深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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波間

準備

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視点:リューロ・グランツ
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「なるほどのぉ、道理でやけに魔物について詳しいと思っておったんじゃ」
「あぁ、毎日のように冒険譚は聞いていたからな。そのおかげで今も命があるようなものだ」

 帝国との通信が終わったあと、俺は夢の中で判明した父が転生者であるという話を共有していた。新たなスキルを獲得したのだからそれは教えておくべきだし、秘密にしておいても信頼が得られないというデメリットしかないためだ。

「なんか、[転生者の篝火]のリューロ自信が転生者の血を引いてるってちょっと面白いね」
「<封印>と<開放>……かなり使い勝手が良さそうだな」

 『代償成就』によって出現させたステーキを食べながら、シズクは笑った。マサトもシズクが『具現化』させたおにぎりを頬張りながら、俺が説明した能力についてもうどういう風に活用できるかを考えている。

 そう、秘密と言えば、シズクが何者であるかという話やウォーカーの話をマサトは知り、今はもうマサトとシズクの一触即発だった空気は完全に消え去っていた。

 そもそも、マサトが忠誠を誓う帝王が正式に俺たちと手を組むと発表したという時点で、マサトはシズクを仕方無しに受け入れていたのだが。その後、シズクから直接何があったのかを聞き、さらに同じ転生者同士ということで前世の話をすれば、自然と二人の仲は絆されていった。
 最後に『おにぎり』が決め手となった。やはり故郷の味というものは大きいのだろう。

 リカ、シズク、マサトの関係が良好になり、クラーケンという強大な敵を倒し、共通の敵もいる。俺たち四人は十分に連携が期待できる信頼のおける仲間へとなりつつある。

 ──ただ、個人的な感情としてはマサトに思うところがないわけでは無い。

 セージの身体に爆弾を仕掛けたのは、マサトを含む帝国の連中なのだから。それを考えれば許してはいけない相手なのかもしれない。
 ただ、前帝王の命令に従って国のために行ったことというのも理解しているし、仲間が拷問の末に殺されてマサトが今も深く傷ついていることも知っている。

 だから、俺は何も言えなかった。


***

「そういえば、帝国から貰った装備を確認しないとな」

 『代償成就』で八層への道を見つけ、みな食事も終わって準備を始めようというときに俺はそう思い出して、ユリウス殿下が転送してきた包みを開いた。

「『自動防御の腕輪』……、持ち主の頭部と首周りに自動で防御結界が構築される、というものらしいが、誰が着ける?」
「リューロじゃろう、『超回復』がある限り他の者が重傷を負ったとしてもどうにでもなるが、リューロの喉や脳は怪我してしまえば終わりじゃ」

 ほとんど即答でそう答えたリカに続くように、他の二人も首を縦に振るので、俺は指輪を右手に嵌める。

「じゃあ『魔法反射の首輪』……三回だけ魔法を反射するもの……これは──」
「えっ! え……待って!?」

 細いシルバーのチェーンに、宝石がきらめくネックレス、それを袋から取り出した途端にシズクが声を大きくして叫んだ。その声に俺がちょっと驚きつつも、シズクの方を見れば今まで見たことが無いほどにキラキラと目を輝かせている。

「それめっちゃ可愛い……私、着けていい?」
「わしも本音を言えば欲しかった……が、そうじゃな、戦略的にもシズクが持つべきじゃろう」
「やった!」

 テンション高く、手に入れたネックレスを持ってくるくると回るシズクにマサトと俺は顔を合わせて少し笑う。

 それから、残った道具『光魔法迷彩マント』はリカが、『加速陣付与靴』はマサトが持つことになり、それぞれ四人が帝国の魔道機械学の技術の結晶を装備した。

「よし、出発しよう」
  
 そうして俺たちは再びダンジョンを歩き始めた。
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