上 下
76 / 124
6人目

開門

しおりを挟む
 目を隠すぐらいに全体的に長い黒髪を海に漂わせながら、半人半魔人の女は俺たちを見下ろす。

「ウォーカー……だと?」

 マサトの低く、掠れた声。女の、過去をフラッシュバックさせる精神攻撃に蹲っていたマサトはいつの間にか立ち上がっていた。

「ウォーカー……ウォーカー。あいつのことか……アレスとライアンはあいつにっ……!」
「いひっ、ま、お前の記憶に確かに映ってたやつさ」

 『セーフゾーン』の上を泳ぎながらそう言った女の言葉で俺もウォーカーが誰かを悟る。断片的に流れたマサトの記憶の中で最後の方、ライアンの死体を踏み荒らして耳元に何かを語りかけてきた中年の太った男だ。

「いひひひっ、<波撃タイダルインパクト>」

 瞬間、話をしていたのが嘘だったかのように、尾びれを動かしほぼ予備動作無しで女が近付いてきたかと思えば腕を『セーフゾーン』に突っ込んで水の斬撃を放ってくる。

「……痛っ……いのぉ」
「<治癒ヒール>!」

 まだマサトのトラウマから立ち直っていなかったリカの背中がざっくりと裂かれる。が、逆にリカはそのショックで元の調子を取り戻したのか立ち上がった。

「いひひっ……駄目だ、いひっ、衝動が抑えられない。話を聞きたいなら、あたしを無力化してからにしな。いひっ……」

 気色の悪い笑みを零しながら女はそう言った。というか、『セーフゾーン』には魔物は侵入できないはずだが、どうしてか女は腕を突っ込んで攻撃を打ってくる。上半身はまだ人間の判定だとでも言うのだろうか。

「無力化のぉ、海に逃げられる相手をどうしろと言うんじゃ……」

 リカが小声で愚痴ったが、俺も同意だ。転生者特典と思われる精神攻撃と、魔人としての海を操る力の2つを併せ持ち、本能で攻撃してくる相手を無力化なんて無理だろ、と言いたくなる。

はいつもそうしてる、いひっ……いひひひひっ」
「あの子ってのは誰のこtっ」
「<渦裂槍ヴォルテックスランス><眠り泡スリープシャボン>」

 再び俺の言葉を遮って、女が差し込んだ手から放たれる歯車のような形の圧縮された海の奔流。それが鋭く回転しながら一直線に……俺の首めがけて飛んでくる!

「っ<盾砂サンドシールド>!」

 リカがそれに合わせて砂で出来た壁を空中に生成する、が、回転の力に砂は一瞬にして削られてあっさりと突破する。

「なっ、……」
「<エアシーrっ」

 まさか破られると思ってなかったんだろう、口をあんぐりと開けて驚くリカに、渦の後ろから現れた何かが当たる。と思ったら、リカはそのまま前に倒れ込んだ。
 だが、それを気にかける余裕は俺には無い。
 確実に首に向かってくる死に対して、防御スキルを俺も発動させようとするが、もう既に渦の斬撃は目と鼻の先、間に合わない!

「あっ、死──」
「<風固壁エアウォール>」

 俺が死を覚悟した刹那、右からマサトが俺の眼前に空気の盾を張る。ガガガガッ── 鋭い音と共に渦裂槍は回転はそのままで数秒間だけ空気を削り、最後には完全に停止して地面に落ちて、地面を潤した。

「いひっ……」

 女は攻撃を止められたというのに、余裕の表情でこっちを観察している。左隣で前に突っ伏しているリカは心配だが、女からは決して目を逸らせない。取り敢えず俺は右の、寸前で命を救ってくれたマサトにお礼を言おうとする。
 
「マサト、助かっ」
「……っ」

 ── ばたり。

 が、マサトもリカと同じように突然、毒でも盛られたかのように前に気を失って倒れた。

「え? ……あっ」

 動揺する俺の、その脚に当たって弾けるシャボン玉。それにを見た途端、俺の視界も暗転した。

「<夢界門ドリームゲート>、開門」

 最後に女のその声だけが聞こえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放されたおっさんは最強の精霊使いでした

すもも太郎
ファンタジー
 王宮からリストラされた精霊の守護者だったアキは土の精霊から愛されまくるおっさんだった。アキの左遷は最悪な結末を王宮にもたらす事になったのだ。  捨てられたアキは左遷先で出会った風の精霊とともに南の島を目指して旅だってしまう。その後、左遷先に王宮からの使者がアキを探しに来るが、時すでに遅しであった。   (以下ネタバレを含みます)  アキは第二の人生として、楽園でスローライフを楽しんでいたのだが隣国の王から祖国の深刻な状況を聞かされて復興の為に本国に戻ることを約束する。そこで見たものは死臭を放つ王都だった。可愛らしい元悪役令嬢の魔女っ子と問題を解決する旅に出る事で2人の運命は動き出す。 旅、無双、時々スローライフなお話。 ※この作品は小説家になろう(なろう)様でも掲載しております

当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

【完結】幼馴染に婚約破棄されたので、別の人と結婚することにしました

鹿乃目めの
恋愛
セヴィリエ伯爵令嬢クララは、幼馴染であるノランサス伯爵子息アランと婚約していたが、アランの女遊びに悩まされてきた。 ある日、アランの浮気相手から「アランは私と結婚したいと言っている」と言われ、アランからの手紙を渡される。そこには婚約を破棄すると書かれていた。 失意のクララは、国一番の変わり者と言われているドラヴァレン辺境伯ロイドからの求婚を受けることにした。 主人公が本当の愛を手に入れる話。 独自設定のファンタジーです。実際の歴史や常識とは異なります。 さくっと読める短編です。 ※完結しました。ありがとうございました。 閲覧・いいね・お気に入り・感想などありがとうございます。 (次作執筆に集中するため、現在感想の受付は停止しております。感想を下さった方々、ありがとうございました)

俺TUEEEがしたい男の転生無双!〜自重?何それ美味しいの?〜

せんてん
ファンタジー
24歳童貞サラリーマンの火神走人(ひがみそうと)。 ある日、会社の帰りにトラックにひかれて死亡した。 気がつくと全面真っ白の部屋にいてそこにいた創造神と名乗るお爺さんに、 「其方の使命は………転生して俺TUEEEをワシら神に見せることじゃ!!」 と言われて、ファンタジー好きだった走人は即OKし、チート能力を授かって公爵家の三男、アルベルトとして転生したのだった。 この作品は自重する作品に飽きた方やチート無双がお好きな方にオススメです。 ※感想や直して欲しいところがあったらコメントにぜひかいてください!こんな風にして欲しい!などのご要望も書いてくれると助かります! 初心者ですがよろしくお願いします!

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

社畜だけど転移先の異世界で【ジョブ設定スキル】を駆使して世界滅亡の危機に立ち向かう ~【最強ハーレム】を築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!~

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 俺は社畜だ。  ふと気が付くと見知らぬ場所に立っていた。  諸々の情報を整理するに、ここはどうやら異世界のようである。  『ジョブ設定』や『ミッション』という概念があるあたり、俺がかつてやり込んだ『ソード&マジック・クロニクル』というVRMMOに酷似したシステムを持つ異世界のようだ。  俺に初期スキルとして与えられた『ジョブ設定』は、相当に便利そうだ。  このスキルを使えば可愛い女の子たちを強化することができる。  俺だけの最強ハーレムパーティを築くことも夢ではない。  え?  ああ、『ミッション』の件?  何か『30年後の世界滅亡を回避せよ』とか書いてあるな。  まだまだ先のことだし、実感が湧かない。  ハーレム作戦のついでに、ほどほどに取り組んでいくよ。  ……むっ!?  あれは……。  馬車がゴブリンの群れに追われている。  さっそく助けてやることにしよう。  美少女が乗っている気配も感じるしな!  俺を止めようとしてもムダだぜ?  最強ハーレムを築くまで、俺は止まらねぇからよぉ!  ※主人公陣営に死者や離反者は出ません。  ※主人公の精神的挫折はありません。

処理中です...