深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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伝授

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「なぁ……父さんは転生者だったのか?」

 当然返事は無く、父はぶつぶつと決められた文言を呟くだけだ。そんな父の機械のような様子を見て、夢の中とはいえ、俺を殺すためだけに記憶から蘇らされた父を見て、俺は嫌な気持ちになった。それになにより、何も知らない奴に父を思うように操られていることに、独占欲のようでそれとは少し違う怒りを覚えた。

 ──覚悟はある、やるしかない。

 父を止める、これ以上苦しませたくない。この夢の世界から脱出することとは関係ないかもしれないが、ほっとけなかった。

「……<クナイ>」

 スキルによって空中に出現したクナイを、放出せずに右手に持って父の背後に立つ。狙うは首、頸動脈だ。ゆっくりと、肌に触れないように左手を大回りに首へ回し、刃もギリギリまで接近させる。一瞬で、一回で確実に死なせるために。

「父さん……ごめん」

 ザシュッ──という音と確かな皮膚を抜けてやわらかい内部を切り裂いた生々しく手に残る感触。人を、しかも近接武器で殺すなんて初めての経験で、俺は反射的にクナイを手放して、数歩後ずさってしまう。からんからん、と赤く染まったクナイと父の剣が床に落ちる二つの音だけが響いた。

「リューロ……隠れ……きろ……」

 剣を手放した手で傷口を抑え、膝から崩れ落ちながらも父は首だけを後ろに回して、目を見開きながらこちらを凝視した。出血はひどく、みるみる真っ赤に床が染まっていくが、俺はその血だまりに足を踏み入れて、倒れてうめき声をあげる父に近づく。

「父さん……」
「……」

 もう返事は無かった。動くなってしまった父を抱きしめる。生暖かい血が俺の身体に染み込んでいく。
 と同時に、体の奥で何かが燃えるような感覚に突如として俺は襲われた。

 ──なっ、熱っ……!?

 ぽかぽかと心が温まるような、しかし灼熱のように俺を焦がすような力の濁流に俺は困惑する。

「<封印クローズ>が開いた」

 どこからか父の声が聞こえた。

 ──生きてっ……いや、違う……?

 直ぐに抱える父の胸に耳を当てるが、鼓動は無く落胆する。そんな状況が呑み込めていない俺を置いていくように、父は喋り始めた。

「これは<封印クローズ>した音声だ、お前が父さんから受け継いだ不完全な転生者特典が<開放オープン>された時に同時にこの音声も流れるようになっている」
「封印した音声、受け継いだ特典の開放……」
「あー、今は何歳だ? 好きな人は出来たか? 仕事は……って、いや時間が無いな」

 声しか聞こえていないが、それでも明確に父が腕時計を見て焦る姿が目に浮かぶ。それほどに音声は父らしかった。いつも俺の将来を心配してくれていて、お節介なほどに俺に話を聞く。
 が、そこから父は「手短に話させてもらう」と言って真面目なトーンに一変した。

「まずはもうわかっているとは思うが、父さんは転生者だ。特典は『封印と開放』、どんなものでも箱に<封印クローズ>し、どんな時でも<開放オープン>出来る能力」

 溶岩と氷柱、夢の世界で父が放ったものはその2つだったが、俺が<潜伏ハイド>して攻撃を止めさせていなければ、あの黒い箱からもっと色んなものが出てきたということか。

「父さんは<封印クローズ>によって、リューロ、お前が不完全ながらもスキルとして受け継いだ<封印クローズ>と<開放オープン>、そして俺が転生者特典を使っていた場面の記憶、の2つを奪っていた」

 記憶……? 待て、確かに黒い箱を俺は知っていたじゃないか。なんで今まで……。
 いや違う、今思い出したんだ。封印が解かれたことによって思い出した。父が黒い箱から食べ物を、魔物の死体を、炎を、なんでも出していたことを。

「恨まないで欲しい。転生者の息子と世間にバレてしまえば奴に……いや、これは知らなくてもいいか。ただ出来るだけ平和に生きて欲しかったんだ」

 ……というのはウォーカーのことだろう、と俺は推測する。父も何らかの方法で転生者を殺す何者かの存在を察知していたのだ、だからこそ父はうるさく俺に「隠れて生きろ」と言っていたのだ、と俺は今になって父の真意にようやく気付いた。

「<開放オープン>の条件は、第三者の力によるものか、もしくは自身で中に残る父さんの残滓を消滅させるか、だ」
「残滓を消滅……そうか、今ここで俺が殺したから……」
「今から、その力の扱い方を伝授する。と言っても、リューロの場合は父さんのようにはなんでもとはいかないし、量にも限りがあるがな」

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