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6人目
閃き
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「<空削>!」
<治癒>によって貫かれたリカの腹部が治り、代わりに貫いた触手の1本をリカは消滅させる。リカは「肉をっ……切らせて骨を断つ、っとはこのことじゃな」と、腹部の痛みに汗を浮かべながら言っているが、それよりも随分と効率が悪い。
「駄目だ、もうほとんど周りが見えない」
「……魔魚が多すぎる。刺さっているだけでも1万は優に超えているだろう」
クラーケンを倒すとか、ウンディーネを倒すとか、最早そんなこと言ってられないぐらいに視界が悪かった。
マサトが海水を押し返すように固定している空気に、魔魚がびっしりと刺さっているのだ。しかもかなりの広範囲に固定を分散しているせいで、壁自体は薄く少しでも後続の魔魚がぶつかれば押し出されて中に侵入してくるのだからタチが悪い。
「<爆哮>!」
「<雷弾>×100!」
ドームを傷付けない、音と雷の全体攻撃。一瞬にしてドーム刺さっていた魔魚たちが絶命し、仰向けに海を浮上していく。
── 浮上していく?
何かが引っかかった。
浮上……ということは海の中の重力は外と同じなのか? 上空の海から下にいる俺たちに向かって飛び出して攻撃をしてくるから、てっきり海だけが逆重力なんだと思っていたが、そうでは無いということか?
「おい! 避けろ!!」
思考に入ってしまった俺を引き摺りあげるマサトの叫び、それが聞こえて俺が顔を上げたその瞬間、クラーケンの触手の1本が真っ直ぐこっちに延びてくる!
── ブスッ、攻撃を認識した瞬間に腹を殴られたような衝撃が走り、足が宙に浮く。さらにクラーケンが開けた穴の、触手との隙間から海水が少しずつ侵入してくる。
「リューロ!!」
「っあ゛ぁ……!!」
臓器ごと刺されたせいで呼吸もままならない。血反吐が出る、視界が廻る、血が音を立てて地面に落ちる、内臓が引きずり出される。それでも、
「痛みには慣れている……っ!」
片手じゃ、掴めないほど大きく太い奴の触手、それに俺は手を添える。さっきの推測が正しいならば回復なんて後回しだ、今ここで決めるしかない!
「っ<軽量化>!」
刹那、スキルが触れているクラーケンに作用した途端、強烈な浮力によって俺ごと身体が上に引っ張りあげられる。が、直ぐに俺が固定された空気に引っかかって浮上は急停止した。その上、触手が浮上によって移動した経路と同じ形に穴が開き、大量の海水が流れ込んでくる。
「……っ!!??」
「<空削>!」
しかし、そこは俺が出るまでもなかった。
状況を理解出来ていないものの、直ぐに穴を塞いで空間を保ったマサトと、俺の狙いを一瞬で見抜いて腹に刺さった触手を消滅させたリカ。二人の連携によって俺は解放されて地面に落下し、クラーケンは暴れながら、はるか上空の海面に登っていく。
「はぁっ、……<治癒>……」
危なかった、が何とかなった。俺は作戦が上手くいったことに心底ほっとする。
魔法やスキルの物理攻撃を簡単に避け、当たっても大したダメージにならない奴でも、体重自体が軽くなったことによる強力な浮力と減圧には敵わないはずだ。今頃、あらゆる内臓が破裂して血まみれになっているに違いない。
「浮かせるとはのぉ、さすがの閃きじゃ!」
「勝てた……生きている」
と、二人が俺に駆け寄ってひとまず一件落着か、と思った時、ザァッ── という波が引くような音と共に再び天変地異が起こった。
「……海が上がっていく」
マサトの言う通り、俺たちを取り囲んでいた海がまた元の高さに戻って行ったのだ。
「まぁ、なんでかは分からないが……取り敢えず『セーフゾーン』に入らせてもらうとしよう」
<治癒>によって貫かれたリカの腹部が治り、代わりに貫いた触手の1本をリカは消滅させる。リカは「肉をっ……切らせて骨を断つ、っとはこのことじゃな」と、腹部の痛みに汗を浮かべながら言っているが、それよりも随分と効率が悪い。
「駄目だ、もうほとんど周りが見えない」
「……魔魚が多すぎる。刺さっているだけでも1万は優に超えているだろう」
クラーケンを倒すとか、ウンディーネを倒すとか、最早そんなこと言ってられないぐらいに視界が悪かった。
マサトが海水を押し返すように固定している空気に、魔魚がびっしりと刺さっているのだ。しかもかなりの広範囲に固定を分散しているせいで、壁自体は薄く少しでも後続の魔魚がぶつかれば押し出されて中に侵入してくるのだからタチが悪い。
「<爆哮>!」
「<雷弾>×100!」
ドームを傷付けない、音と雷の全体攻撃。一瞬にしてドーム刺さっていた魔魚たちが絶命し、仰向けに海を浮上していく。
── 浮上していく?
何かが引っかかった。
浮上……ということは海の中の重力は外と同じなのか? 上空の海から下にいる俺たちに向かって飛び出して攻撃をしてくるから、てっきり海だけが逆重力なんだと思っていたが、そうでは無いということか?
「おい! 避けろ!!」
思考に入ってしまった俺を引き摺りあげるマサトの叫び、それが聞こえて俺が顔を上げたその瞬間、クラーケンの触手の1本が真っ直ぐこっちに延びてくる!
── ブスッ、攻撃を認識した瞬間に腹を殴られたような衝撃が走り、足が宙に浮く。さらにクラーケンが開けた穴の、触手との隙間から海水が少しずつ侵入してくる。
「リューロ!!」
「っあ゛ぁ……!!」
臓器ごと刺されたせいで呼吸もままならない。血反吐が出る、視界が廻る、血が音を立てて地面に落ちる、内臓が引きずり出される。それでも、
「痛みには慣れている……っ!」
片手じゃ、掴めないほど大きく太い奴の触手、それに俺は手を添える。さっきの推測が正しいならば回復なんて後回しだ、今ここで決めるしかない!
「っ<軽量化>!」
刹那、スキルが触れているクラーケンに作用した途端、強烈な浮力によって俺ごと身体が上に引っ張りあげられる。が、直ぐに俺が固定された空気に引っかかって浮上は急停止した。その上、触手が浮上によって移動した経路と同じ形に穴が開き、大量の海水が流れ込んでくる。
「……っ!!??」
「<空削>!」
しかし、そこは俺が出るまでもなかった。
状況を理解出来ていないものの、直ぐに穴を塞いで空間を保ったマサトと、俺の狙いを一瞬で見抜いて腹に刺さった触手を消滅させたリカ。二人の連携によって俺は解放されて地面に落下し、クラーケンは暴れながら、はるか上空の海面に登っていく。
「はぁっ、……<治癒>……」
危なかった、が何とかなった。俺は作戦が上手くいったことに心底ほっとする。
魔法やスキルの物理攻撃を簡単に避け、当たっても大したダメージにならない奴でも、体重自体が軽くなったことによる強力な浮力と減圧には敵わないはずだ。今頃、あらゆる内臓が破裂して血まみれになっているに違いない。
「浮かせるとはのぉ、さすがの閃きじゃ!」
「勝てた……生きている」
と、二人が俺に駆け寄ってひとまず一件落着か、と思った時、ザァッ── という波が引くような音と共に再び天変地異が起こった。
「……海が上がっていく」
マサトの言う通り、俺たちを取り囲んでいた海がまた元の高さに戻って行ったのだ。
「まぁ、なんでかは分からないが……取り敢えず『セーフゾーン』に入らせてもらうとしよう」
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