深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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死別

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 ぐるっと、エレナとの戦闘があった場所を避けて回って俺とマサト、そしてミレイの三人はようやくシズクを見つける。

「は……?」

 だが、その俺の第一声がこれだった。他の二人も何も言えずに居る。「魔道国が襲撃されている。リカが向かってしまった」と、今にも泣きそうな声でシズクが通信機で伝えたきたから一目散に向かってきたのだが、もう既に

「これは……リカ・ローグワイス……かい?」
「そうだ」

 その光景から目を離せずに、それでもミレイが途切れ途切れに質問するので、マサトが簡潔に答える。

 そう、到着した場所はリカの変わり果てた姿……もといリカだったモノの破片で散らかされていた。
 大きい破片でも七つ、リカの胴体と思われる焦げたモノが無差別に散らばっている。他にも、ヒビ割れた脚部が、強い衝撃によって倒木したらしい木に引っ掛かっている。指らしきものが、窪んで植物が枯れている地面に散らばっている。
 その中心でシズクは、唯一無事なリカの頭部を横に置いて木にもたれるように座っていた。

 ──嫌な予感はしていた、向かってくる途中に爆発音が聞こえたから。

 リカの自爆音、それによって激しい戦闘になることは想定していた。だから俺が驚きに声を漏らしたのは、ミレイとは異なり、リカのボディが自爆されていたことにではなくて、敵の姿が見えなかったことに、だ。

「シズク、無事か!? 何があった!?」
「うん……私は、私は無事……」

 俺たちに目もくれず、ただ俯いているシズクに駆け寄って声をかければ、今にも消えそうな程にか細い声で彼女は答える。そして、その言葉通りシズクは怪我一つない。
 ただ、戦闘はしたのかもしれない、と俺は気付く。その証拠としてシズクの『魔法反射の首輪』は壊れていて、地面に放り投げられていたからだ。アレほど一目見たときは欲しがっていたものなのに、軽く捨てられいる。それが、彼女が今、正常じゃない精神状態であることを表している気がした。

「誰に?」
「何も……出来なかった」

 今度はマサトが、リカの破片を踏まないように慎重に歩きながら近付いて問う。だが、その答えは、答えじゃなかった。曖昧な後悔の言葉だった。
 何があったかは分からないが、今のシズクに何かを聞いても仕方が無さそうだ、俺とマサトは立ち上がって目でそう通じ合う。

 ならば取り敢えず優先するべきなのは、ここからの離脱だろう。リカの自爆音でエレナが来る可能性がある。もしくは、こうやって一箇所に集めること自体がエレナの策の可能性もある。
 そして離脱の為には、まずは転移で戻ってくるリカを待たねばならない。

「そうか……で、リカが帰ってきてないのは何か向こうでやることがあるからなのか?」
「もう帰ってこない」

 短く、早口でシズクは答えた。木と土に、しんと吸収されていく声に、俺ははじめ、それがどこに向かって放たれたものか分かっていなかった。

「……は?」

 もう……帰ってこない。もう……帰ってこない? 簡単に入ってきた情報を整理しようと何度も頭の中で、言われた言葉そのまま反芻する。何度も、その意味を理解しようとするが分からなかった。『もう』の意味も『帰ってこない』の意味も。

「リカのスペアボディは全て無くなった……だから、リカは完全に……死んだ」
「それは……本当、なのか?」

 マサトが震えた声で聞き返す。俺はその問いの答えを聞きたくなくて、耳を塞いだ。

 ──リカが……死んだ?
 
 爆発音を聞いてから、既に五分が経過している。いつもならリカは帰ってきている時間だ。でも、それはただ何か野暮用があるとか、魔道国の復興をしているとか、そんなことだろうと勝手に決めつけていた。リカが生きて帰ってくると決めつけていた。

 でも、そうじゃない。

 4層で、デッドウルフと鉱石鳥クリスタルバードに襲われていた時に助けてくれた。魔人ラウザークと俺を戦わせた。魔人の真実に気付いた。キングワームに共に吹き飛ばされた。マサトを協力して倒した。クラーケンも協力して倒した。魔人リンの攻撃を凌いだ。帝国との協力関係を結んだ。エレナ・ブラッディの攻撃も凌いだ。

 気付けば長い期間ずっと仲間だった。居て当たり前だったし、居ないことを想像していなかった。リカは俺よりも博識で機転が利き、冷静で強くて百年間の重みがあった。だから、彼女が俺よりも先に死ぬことを想像していなかった。

「リカが死んだ」

 水が目から溢れる、それは無意識のもので、俺は視界がぼやけたことでようやく自分が泣いているのだと気付いた。


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