深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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絶え間

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 シズクがさっき俺に話してくれた内容と全く同じ話をリカに説明している横で、俺は俺でシズクに質問をしていた。二人から質問されてシズクは大変だろうが、気になることがあったのだ。

 そう、どうやってシズクはあの時彼女自身のステータスを偽っていたのか。そしてどうやって死を偽装して、どうやって俺に『超回復』という特典と諸々のスキル、能力値を移行させたのか。恐らくは彼女が誰かから奪った転生者特典やスキルを駆使したのだろうが、なんとなく詳しく知っておきたかった。

 それを聞くとシズクは、「『幻術』、展開」とつぶやいたのち自身のステータスを開き、俺にもそうするよう指示したのち、忙しそうにまたリカの方を向いて話を再開した。

 そういえば、別にリカとシズクは知り合いじゃなかったようだ。リカは転移魔法から出てきたらセーラー服? (シズクの着ている服のことらしい)の女が居てビックリしただけだし、シズクは転移魔法で正確に俺のもとに来れる技術の持ち主の見た目が幼女でびっくりしていただけらしい。ちなみにシズクが着ている服や、二層で彼女が振舞ってくれたおにぎり? なる食べ物は彼女が昔 奪った『具現化』という転生者特典によって再現したものだと、シズクがリカに話していた。

 っと、それはそうとやってみるか。

「<ステータス>!」

 その発声と同時に、眼前にシズクと会ったあの時のままのステータスが俺のステータスとして、加えてシズクの前には転生者特典『超回復』と示されているステータスが現れた。

「っこれは……」

 ここまでくる中で受け継いだはずの能力値、スキル、転生者特典もすべてが無くなったステータスに、ほんの一瞬焦る。が、直ぐにシズクが唱えた『幻術』という言葉を思い出して、どうにか安心した。要はアラクネが帝国の奴らにやったのと同じ子供だましだ。まぁ転生者特典なのかスキルなのかは不確かだが、これほど精密かつ自然に改ざんできるのは驚きだが。

「でも、『超回復』っていう転生者特典自体はどうやって?」

 まだ分からないこと。それはいくら幻覚で一時的に誤魔化せたとしても、俺はシズクと離れた後も『超回復』を問題なく使えていたことだ。
 俺の曖昧な質問にシズクは、「ちょっと待って」とリカにハンドサインしながら答える。

「ん、元々リューロさんが持ってたんだよ? それを私が<奪力ステータススティール>で一時的に奪って、最後に死んだふりをしたときに返しただけだもん」
「え……?」
「少なくとも私と出会った時点ではもう継承されてたんじゃないかな。急に運動神経が上がったとか、覚えない?」
「そんなこと……」

 咄嗟に否定しようとして、だが思い当たることが一つだけあることに気づいた。あの時、ミノタウロスに追いかけられていた時だ。

「いや、あったな。あの時か……」

 確かにミノタウロスに仲間が殺された直後、なぜかすこぶる体は軽く快調だった。シズクの言う通りなら、既にあの時点で転生者のステータスが俺に付与されていて、つまりはエディ、ローザ、アンの中でだれかが転生者だったということだ。今となっては誰がそうだったか知りえないが、案外転生者は隠しているだけで身近にいるのかもしれないな。

 ── いや、おかしくないか? 

 つまりは百年前に嵌められて裏迷宮にずっといるシズクが、たまたま、もしくは[転生者の篝火]の効果によって瀕死の俺を見つける。相手のステータスを奪えるということは恐らく相手のステータスが見えるということで、シズクは俺を治療するために俺から『超回復』を奪ったうえで、俺を治療する。ここまでは分かる。
 だが、その後普通の転生者のフリをして、すんでのところで死ぬような魔兎との戦いをして、最後は死を偽装して俺から奪ったステータスを返した? そんな手間をかけて自分の正体を隠し通したのに、今になって打ち明けた?

 まるで俺が何かの試験に合格したから伝えたみたいな、俺がここまで来れるかを試していたかのような。それにシズクは俺が死ぬホントの瀬戸際で助けに来たが、見張っていたとしか思えないほどにベストタイミングすぎる。
 いったいシズクの目的はなんなんだ? 何のためにこんな回りくどいことをした?

 俺がそんなことを考えていると「っていうわけ」と、話を締めくくるシズクの声が聞こえてきた。ちょうど向こうも終わったようだ。

「でもなんでリカさんは、今も見逃されて生きているんだろ?」
「ふむ……わしの場合は四天王が出てきたころに、ちょうど建国の準備で忙しくなって戦いから退いたからやもしれんな」
「あぁなるほど、国王になると民衆が広く認知しているような人に迂闊に手出しができないもんね」
「それに、じゃ。シズクの話からすると四天王や魔王の言語が通じる悪魔族との戦いの場合はどうしても人工的に作られたようなボロが出てしまうんじゃろ? 逆に言えばそいつらと戦ってない転生者は無理に処分しなくとも良いということなんじゃろう。まぁわしがここまで長生きするのは想定外だったじゃろうがな」

 さすがは現在進行形で国王の天才だ。リカは冷静に与えられたばかりの情報で論理を組み立てる。
 っていうか、

「今の話を聞いてもリカは驚かないんだな」

 普通はもっと驚くだろうし、ましてやリカは百年前の当事者なのだから驚嘆の声の一つや二つ聞こえてもいいぐらいなのだが、結局最後まで「ほぉ」とか「ふむ」とか納得するような相槌しか聞こえなかった。

「まぁわしも連中が何かを隠してることぐらいは察しておったからの」

 大したことではない、とリカは軽く言って、さらに「しかし」と言葉をつづけた。

「イマイチ分からんことがあるのぉ、シズク、お前の目的はなんじゃ?」

 リカは真っ直ぐシズクを見つめて尋ねる。そしてそれは俺も聞きたかったことだ。俺を試すような真似をするほどに、その目的は困難なものなのか。
 シズクは問いにニヤッと笑って、あっさりと答える。

「復讐だよ、私たちを嵌めた奴へのね」

 百年の怨嗟が染み込み隠された声で。
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