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波間
考察
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視点:エレナ・ブラッディ
──────────────────────
「分からないか、やはり認識自体に効果を及ぼしているようだな。俺もアイツらに言われなければ気付かなかったということは、転生者以外の全員に効果が及ぶものと考えられるか……?」
そう、自問自答をするように小声で俯き呟く歩み続ける者様に私はやはり戸惑う。全く覚えは無いが、どうやら私は敵の未知の攻撃を受けているが為にこの場に居るらしい。
しかし、体も思考も何の異常もなく、ステータスを確認しても状態異常の項目がある訳でもない。
それに、
「私がダンジョンから地上に魔王側のなんらかのスキルによって帰還させられた、ということですよね。ダンジョンには『転移壁』があるはずですが、そこはどうしたのでしょうか……?」
『転移壁』……ついさっき歩み続ける者様によって、それがどう実現されかを理解したばかりのものだが、その仕様自体は篝火を追うという話を首相から聞かされた時点で教えられていた。入ってしまえば専用の鍵である転移石以外では転移で出ることが、絶対に出来ないというものだ。
その壁を突破できる方法があると、私は思えなかった。
「まぁそういう不可解な点もあるが、まずは……そうだな。覚えている限りの、3層から帰ってきた時点からの記憶を話せ」
「記憶……ですか、承知致しました」
それから私は覚えている限りの流れを語る。
3層から転移した途端、謎の影──現在は歩み続ける者様だと判明しているけれども──に連れてきた帝国兵を奪われたのち、首相に一連の流れを報告。その後、教王がお忍びでやってこられたという首相室に呼ばれ、聖なる力を与えられ、首相と教王から魔王を殺すように強く言われる。だと言うのに、何故か急に共和国に忠誠を誓うようになったマサト・タカダだけがダンジョンに単独で潜ることになり、私はここに来るように命じられた。
重要そうな部分だけ掻い摘まんで話すその間、歩み続ける者様はワインを揺らしながら静かに聞いていた。
「といった具合です……どうでしょう?」
「明らかにおかしな点があるな、お前がタカダの精神支配を知っていることだ。一体、いつタカダと接触した?」
「え……あれ、?」
そこで初めて自分でも、その矛盾に気づいた。
自分でも分からない。マサト・タカダとの接触は記憶には無いはずなのに、にも関わらず私は彼の様子を鮮明に思い出せた。私が彼をいつ、どこで見ているのかは分からない。彼は真っ白な空間、あるいはノイズが混じった空間に佇み、それを私は知っていたというだけだった。
──でも、間違いなく、私の過去の記憶だ……。
確信する、私は一度彼と行動を共にした過去がある、と。
「やはり何か攻撃を受けたのは確実か」
傍から見ても私は相当動揺していたのだろう、歩み続ける者様はそう言って、ワインをぐいっと飲み干した。
「はぁっ……ヤツらを呼ぶか。少し癪だが、まぁいい紹介の機会と考えよう」
「ヤツら……とは?」
「俺の手に負えなかった転生者どもだ。仕方なく部下としているアイツらを俺は『四覇聖』と呼んでいる」
「『四覇聖』……」
「そして、今後ろにいるのが、そのうちの二人、『消失王』クニヒコと『停滞王』アズサだ」
歩み続ける者様が私の後ろを指さす。
それに従って私が後ろを向けば、二人の男女が立っていて、その気配の無さと唐突性に呼吸が一瞬止まったのが自分でも分かる。
それほどに二人は、いつの間にか、音もなく、ただずっとそこに居たかのように平然と佇んでいた。
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「分からないか、やはり認識自体に効果を及ぼしているようだな。俺もアイツらに言われなければ気付かなかったということは、転生者以外の全員に効果が及ぶものと考えられるか……?」
そう、自問自答をするように小声で俯き呟く歩み続ける者様に私はやはり戸惑う。全く覚えは無いが、どうやら私は敵の未知の攻撃を受けているが為にこの場に居るらしい。
しかし、体も思考も何の異常もなく、ステータスを確認しても状態異常の項目がある訳でもない。
それに、
「私がダンジョンから地上に魔王側のなんらかのスキルによって帰還させられた、ということですよね。ダンジョンには『転移壁』があるはずですが、そこはどうしたのでしょうか……?」
『転移壁』……ついさっき歩み続ける者様によって、それがどう実現されかを理解したばかりのものだが、その仕様自体は篝火を追うという話を首相から聞かされた時点で教えられていた。入ってしまえば専用の鍵である転移石以外では転移で出ることが、絶対に出来ないというものだ。
その壁を突破できる方法があると、私は思えなかった。
「まぁそういう不可解な点もあるが、まずは……そうだな。覚えている限りの、3層から帰ってきた時点からの記憶を話せ」
「記憶……ですか、承知致しました」
それから私は覚えている限りの流れを語る。
3層から転移した途端、謎の影──現在は歩み続ける者様だと判明しているけれども──に連れてきた帝国兵を奪われたのち、首相に一連の流れを報告。その後、教王がお忍びでやってこられたという首相室に呼ばれ、聖なる力を与えられ、首相と教王から魔王を殺すように強く言われる。だと言うのに、何故か急に共和国に忠誠を誓うようになったマサト・タカダだけがダンジョンに単独で潜ることになり、私はここに来るように命じられた。
重要そうな部分だけ掻い摘まんで話すその間、歩み続ける者様はワインを揺らしながら静かに聞いていた。
「といった具合です……どうでしょう?」
「明らかにおかしな点があるな、お前がタカダの精神支配を知っていることだ。一体、いつタカダと接触した?」
「え……あれ、?」
そこで初めて自分でも、その矛盾に気づいた。
自分でも分からない。マサト・タカダとの接触は記憶には無いはずなのに、にも関わらず私は彼の様子を鮮明に思い出せた。私が彼をいつ、どこで見ているのかは分からない。彼は真っ白な空間、あるいはノイズが混じった空間に佇み、それを私は知っていたというだけだった。
──でも、間違いなく、私の過去の記憶だ……。
確信する、私は一度彼と行動を共にした過去がある、と。
「やはり何か攻撃を受けたのは確実か」
傍から見ても私は相当動揺していたのだろう、歩み続ける者様はそう言って、ワインをぐいっと飲み干した。
「はぁっ……ヤツらを呼ぶか。少し癪だが、まぁいい紹介の機会と考えよう」
「ヤツら……とは?」
「俺の手に負えなかった転生者どもだ。仕方なく部下としているアイツらを俺は『四覇聖』と呼んでいる」
「『四覇聖』……」
「そして、今後ろにいるのが、そのうちの二人、『消失王』クニヒコと『停滞王』アズサだ」
歩み続ける者様が私の後ろを指さす。
それに従って私が後ろを向けば、二人の男女が立っていて、その気配の無さと唐突性に呼吸が一瞬止まったのが自分でも分かる。
それほどに二人は、いつの間にか、音もなく、ただずっとそこに居たかのように平然と佇んでいた。
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