深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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視点:シズク
────────────────────────

「黙れ!!」

 ギィンっ!!! ── というひときわ大きな金属音が響き渡った。少年が素手で刃を折ったのだ。そして欠けた鎌は再びエレナの元へと戻る。
 その時を待っていたのだろう。瞬時にエレナは姿勢を低くし少年の横へ回り込む。
 
「言われなくても死ぬって。でもキミに殺されるわけにはいかないからさ──」
「<ハイパー加速アクセラレート><斬心ブレードエッセンス><聖錬セイクリッドリフォージ>!」
「── <上書きリライト>」
 
 少年がそう言えば、手に大きな本とペンが現れる……が、遅すぎる。欠けた刃の部分を高熱を纏う聖属性の光によって補修された大鎌は、もう既に少年の横腹にめり込んでいる。

「……っ!!」
「はぁぁぁぁ!!!」

 刃に触れた部分から高熱により骨と肉は溶け、血は蒸発する。それゆえに聖なる刃が止まることは無い。滑らかに着実に少年を分かたれるまで突き進む。
 想像を超える激痛なんだろう、エレナ越しに私の目が合う少年の顔は歪……いや、笑っている!?

 本を開き、ペンを走らせながら、少年は叫ぶ。

「っ『第6層は溶火の湖畔と呼ばれ、溶岩湖が地形の半分を占めるエリアである』!」

 瞬間、エレナが

 ── 何が……何が起こった!?

 気付いたら、本当に瞬きをする間もなく、ぬるりと世界のペンキが塗り替えられたように、周りの景色が一変していた。
 砂の地面が岩盤に変わった。エレナがいた場所が溶岩の湖になった。太陽が消えて天井が現れた。
 3人まとめて第3層に転位させられた? いいや、違う。転移酔いも無いし、なにより転移にしては景色の移りが早すぎる。これはまるで……第6層自体がような。

 理解不能な出来事にパニックで呼吸が浅くなる。だが、まだ戦いは終わっていなかった。

「ん、出てきたね」

 エレナの右手が、真っ赤に光る溶岩の中から出てきて、地面のへりをがっしりと掴む。次に左手が、頭が、首が、胸が、腰が、脚が。そうやって、這い出てきた彼女を見て私はさらに驚く。
 息は荒いが、身体に火傷ひとつ負っていないのだ。それどころか服だって無事なまま。

「はぁっ……はぁっ……」
「おぉ、分かってはいたけどその防御装は凄いね。不意に落ちたのに、直接溶岩と体が触れるなんてことにはならないのは驚異的だ」
「ふっ……私としたことが溶岩に落ちるなんてね。ただご覧の通り無傷よ、残念だったわね」

 エレナは鎌を振りかぶって、腰を落とす。再び仕掛けるつもりだ。
 だが、私はそれどころじゃなかった。エレナにこう叫びたかった。── 違うでしょ! と。
 どうして驚きを見せない? どうして疑問に思わない? それは、まるで初めから6層に溶岩湖があったみたいな反応で、砂の世界なんて忘れたかのような言い方じゃない。

「いや、残念じゃないさ。もう準備は出来た」
「……? 何の準備かしら、武器も無いようだけど?」
「もう書いたってこと。『エレナ・ブラッディはここに来なかった。』ってね」

 瞬間、エレナが眼前から姿を消す。それだけじゃない、少年の横腹の傷も消えた。エレナが溶岩からあがってきた時に、防御壁から滴り落ちた溶岩も消えた。少年が折って捨てた鎌の破片も消えた。

 少年はくるっと振り返って、私を見た。

「ボクの転生者特典は『世界図書』。簡単に言えば世界の全てを知ることが出来るスキル。そして世界の全てを知れるということは、この世界の構造もボクには見えているし、不自由ながらも操れるってこと」
「そんなの……強すぎる」
「まぁその代わりに脳が耐えうるこの歳までボクは寝たきりだったし、今も常に吐き気と倦怠感と頭痛とその他100個以上の体の不調と付き合っているけどね」

 少年は困ったように笑いながら、未だ盾を壊されてから立てていない私に手を差し伸べる。

「ま、ちょっと場所を変えようか。キミもリューロとリカの2人とさっさと合流したいだろうし、話は向かいながらでも出来る。あ、そうだ、名前も教えとくよ。さっきはエレナが居たから名乗らなかっただけなんだ」
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