深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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 抗いようもないほどの力ではるか後方に飛ばされながらも、それでも<重力操作グラヴィティ>で何とか抵抗しようと俺は両腕に力を入れる。

「っあ゛ぁ!!」

 が、息ができなくなるほどの激痛がそれを許さなかった。恐らくだが、腕の骨がぐちゃぐちゃに折れているんだろう。そのせいで最早リカを支えることも出来ず、ただリカは吹っ飛ばされた時の勢いで俺にくっついている。いや……というか、先に吹っ飛んでいる俺が空気抵抗の壁役となっているうえ、体重も俺の方が重いせいでリカに半ば押されているような形だ。

 いったいどこまで吹っ飛ばされるんだ、と俺が後ろに目をやった。
 その瞬間、風切り音に混じるように、ブンっ!──という鈍い音がし、同時に世界がほんの一瞬だけ真っ暗になった。瞬きよりも短い暗転ののち再び見えた世界はやはり砂漠で、何の変化もない。
 気のせいか? 少なくとも何かしらの攻撃ではなさそうだが……と怪訝に思って前を向き、そこで何かとてつもない違和感を感じる。

「っ゛<綿沫コットンドリーム>!!」

 動揺を隠せていないリカの叫ぶような詠唱、その一言で後方に俺たちを受け止めるための綿の塊が生成され、ぼふっ── と俺たちはそこに背中から突っ込んだ。状況を呑み込めないがとりあえず俺は<治癒ヒール>で腕を治す。
 そしてどれほど離されたかを見ようと、再び前を見渡して、そこでようやく気付いた。

「あれ、シズクどこだ?」

 シズクが見えないのはそうだろう、人の大きさなのだから当然だ。俺が言いたいのはそういうことではなく、あの巨大なキングワームの姿ですら見えないということだ。ましてや、ここは空中でかなりの高さがあり、砂漠だから遮る障害物もない。なのに、見えなかった。

……!」

 親指の爪を噛みながら、うろうろと綿の上を足早に回りながらリカは言う。いつも悠々としている彼女がここまで焦りを見せているのは初めてで、それだけで俺は不安になる。

「跳ばされたって、転移テレポートってことか?」
「そうじゃ、シズクにつけた標識が感知出来んところまで……つまりほぼ端から端までのぉ」
「キングワームにそんな能力は無いハズ、それに他の6層の魔物にも。つまりは……」

 第三者の介入、それも高度な魔法もしくはスキルを使える人間、俺がそう言おうとした時急に視界が少し暗くなった。
 雲か? と俺が見上げても空は真っ青で雲ひとつなかった。その代わりに人影が……って、

「……っ!?」

 そこに居たのは空に浮かぶエレナだった。背中に翼を生やして、こちらをじっと見つめている。

「魔王はここには居ない感じかしら。もしかして……吹っ飛ばされた?」

 俺たちを見て、そして俺とリカを受け止めた綿の塊の向きを見て、あっという間に答えにたどり着くエレナ。すぐさま俺とリカは戦闘態勢を取ったが、それを無視するように彼女は前を向いた。

「たぶん、こっちかしら? <ハイパー加速アクセラレート><翼迅スカイソア>」

 エレナはスキルの効果であろう翼をはためかせ、目で追うのもやっとなほどのスピードでシズクが居る方へ向かう。

「リューロよ、エレナの心配もいいがこちらもお客さんじゃ」

 上を向いていた俺にリカは緊迫感のある声で忠告する。その言葉通り、振り向けば既に俺たちの後ろにタカダが佇んでいた。
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