深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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視点:シズク
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「<眷属召喚サモンサーヴァント>!」

 空中からキングワームの1匹(リューロさんとリカさんが避けた方)に<黒炎ダークブレイズ>でトドメを指しながら、私はアラクネのリィラを召喚する。

「お呼びでしょうか、ユーラ様」
「私がキングワームを片付ける間、時間稼ぎをして!」
「承知致しました」

 リィラはその八本脚の数だけ空中に足場を生成し、リューロさん達が飛んで行った方を向く。その様子に、私はリィラが超速で迫ってくるエレナという脅威にきちんと気付けていることに少し驚きながらも、納得もした。3層で1度エレナとリィラは戦っているのだ、気配を覚えているんだろう、と。

── ま、でもそう長くはたないだろうし、急がないと。
 
 そう気持ちは焦っていたが、キングワームが再び大振りに右から薙ぎ払いを仕掛けてくるのを見て、直ぐにその焦りは消えた。むしろ少し苦笑が出た。
 確かに相当な重量と大きさと速さだ。だが、それだけだ。落ち着いてみればなんのことは無い直線攻撃、知能もしれてる6層の中では低級の魔物だ。手こずるわけが無い。

「<神具召喚サモンミシックウェポン>、如意棒、エクスカリバー」

 奴の巨体がこちらにぶつかるまで約0.5秒もある。私は落ち着いて左手に如意棒、右手にエクスカリバーを持つ。奪った転生者特典なので、詳しくは知らないが神の武器らしい。

「<黒炎装ブレイズアーマー>」

 そしてエクスカリバーに対象が完全に消滅するまで消えることの無い性質を持つ黒炎を付与させる。この炎によって既にさっきの1匹は砂上で横たわり、ほとんど燃え尽くされている。

「延びろ!」

 もう衝突まで5メートルぐらいしかないが、落ち着いて如意棒を下に向かって延ばす。薙ぎ払う速度より遥かに如意棒が延びる速度は速い、あっという間に上空まで私の体は移動した。

 そして、

 ── ドォンッ!! 

 延ばした如意棒にキングワームが衝突して止まる。少し歪んではいるものの、如意棒を折るほどの力は無い。真下で戸惑っているのかもぞもぞと動く、その首? に向かって、私はエクスカリバーを構えてそのまま<風蹴りゲイルキック>で直下する。

「はぁぁぁ!!!」

 黒の一閃、キングワームが真っ二つになり、私は取り敢えずホッと一息つく。リィラに指示を出してから1秒程度、まだエレナもたどり着いていないだろうと思っていた。

「あ゛っっ……ギヤァァァ!」

 が、耳をつんざくリィラの金切り声が響き渡った。それに私が振り向くとほぼ同時、

 ── ギィンッ!!

 ほとんど無意識に体を守るように構えていたエクスカリバーが、死神を思わせるエレナの漆黒の大鎌とぶつかり合う。それに少し遅れて脱力した状態のリィラが砂海に落ちていくのが視界の端で見えた。

 ── 嘘、速すぎるって! リィラがもう倒されたの!?

 以前より比じゃない強さに驚くのと同時に、エクスカリバーが砕け散り、私は直ぐにバックステップで距離を取る。<神器召喚>で出した武器はその強力な性能の反面、一度攻撃を受け止めれば砕けるのだ。

「魔王、ここで討つ!」
「……そういえば、私のことをどうして知っているの?」

 意気込むエレナには悪いがどうしても気になった。私は百年間ダンジョンに居たというのに、目の前の女は私の顔を見て直ぐに魔王だと断定していた。
 まぁ、心当たり……というか、ほとんどそうだろうっていう確信はあるんだけど。
 
「どうして……って、貴方が投影魔法で全世界に宣戦布告したんじゃない。『四天王ユーラは復活した。』って」
「やっぱりか」

 あの男の仕業だな、とことん私を殺したいらしい。魔王に仕立て上げて戦力を集める気だろう。まぁリィラを手に入れた時から自分でも世界の敵、魔王のつもりはあったけど。

 さて、そろそろ<神器召喚>のクールタイムは消えたかな。

「<神器召喚サモンミシックウェポン>、アイギ──」
「なっ!! <聖撃セイクリッドスマッシュ>!!」
「──スの盾!」

 私の右手に神話級の盾が出現し、それに騙し討ちに一瞬で反応してきたエレナの超速で振り下ろされた大鎌がぶつかる! なんてことにはならなかった。

 エレナの攻撃が、私の盾が、どちらも接触する直前で何者かに止められた。
 誰に? いつの間にか私とエレナの間に割って入っていた少年に。

「「誰だ?」」

 少年は片手で私の盾を押しのけ、もう片方の手の、人差し指と親指でエレナの鎌を止めている。その実力に、私はエレナの協力者を、エレナは私の協力者を疑い、しかし奇しくも質問が被ったことでどちらの可能性も否定された。

「ボクが誰かなんでどうでもいいよ、それよりお願いがあるんだ」

 まだ声変わりもしてない高い声で、少年は明確に私の方を向いて言う。

「ボクを殺してくれ」
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