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6人目
いひ
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「<夢室>」
瞬間、どくどくと断片的な映像が、せき止められていた水が放流されるかのように全て自分の中に流れてくる。
鉄の錆びた匂い。血溜まり。赤いナイフ。暗い部屋。逆さまの視界。水が溜まったバケツ。親指のない右手。爪剥ぎ機。トンカチ。じめじめとした牢。びしょ濡れの服。手枷のついた椅子。切り落とされていくアレスの首。注射器。落ちている腕。血まみれの斧。眠ろうとする度に振り下ろされる鞭。火がついた服。ボロボロの皮膚。取れかけている脚。治癒魔法を使う男。全身から血を垂れ流すライアン。熱されたペンチ。極寒の夜。絶叫するアレス。ずっと鳴っている不快な音。親指と小指の無い右手。治療魔法を使う男。蝿が湧き群がるアレスの首。悠々と現れる太った別の男。水に沈められる。身体に点数を描かれナイフを当てる遊びをする看守たち。振り下ろされる斧。剥がされた最後の爪。滲む血。鋭い針。熱されて真っ赤に光る釘。踏み潰されぐじゅぐじゅと鳴るライアンの身体。太った男が耳元で何かを囁く。
── ぶつっ。
そんな耳を圧迫するような音で、俺の意識は無理やり引き摺られるかのように現実に戻された。
「あぁぁぁあぁあぁ!!!」
「うっ……げぇっ、うぇぇ……ぉロロロ……」
ぺしゃぺしゃという音が、蹲るリカのところで聞こえ、それに釣られて俺も吐き気を催す。俺の後ろで首を掻き毟って、地面をのたうち回っているのはマサトだ。
「いひっ……ちょっとした挨拶のつもりだったんだが……予想外にその方のトラウマが大きかったようさね。いひひっ、申し訳ない申し訳ない」
謝罪を口にしながら謝罪とは真逆に楽しそうに笑う声を漏らす女の声が頭上から聞こえる。その、非人間的な発言に動揺していた俺の心がすぅっと冷めていき、代わりに殺意が湧くのが自分でも分かった。
「<クナイ>」
上を見ずに下を向いたまま俺は不意打ちで瞬間的にスキルを発動する。
「いひひっいひひひひひひっ、『セーフゾーン』からせめて手を出して攻撃しないと……いひっ、無駄だよ」
「……その見た目、人間じゃないな」
『セーフゾーン』越しにこちらを見る女の下半身を見て俺はそう確信する。海に浮かんでこちらを見る女は脚の代わりに尾びれがあったのだ。
「いひっ、あたしは第7層に住む亡霊さ。『ウンディーネと人間を混ぜて作られた魔人』と転生者である私を混ぜて作られた存在……いひひっ、自分でも何言ってるか分かんないね。いひっ、いひひひひっ……」
魔人と転生者の合成だと……? 初手から攻撃してきた時は、ウォーカーの息がかかった襲撃者かと思ったが、そうじゃない、むしろ奴の被害者じゃないか。
「お前らどうせまたあたしを実験台にしようとしてるんだろう? いひひっ……そうはいかない。100年あったんだ、お前らなんかに捕まらないぜ……いひっ」
俺たちが何者かも分かっていない様子から、完全にこの女がウォーカーの指示を受けた刺客もしくはウォーカーの指示を受けた国から遣わされた刺客という線は消えた。つまり、この女の誤解を解けば戦う理由は無い、どころか仲間にできる可能性もある。
「違う! 俺たちもウォーカーに追われている!」
「嘘だ。いひっ……いひっ、いひひひひひひっ!!!!」
── いや、それは難しいかもしれないな。
気がおかしくなった人間の、焦点の合わない目。こちらの意見を聞き入れるつもりも無いような女の敵意しかない目。それらに俺は殺し合いの覚悟を決める。そもそも俺たちを敵視しているはずなのに、初撃で決めに来ないあたり論理性に欠ける、既に気が触れている証拠だ。
「いひっ、到底信じられないね! あたしはあの子以外誰も信じないって決めたのさ……いひひひっ」
瞬間、どくどくと断片的な映像が、せき止められていた水が放流されるかのように全て自分の中に流れてくる。
鉄の錆びた匂い。血溜まり。赤いナイフ。暗い部屋。逆さまの視界。水が溜まったバケツ。親指のない右手。爪剥ぎ機。トンカチ。じめじめとした牢。びしょ濡れの服。手枷のついた椅子。切り落とされていくアレスの首。注射器。落ちている腕。血まみれの斧。眠ろうとする度に振り下ろされる鞭。火がついた服。ボロボロの皮膚。取れかけている脚。治癒魔法を使う男。全身から血を垂れ流すライアン。熱されたペンチ。極寒の夜。絶叫するアレス。ずっと鳴っている不快な音。親指と小指の無い右手。治療魔法を使う男。蝿が湧き群がるアレスの首。悠々と現れる太った別の男。水に沈められる。身体に点数を描かれナイフを当てる遊びをする看守たち。振り下ろされる斧。剥がされた最後の爪。滲む血。鋭い針。熱されて真っ赤に光る釘。踏み潰されぐじゅぐじゅと鳴るライアンの身体。太った男が耳元で何かを囁く。
── ぶつっ。
そんな耳を圧迫するような音で、俺の意識は無理やり引き摺られるかのように現実に戻された。
「あぁぁぁあぁあぁ!!!」
「うっ……げぇっ、うぇぇ……ぉロロロ……」
ぺしゃぺしゃという音が、蹲るリカのところで聞こえ、それに釣られて俺も吐き気を催す。俺の後ろで首を掻き毟って、地面をのたうち回っているのはマサトだ。
「いひっ……ちょっとした挨拶のつもりだったんだが……予想外にその方のトラウマが大きかったようさね。いひひっ、申し訳ない申し訳ない」
謝罪を口にしながら謝罪とは真逆に楽しそうに笑う声を漏らす女の声が頭上から聞こえる。その、非人間的な発言に動揺していた俺の心がすぅっと冷めていき、代わりに殺意が湧くのが自分でも分かった。
「<クナイ>」
上を見ずに下を向いたまま俺は不意打ちで瞬間的にスキルを発動する。
「いひひっいひひひひひひっ、『セーフゾーン』からせめて手を出して攻撃しないと……いひっ、無駄だよ」
「……その見た目、人間じゃないな」
『セーフゾーン』越しにこちらを見る女の下半身を見て俺はそう確信する。海に浮かんでこちらを見る女は脚の代わりに尾びれがあったのだ。
「いひっ、あたしは第7層に住む亡霊さ。『ウンディーネと人間を混ぜて作られた魔人』と転生者である私を混ぜて作られた存在……いひひっ、自分でも何言ってるか分かんないね。いひっ、いひひひひっ……」
魔人と転生者の合成だと……? 初手から攻撃してきた時は、ウォーカーの息がかかった襲撃者かと思ったが、そうじゃない、むしろ奴の被害者じゃないか。
「お前らどうせまたあたしを実験台にしようとしてるんだろう? いひひっ……そうはいかない。100年あったんだ、お前らなんかに捕まらないぜ……いひっ」
俺たちが何者かも分かっていない様子から、完全にこの女がウォーカーの指示を受けた刺客もしくはウォーカーの指示を受けた国から遣わされた刺客という線は消えた。つまり、この女の誤解を解けば戦う理由は無い、どころか仲間にできる可能性もある。
「違う! 俺たちもウォーカーに追われている!」
「嘘だ。いひっ……いひっ、いひひひひひひっ!!!!」
── いや、それは難しいかもしれないな。
気がおかしくなった人間の、焦点の合わない目。こちらの意見を聞き入れるつもりも無いような女の敵意しかない目。それらに俺は殺し合いの覚悟を決める。そもそも俺たちを敵視しているはずなのに、初撃で決めに来ないあたり論理性に欠ける、既に気が触れている証拠だ。
「いひっ、到底信じられないね! あたしはあの子以外誰も信じないって決めたのさ……いひひひっ」
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