深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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事故

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「どうにかなったか……パラサイトドラゴン三体に出くわした時はどうなることかと思ったが」
「そっちも上手くいったようだな」
「あぁ……なんとか、な」

 颯爽とパラサイトドラゴンが地に伏して舞い上がる胞子煙の中から現れたマサトとミレイの二人に声をかける。

 ほとんど全力を使い果たしたせいでパラサイトドラゴン二体を倒した後、自由落下していた俺だったが、メイラによるとシズクが無事救出してくれたらしい。その後、リューロとミレイがドラゴンにトドメを刺すのを眺めながら少し休んだお陰で、もう普通に歩けるぐらいには回復していた。

「それより腕を治してくれるかい」
「あ……あぁ、<治癒ヒール>」

 ミレイが雑にぐちゃぐちゃに抉れて肉と骨が露出した左肩をこちらに向けてくるものだから、俺は少し引きながらもスキルを発動してやれば、ミレイの左腕が眩い光で満たされた。次の瞬間には何事も無かったように腕が生えていて、ミレイとメイラは目を丸くした。

「へぇ、これは凄いね。まるで魔法じゃないか」
「いや魔法じゃなくてスキルだが」
「ふはっ」

 突如よく分からない例えをするミレイに俺はすかさず訂正を入れる。と、マサトが噴き出した。そのらしくない様子に俺が呆然としていると、続いてシズク、メイラも笑いをこぼす。

 俺だけが首を傾げている中、涙目になりながらシズクがミレイの背中を叩く。

「あははっ、違うよミレイ。この世界フツーに魔法はあるから、ややこしくなっちゃってるって。リューロも無意識にツッコんでるし!」
「あっそうか、そういえばそうだったな。じゃあ奇跡って感じだ」

 なにやらよく分からないままだが解決したらしい。

「よく分からないが……でも、あまり怪我しないでくれよ。誰かが傷付いてるのも見たくないし、痛みはあるんだから」
「これだけの実力者が集まってりゃあ、そうそう怪我するようなことにはならないさ」
「それもそうか……ミレイもマサトも帝国叩き上げの兵だし、シズクも百年前からの英雄だもんな」
「何言ってんだい、アンタも中々ヤバいよ」
「え?」

 呆れたような目でミレイがこちらを見てくる。

「アタシは仕事上、各国を回ってその過程で何人もの強者と接してきたがソイツらと比べても、リューロは頭ひとつ抜けているぐらいのバケモンだよ。アンタに勝てる奴なんて……うん、ほとんど居ないんじゃないかい」
「俺も同意だ……そもそものレベルが高い上に数多のスキルと魔法があるのはかなり脅威だな。世界の五本の指には入るだろう。敵には回したくないな」
「そうね。私は今までの戦闘を見ていないけど、パラサイトドラゴンのブレスを受け止めるなんて普通の人間にはできないもの」

 ミレイに続いてマサトとメイラまでもが俺のことをまるで最強の一角かのように語る。それに俺は俯いてしまう。

「いや、いやいやいや……俺は、俺自身は決して強くないんだ」

 俺は自分の強さを自覚したくなかった。それは積み上げた屍の数だと知っているから。だから褒められてむず痒い自分が本当に嫌で、でも力を否定するのもみんなに悪い気がした。

「リューロ……死はいつか乗り越えればいいんだよ。捨ててきたものだけが、あなたをあなた たらしめるんだから」

 シズクだけが俺の気持ちを分かっているのか、諭すようにそう呟いた。


***

「そろそろ行くか」

 三体のパラサイトドラゴンとの戦闘を終えたあと、各々再び出発の準備を整える時間、という名の五分ほどの自由時間を俺はそう言って切り上げる。

 マサトとミレイはさっきの戦闘の反省点をまとめているし、シズクはぼーっと遠くを眺めている。メイラはちょうどあった椅子のような岩に腰掛けて休憩していた。

「分かっtっ……っとっと」

 メイラが岩からよっこいしょと立ち上がろうとし、体勢を崩す。

「大丈夫か、うおっ!」

 そんな彼女を受け止めようとした俺の顔面に彼女の肘がピッタリの角度で入った。パキッ──という音とともに俺は尻もちをつく。

「あっ……」
「っ痛てて……ってアレ?」

 尻を擦りながらも、ミレイの手を借りて立つと、そこで初めて呼吸が急に楽になったことに気付く。その違和感に俺が手で顔を触れば、手のひらと顔の間になんの隔たりもなかった。

 ──マスクが外れている……。

 咄嗟に呼吸を止める。が、しかしそれは遅すぎる気もした。

「はぁっ? ちょっと……!」
「大丈夫だ、シズク。まだ吸ってない」

 メイラを分かりやすく睨みながら、シズクが慌てて俺の口を抑える。そんな彼女に俺は心の中では焦ってるのを隠して、モゴモゴと心配無いと伝えた。
 実際、尻もちをついたと言っても呼吸器系はそれほど地面に近付いた訳でもないし、痛みで瞬間的に呼吸が止まるのだから吸ってない可能性の方が高い……ハズ。そう自分に言い聞かせる。

「一度戻るしかないね、『セーフゾーン』からそこまで離れてないのは不幸中の幸いだった」
「ミレイの意見に賛成だ。あと、簡易的なものだが……まぁ無いよりはマシだろう。出来るだけ慎重に歩け」

 マサトが空気の壁を俺の首から箱型に空気を伸ばしてくれたようだ。重さは感じないが、頭のてっぺん以外を見えない壁に覆われていることを俺は手で触って確かめる。

 結局、俺たちは来た道を戻ることになった。

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