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絶え間
二人
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突如後方から姿を表したエレナに、シズク以外の俺とリカは呆気にとられる。だがそれはエレナも同じだった。出てきた途端、まず俺を見てホッとした表情を、次にシズクを見て顔をこわばらせ、最後にリカを見て石のように固まった。
「リカ・ローグワイス……?」
いくらリカが、魔法で山脈ごと吹き飛ばしただとか、誤って首都を丸ごと他国との国境付近に移動させただとかの事件を起こして、世間をたびたび賑わせるような破天荒として有名だとしても、それでも一国の王がこんな危険なダンジョンに居ようとは思わなかったのだろう。
エレナは数秒間、目を丸くして固まっていたが、気を取り直して叫ぶ。
「リカ様……その女が何者なのか分かってらっしゃるのですか!?」
「うむ、分かっておる。それで? お前はわしを攻撃するのか?」
「……っ」
リカは少し笑いながら挑発的に返事をした。その魔王側につくとも取れる発言にエレナは少し狼狽え、それでも覚悟を決めたようにこちらを睨む。
「……ええ、攻撃します。世界のために」
エレナが虚空から漆黒の鎌を取り出し、こちらにまっすぐ矛先を向けた。その瞬間放出される尋常じゃない殺気に、俺の全身から汗が噴き出し、毛は逆立つ。エレナとの距離、10メートルちょっと。それでも俺は動けなくなってしまった。
「うーん、なんで私のこと知ってるかは気になるケド、ま、逃げに徹そうか」
一歩下がったところで今まで沈黙を貫いていたシズクは「『透明化』」と唱え、俺に少し耳打ちし、彼女の姿は透明になる。とは言っても目を凝らせば降る雪が体に積もっているのが観察できた。
「リューロ! 来るぞ!」
リカが叫ぶのと同時に、エレナは前傾姿勢で鎌を振りかぶったまま雪を蹴った。
「<重ryっ」
「遅い。」
── 速い!!
魔兎と同等かそれより少し速い直線攻撃、咄嗟に<重力操作>を発動させようとするも既に眼前に鎌が迫っている。「あ、これ死……」と確信したのも束の間、隣に居たリカが俺に腕を向けて、鎌と体の間に防御結界を割り込ませた。
だが視認できる限界を超えた速さで薙ぎ払われた刃は、そのまま正確無比に防御結界スレスレを掠め、
ザシュッ── という音。
「痛゛っっ!!」
気付けばリカが伸ばしたその左腕を刈り取っていた。はじめからリカが狙いだったのだ。論理的に考えれば[転生者の篝火]である俺をエレナが殺すはずがない。
鮮血が飛び散り雪を赤く染めるその中心で、リカは無くなった腕の切り口に何か魔法をかける。
「……時間を止めた。これで少しは持つじゃろう」
腕が無くなったというのに、冷静にリカはそう言って再び立ち上がる。そして、その一部始終をエレナは追撃することなくただ黙って見ていた。勿論リカを守るように、エレナの前に俺が立ち阻んではいるものの、その気になれば俺の存在なんてあってないようなものだろう。
リカの立場ゆえに殺すに殺せないのだろうか? いいや、それにしてはさっきの攻撃は思い切りが良すぎた。ならば、ワザと手を抜いているのだろうか? いいや、そんなタイプには見えない。
まるで時間稼ぎ、それか注意を引き付けているみたいに──
「捕った……」
瞬間、上から聞こえてきたその声と同時に俺の体が何かに握られているように拘束される。
── なっ、もう一人!? それにこの声は!
俺の体が問答無用に持ち上げられて、視線が高くなる。それによって空中に浮かんでいた声の主と目が合った。
そして、その人物はタカダ マサトだった。
「リカ・ローグワイス……?」
いくらリカが、魔法で山脈ごと吹き飛ばしただとか、誤って首都を丸ごと他国との国境付近に移動させただとかの事件を起こして、世間をたびたび賑わせるような破天荒として有名だとしても、それでも一国の王がこんな危険なダンジョンに居ようとは思わなかったのだろう。
エレナは数秒間、目を丸くして固まっていたが、気を取り直して叫ぶ。
「リカ様……その女が何者なのか分かってらっしゃるのですか!?」
「うむ、分かっておる。それで? お前はわしを攻撃するのか?」
「……っ」
リカは少し笑いながら挑発的に返事をした。その魔王側につくとも取れる発言にエレナは少し狼狽え、それでも覚悟を決めたようにこちらを睨む。
「……ええ、攻撃します。世界のために」
エレナが虚空から漆黒の鎌を取り出し、こちらにまっすぐ矛先を向けた。その瞬間放出される尋常じゃない殺気に、俺の全身から汗が噴き出し、毛は逆立つ。エレナとの距離、10メートルちょっと。それでも俺は動けなくなってしまった。
「うーん、なんで私のこと知ってるかは気になるケド、ま、逃げに徹そうか」
一歩下がったところで今まで沈黙を貫いていたシズクは「『透明化』」と唱え、俺に少し耳打ちし、彼女の姿は透明になる。とは言っても目を凝らせば降る雪が体に積もっているのが観察できた。
「リューロ! 来るぞ!」
リカが叫ぶのと同時に、エレナは前傾姿勢で鎌を振りかぶったまま雪を蹴った。
「<重ryっ」
「遅い。」
── 速い!!
魔兎と同等かそれより少し速い直線攻撃、咄嗟に<重力操作>を発動させようとするも既に眼前に鎌が迫っている。「あ、これ死……」と確信したのも束の間、隣に居たリカが俺に腕を向けて、鎌と体の間に防御結界を割り込ませた。
だが視認できる限界を超えた速さで薙ぎ払われた刃は、そのまま正確無比に防御結界スレスレを掠め、
ザシュッ── という音。
「痛゛っっ!!」
気付けばリカが伸ばしたその左腕を刈り取っていた。はじめからリカが狙いだったのだ。論理的に考えれば[転生者の篝火]である俺をエレナが殺すはずがない。
鮮血が飛び散り雪を赤く染めるその中心で、リカは無くなった腕の切り口に何か魔法をかける。
「……時間を止めた。これで少しは持つじゃろう」
腕が無くなったというのに、冷静にリカはそう言って再び立ち上がる。そして、その一部始終をエレナは追撃することなくただ黙って見ていた。勿論リカを守るように、エレナの前に俺が立ち阻んではいるものの、その気になれば俺の存在なんてあってないようなものだろう。
リカの立場ゆえに殺すに殺せないのだろうか? いいや、それにしてはさっきの攻撃は思い切りが良すぎた。ならば、ワザと手を抜いているのだろうか? いいや、そんなタイプには見えない。
まるで時間稼ぎ、それか注意を引き付けているみたいに──
「捕った……」
瞬間、上から聞こえてきたその声と同時に俺の体が何かに握られているように拘束される。
── なっ、もう一人!? それにこの声は!
俺の体が問答無用に持ち上げられて、視線が高くなる。それによって空中に浮かんでいた声の主と目が合った。
そして、その人物はタカダ マサトだった。
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