な人が死んだって大したことないじゃないか、私は傷付いていないじゃないか、と」
分からないでも無い理論ではあった。時たまに俺も、大切なものを断捨離だと捨ててしまうことがある。でもそれは物単位でやることだ、決して人の命でやることじゃない。
「そして、いつからか……それとも初めからかもしれないが、エイミー・レンブラントは捨てるために大切なものを作るようになる。分かるか? 自分にとって大切な相手を作り、それが最高潮に達した時にそいつを自らの手で殺すんだ」
「そんなの……」
「今回もそうだ。リューロ、お前を品定めしていたのも、リカもマサトもミレイも、奴にとっては殺すために友情を育んでいた仲間に過ぎないんだよ」
「そんなの……狂っている」
思わず漏れてしまった本音。エイミーの過去を見た、ずっと彼女とダンジョンを潜ってきた、お互いに助け合ってきた。だけど、だからこそ思ってしまう。エイミー・レンブラントは異常者だ、と。
ウォーカーはニヤッと笑った。
「そうだ。奴は異常者だ。奴は自分の仲間が自分以外の要因で死ぬことをひどく嫌い、自分に相手を依存させるために命を救って秘密を共有し、そして殺した後は平気な顔をして次を探す異常者だ」
「……」
「良いか、教えておいてやる。残機がゼロになったリカ・ローグワイスを殺したのはエイミー・レンブラントだ。俺が奴の異常性を利用して、殺させた」
「っ……そんなわけ……」
──いや、あの時の光景を思い出せ。
リカが死んだ場所に何が落ちていた?
『魔法反射の首輪』だ。ユリウス陛下から頂いたあのネックレス、エイミーが一目惚れしたネックレス。それが壊れていた。
あの時、俺はてっきりリカを殺した相手と戦った時に壊れたのだと思い込んでいたが、あれはリカと戦ったから壊れたのでは無いのか? リカが魔法を使う敵に敗北するのは想像できない、しかしリカがシズクに不意打ちされ、反撃の魔法すらネックレスによって反射されたならば……。
この筋書きには何も矛盾が無い。
「……そうか。そうだったのか」
「そうだ。リカを殺したのはエイミー・レンブラントだ」
「……確かに奴はリカが死んでも平気そうだった。わざとらしい悲しみの時間が終わればケロッとしていた。アレは……そういうことだったのか」
まだまだ思い当たる。
メイラに異常なほどキレていたのは何故だ?
──俺やマサト、ミレイという奴が自分で殺さなければならないはずの命が危険な目に遭っていたからだ。
魔人リンを平気な顔をして殺していたのは何故だ?
──奴にとって友人とは、いずれ殺すつもりの相手に過ぎないからだ。
聖女ミラと共に人工魔物に襲われた時、相手が[転生者の篝火]だと気付いたのは何故だ?
──ミラも特典を奪い殺す対象だったのにも関わらず、ミラの特典が自分に移らなかったからだ。
俺はいつの間にかワイングラスを落としていた。ぱりんっと割れる音でようやく現実に帰ってくる。
「ようやく分かってきたようだな。エイミー・レンブラントの本当の顔が」
「ああ……知りたくも無かったがな」
「はっ、じゃあ次だ。奴の性は分かり、奴の目的は『俺への復讐と仲間を殺すこと』。それで話は終わるはずだった」
俺の返事を馬鹿にしたように鼻で笑いながら言葉を続ける。
「だが違う。もう少し最悪の想定をしなければならない。なぜならエイミー・レンブラントが『世界図書』を入手してしまったから」
「それが、どうエイミーの目的に繋がる?」
「考えてみろ。『世界図書』は全てを明らかにする。エイミーは大切なものを壊したがる。ならば、どうなる?」
『世界図書』があれば、ウォーカーが説明していたような世界の構造を理解することが出来るのだろう。だから6層の少年は篝火である俺かエイミーに殺してもらうことを求めたのだし。
つまり、エイミーも同じ内容を理解したと考えるべきで……
「世界を……壊せる」
「そうだ。奴の狙いは転生者をこの世界に飽和させ、この世界を壊すことに転じた可能性がある」
さっきまでと打って変わって真剣な表情でウォーカーは言う。
「あくまでも可能性だ。奴にそこまでの度胸や行動力は無いかもしれない。だが、それでも、ひとつ確実に言えることがあるとすれば、俺とお前の二人の[転生者の篝火]が奴に殺されるだけで」
「世界は傾くぞ」
まだ過去を旅行してきたせいで足元がふわふわとしていて、それなのに気持ちは深い沼に沈んでいた。自分がこの目で見たものが真実だとして、あれからエイミーがどんな心情で生き続けているのかを想像するのも辛かった。
「分かったか? エイミー・レンブラントは[転生者の篝火]だ」
俺がよっぽど沈んだ表情をしていたのか、ウォーカーはワインを注いでくれる。「飲め」とグラスを持たされ、俺はそれを一気に煽った。ウォーカーもグラスを持ち、正面のソファに腰を下ろす。
「エイミーの目的は……一体何なんだ?」
それが分からなくて、ウォーカーに掠れた声で問う。
エイミーと初めて出会った時、彼女は転生してきたばかりの転生者のフリをしていた。彼女はそのまま死をも偽装した。再び彼女と会い、全てを聞いた後は、身分を偽ったのはウォーカーに復讐する仲間として相応しいかを見極めるためだと、俺は思っていた。
だが、結局エイミーは転生者ですら無かった。シズクという名を使い、まるで彼女が初めて出会った転生者のような口調と立ち振る舞いをしていたが、転生者ですら無かったのだ。
「……転生者だと偽っているのは、単に彼女がおかしくなってしまったからなのか?」
「身分を偽っているのはその点もあるだろう。しかし、エイミー・レンブラントは確かに歪んでしまったが、その行動に意図を持っていないわけではない」
ウォーカーは後ろの棚に手を伸ばす。首は前を向いたまま横着するように、腕だけを後ろにやってある冊子を取り出した。その手際を見るに日頃から、その冊子を取り出しているのだろうとおれは推測する。
「エイミー・レンブラントという[転生者の篝火]を知ったのは、奴と聖女ミラを『龍頭の迷宮』で殺そうとした時だ。俺もその時まで、奴のことをシズクという転生者だと思っていた」
喋りながら、ウォーカーは冊子から外した紙を一枚ずつ丁寧にテーブルに置いていく。最終的にはそれらはテーブルを埋め尽くした。
「これは……」
それらは雇用願い書のようで、しかし少し違ったものだった。左上に顔写真が、横に名前とステータス、下には経歴のようなものが書かれている。その内、名前と特典、何らかの日付が赤文字で強調されていた。
『幻術』ミキヤ(623.9~625.7)
『魔操』タイガ(626.7~627.3)
『召喚術』アイカ(630.12~633.4)
『透明化』モエ(638.7~640.9)
『回帰』ヤスオ(645.8~645.12)
『黒炎騎士』ヨシヒサ(660.4~668.11)
『界隙』マイ(670.1~674.10)
『次元孔』ハヅキ(680.7~683.5)
『一蹴』サクラ(690.12~696.7)
『具現化』タクミ(702.8~703.5)
『光器』ユウ(705.9~706.10)
『雷神の怒り』ワカナ(710.4~715.6)
『闇刀』リュウノスケ(710.4~715.4)
『壊楽』ユイ(717.11~718.6)
『改造体』ショウイチロウ(719.6~720.3)
『自己強化』ユメ(721.4~721.12)
『水精の加護』ミライ(724.10~726.8)
『魔の手』カオル(724.10~726.8)
『反射』カホ(730.9~731.3)
『木霊の指揮者』エイタ(731.1~732.5)
「俺があらゆる方法で調べたエイミー・レンブラントと関わりがある転生者たちの記録だ。一応説明しておくと左から順に、転生者特典、所持者、そしてエイミー・レンブラントと共に行動し始めてから死ぬまでの期間を表している」
今は832年だ、そして記録の初めの日付は623年。一体どれだけの時間を掛けたのだろうか。二百年も前の、たった一人の行動を追跡するなど容易なことでは無い。その執念に感嘆しつつも、俺は最後の一人の日付が気になった。
「最後は732年……ちょうど魔王大戦の頃か」
「あぁ、それ以降奴はダンジョンに閉じ込められていたからな」
ウォーカーは俺のことをじっと見る。俺の次の発言を待っているようだ。だが、俺は何も言わなかった。これ以上真実を知りたくない気持ちと、しかしそれと相反する感情が拮抗していて、何か言葉を吐くと同時に良くない現実が確定してしまう気がしたから。
「本当は気づいている癖に、わざと気付かないフリをしているな。もっと気になる点が二つあるだろう」
「……」
「チッ、ひとつは初めの日付だ」
沈黙を貫く俺に舌打ちをしながら、ウォーカーは一枚目の紙を持ち上げて眺める。
「623年9月、『召喚』のミキヤとエイミーが旅を始めた時だ。そして、さっき俺たちが<歴視>で見た洞窟の光景、あれも623年の9月だ」
「……」
「随分と立ち直りが早いよなぁ? 何年も共に冒険したシズクが自死し、それを喰らい生き延びたというのに、その月の間にもう別の転生者と旅を始めている」
ひらひらと紙を揺らしながら、俺の方をウォーカーは意地悪い笑みを浮かべて見た。
「もうひとつ、これは簡単だ。転生者が早く死にすぎだ。なぁリューロよ、お前はこれらをどう考える?」
「エイミーが……転生者を殺している」
絞り出すように俺は答える。そうでもしなければウォーカーは話を進める気が無いようだったし、答えとしても正直それしか無かった。
いくら危険な冒険をしているとはいえ、転生者がウォーカーによって作られた人工魔物では無い、ただの魔物に殺される確率などゼロに等しい。残った答えは、『エイミーが転生者を殺している』、ただ一つだった。
「そうだ。それこそが、転生者を殺すという行動そのものが奴の行動原理だ」
「……え?」
思っていた返答と異なり、俺は素っ頓狂な声が出てしまう。
転生者を殺した先に何かがあって、それを求めてエイミーが転生者を殺しているのだと俺はてっきり思っていた。殺すという過程を通ってはいるが、それこそウォーカーのように、その先に何か大きな目的があるのだろうと。
──そうではなく、殺すことそのものが目的だと……?
狼狽える俺を見ながら、ウォーカーはワインを煽る。そして続きを話しはじめた。
「エイミー・レンブラントは自分の大切なものを自分から壊すことを自己確立の手段としている節がある。これは色々な転生者特典を使って判明した確実な事実で、決して俺の勝手な想像では無い」
「自己確立……」
「それはシズクの血肉を喰らい生き延びた自身を肯定するために、奴の無意識が産んだものなんだろう。なんだ大切な人が死んだって大したことないじゃないか、私は傷付いていないじゃないか、と」
分からないでも無い理論ではあった。時たまに俺も、大切なものを断捨離だと捨ててしまうことがある。でもそれは物単位でやることだ、決して人の命でやることじゃない。
「そして、いつからか……それとも初めからかもしれないが、エイミー・レンブラントは捨てるために大切なものを作るようになる。分かるか? 自分にとって大切な相手を作り、それが最高潮に達した時にそいつを自らの手で殺すんだ」
「そんなの……」
「今回もそうだ。リューロ、お前を品定めしていたのも、リカもマサトもミレイも、奴にとっては殺すために友情を育んでいた仲間に過ぎないんだよ」
「そんなの……狂っている」
思わず漏れてしまった本音。エイミーの過去を見た、ずっと彼女とダンジョンを潜ってきた、お互いに助け合ってきた。だけど、だからこそ思ってしまう。エイミー・レンブラントは異常者だ、と。
ウォーカーはニヤッと笑った。
「そうだ。奴は異常者だ。奴は自分の仲間が自分以外の要因で死ぬことをひどく嫌い、自分に相手を依存させるために命を救って秘密を共有し、そして殺した後は平気な顔をして次を探す異常者だ」
「……」
「良いか、教えておいてやる。残機がゼロになったリカ・ローグワイスを殺したのはエイミー・レンブラントだ。俺が奴の異常性を利用して、殺させた」
「っ……そんなわけ……」
──いや、あの時の光景を思い出せ。
リカが死んだ場所に何が落ちていた?
『魔法反射の首輪』だ。ユリウス陛下から頂いたあのネックレス、エイミーが一目惚れしたネックレス。それが壊れていた。
あの時、俺はてっきりリカを殺した相手と戦った時に壊れたのだと思い込んでいたが、あれはリカと戦ったから壊れたのでは無いのか? リカが魔法を使う敵に敗北するのは想像できない、しかしリカがシズクに不意打ちされ、反撃の魔法すらネックレスによって反射されたならば……。
この筋書きには何も矛盾が無い。
「……そうか。そうだったのか」
「そうだ。リカを殺したのはエイミー・レンブラントだ」
「……確かに奴はリカが死んでも平気そうだった。わざとらしい悲しみの時間が終わればケロッとしていた。アレは……そういうことだったのか」
まだまだ思い当たる。
メイラに異常なほどキレていたのは何故だ?
──俺やマサト、ミレイという奴が自分で殺さなければならないはずの命が危険な目に遭っていたからだ。
魔人リンを平気な顔をして殺していたのは何故だ?
──奴にとって友人とは、いずれ殺すつもりの相手に過ぎないからだ。
聖女ミラと共に人工魔物に襲われた時、相手が[転生者の篝火]だと気付いたのは何故だ?
──ミラも特典を奪い殺す対象だったのにも関わらず、ミラの特典が自分に移らなかったからだ。
俺はいつの間にかワイングラスを落としていた。ぱりんっと割れる音でようやく現実に帰ってくる。
「ようやく分かってきたようだな。エイミー・レンブラントの本当の顔が」
「ああ……知りたくも無かったがな」
「はっ、じゃあ次だ。奴の性は分かり、奴の目的は『俺への復讐と仲間を殺すこと』。それで話は終わるはずだった」
俺の返事を馬鹿にしたように鼻で笑いながら言葉を続ける。
「だが違う。もう少し最悪の想定をしなければならない。なぜならエイミー・レンブラントが『世界図書』を入手してしまったから」
「それが、どうエイミーの目的に繋がる?」
「考えてみろ。『世界図書』は全てを明らかにする。エイミーは大切なものを壊したがる。ならば、どうなる?」
『世界図書』があれば、ウォーカーが説明していたような世界の構造を理解することが出来るのだろう。だから6層の少年は篝火である俺かエイミーに殺してもらうことを求めたのだし。
つまり、エイミーも同じ内容を理解したと考えるべきで……
「世界を……壊せる」
「そうだ。奴の狙いは転生者をこの世界に飽和させ、この世界を壊すことに転じた可能性がある」
さっきまでと打って変わって真剣な表情でウォーカーは言う。
「あくまでも可能性だ。奴にそこまでの度胸や行動力は無いかもしれない。だが、それでも、ひとつ確実に言えることがあるとすれば、俺とお前の二人の[転生者の篝火]が奴に殺されるだけで」
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