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異変

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 ── 28、27、26……

っ……!」

 右半身、肩から太ももの付け根の辺りまで綺麗さっぱり消失したタカダは、その激痛に顔をしかめ、宙から落ちていった。能力の制御が出来なくなったのだろう。血が溢れ、それをばら撒きながら真っ逆さまに落ちていく彼に俺はひとまず息を着……こうとして、慌ててまだやらねばなることがあったことを思い出す。

 ── 20、19、18……

 隣で既に息絶え倒れているリカの、その身体に俺は<軽量化>を行使する。何故か、それはあと15秒弱で自爆するリカを速やかにこの綿の上から排除しなければならないからだ。
 それにタカダが能力を使う余裕が無い今ならば、その爆破でさえ攻撃に転用出来る。既にボロボロだろうが、追い打ちをしておいて損は無いだろう。俺はそう考え、手で持てるまでに軽くなったリカを抱え上げた。

 ── あっつい!

 ── 12、11、10……

 リカの体に触れている手のひらから何かが蒸発するような音が鳴っているのを、歯を食いしばって俺は耐える。こんなものリカの死の苦しみに比べればなんてことは無い。

「すまん!」

 もう爆発まで10秒を切っている、謝罪の言葉と共に俺は溶岩湖のすぐ側で倒れているタカダ目掛けてリカの身体を放った。
 一直線にリカのボディは落下し、 ドォン!! ── という轟音が耳をつんざき、6層の洞窟全体が揺れる。

 結果はどうだと俺は目を細めて下を覗き込み、しかし視界全部が高速で迫ってくる真っ赤な何かで埋め尽くされているせいで何も分からなかった。

── まずっ……!

 この赤く光る液体はなんだろうかと考え、しかし直ぐに答えに気付く。それと同時に俺は顔を引っ込めて、片手を振り上げた。

「<盾空エアシールド>!」

 耳鳴りの中、しりもちをつく形で座る俺が瞬時に盾を自分の頭上と前に張れば、びちゃびちゃと吹っ飛ばされた溶岩がそこら中に張り付いていった。

「危なかった……」

 爆発によって溶岩の一部が吹き上げられたんだろう、危うく大火傷を負うところだった。頭か首をやられれば、<治癒ヒール>が使えないからな、死ぬ可能性だってある。
 ほとんど放心状態でいれば、突如、隣から真っ白な光がこちらを照らした。

「なっ……!? なんじゃコレは!?」
「おぉ、リカ帰ってきたか。自爆で溶岩がここまで上がってきたんだよ」
「いやそうじゃなくっ!」

 転移してきた新たなリカは何故か取り乱していた。しきりに上や下、周りをグルグルと見渡して、目を見開き頭を抱えて信じられないものを見たかのような顔をしている。

「なっ……えっ? ん?!」
「ちょっと、落ち着いてくれ。なにがどうしたんだ?」

 あまりにも普通の精神状態じゃなさそうなリカに、さすがに俺も心配になる。逆に彼女からは、俺がこうして落ち着いていられるのが信じられないと言いたげな目線を感じる。

「だって、これじゃあまるで3層じゃぞ! 砂漠はどうなったんじゃ!?」
「砂漠? 何を言ってるんだ? 63?」
「……え?」

 リカと俺の会話の噛み合わなさ、さすがに俺も自分が間違っているんじゃないかと心配になる。

「<ステータス>! ……うん、別に異常は……無い、な」

 何か俺に精神攻撃が仕掛けられているのか、そういう可能性も考えてステータスを確認するが特に異常はない。
 ならばリカの方か? という俺の考えは伝わっていたようでリカは既にステータスを開いている。

「わしのも異常無し……じゃ」
「……」

 沈黙、お互い困惑するだけだからこれ以上言葉を交わすことは避けた。

 リカは、6層が死ぬ前までは砂漠地帯で溶岩湖など無かった、そう言っている。だが俺が知っている限り、この目で見た6層は入ってからずっと『溶火の湖畔』で、溶岩湖と岩の大地の世界だ。それに常識として、冒険者の話としてもギルドで見るマップにも、6層は『溶火の湖畔』として書かれている。
 6層が砂漠地帯なんて聞いたこと……いや、待て。

 ── ある、な。もう10年ほど前になるが。

 亡くなった父が話してくれた冒険の中で確かに『6層は砂漠の世界で~』と言っていた。でも新聞や他の人の話では6層は溶岩地帯だとされていて、だから俺は、父が話す6層の話だけは、理由は分からないけど、嘘をついているんだと思っていた。

 それと同じことをリカが言っている。ただリカの頭がおかしくなった、とするには偶然の一致がすぎる。

「そうだ。これに関してはリカと……リューロ、君の父親が正しい」
「……っ!?」

 突如として、背後に現れたのはシズクと、小さな男の子だった。
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