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4人目
接敵
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探索も3日目に入り、厳しい傾斜が連続するようになってきた。
「はぁっ……はぁっ……くそっ」
悲鳴を上げる足腰に鞭を打って、深く積もる雪の斜面を登っていく。横から吹き付ける強風に何度もよろけそうになるが、ひとたび姿勢を崩せば一気にはるか真下まで転げ落ちるだろう。そんな死に方だけは避けたいものだ。
「リューロさん、大丈夫ですか?」
「はぁっ……あ、あぁ、どうにか、な」
先導するユミはさっきから何度も心配そうにこちらを振り返って心配してくれているが、どの道こんな中途半端な場所では休めそうもない。前を見上げれば、坂が途切れているのが見える。もう少しで登り道が一旦終わる場所があるようだ。せめて、そこまでは気合いで行くしかない。
── かなりキツいが……
5層の探索を初めて三日目、初めての吹雪と永遠に続く傾斜と尋常じゃない寒さに俺は限界だった。昨晩は二人しか居ない上に『セーフゾーン』が見つからなかったので、交互に見張らなければならず、ろくに睡眠も取れていない。
それでも、まだまだ元気そうなユミを見て、俺は素直に感心する。
彼女がデッドウルフの体というのもあると思うが、それだけじゃなく彼女の経験則によって選択される道も疲れていない理由にあるのだろう。あの洞窟の周りだけとは言え、彼女は長い年月この階層に囚われていたのだ。積もった雪を歩く時の心得も雲泥の差だ。
── あとはレベル差だな。
正直俺はかなり強い方だと思う。エレナやアラクネを見ている、もちろん上には上がいるのは知っているがそれでもレベル45だ、共和国でも恐らくは10本指には入るはず。
だが、ユミのステータスは俺を大幅に上回っていた。洞窟で確認した時点で、どの項目もSでレベルは驚愕の70。今は『代償成就』を食事を出したり、体温を保ったりすることに使用したため多少下がってはいるだろうが、俺より強いのは確実だ。
── 一体どれだけの年月をこの層で過ごし、どれだけの魔物を狩ってきたのだろうか。
俺は彼女のこれまでに思いをめぐらせ、その全てを無駄にしないためにもやはり俺がこんなことで挫けてはいけないな、と改めて自覚した。
***
「前方、何かいるみたいです」
ようやく長く険しい登り道が途切れ、高原のような場所に到着した。一面真っ白に雪が積もる平らな場所は良く言えば索敵に長け、悪く言えば隠密性に欠ける。
やっと休める、と俺が取り敢えず腰を下ろした瞬間、ユミはやや強い口調でそう警告した。
「……確かに、まだ遠いが微かに見えるな」
ユミが指さす方向、まっすぐ前を目を凝らせば、確かに吹雪の中で赤い光が遠くで揺らめいているのが見える。『雪火の山岳』に生息する魔物は『雪火』の名の通り、そのどれもが体に火を灯しているとされている。そうでもしなければ体温を正常に保てないのだろう。かく言う、俺たちも明かり兼暖を取るために<炎柱>を発動している。
この距離、この視認状況の悪さなら向こうからも同じように赤い火だけが見えているはずだ。ユミが<鑑定>で前方の敵を確認している間、俺は後ろの警戒をする。
「出ました」
ユミが鑑定結果に目を落とし、俺は後ろの警戒をやめて、その報告に耳を傾……待て、さっきの火はどこへ行った? ユミが今、鑑定結果を見るために目を離した隙、その一瞬でどこへ行ける?
「ランブルタイガー、雷を使う虎の見た目をした魔物で、雷による遠距離攻撃と、雷速を身に纏う高速移dyっ!?」
──ドンッ!!!
頭上からの殺気、背筋が凍るような死の恐怖に身体が支配されそうになる中、精一杯の力で俺はユミを突き飛ばした。
「っ痛!」
突き飛ばした両腕が一瞬光った! かと思えば次の瞬間には真っ黒に焦げ炭化している。
「あ゛ぁぁぁ!!! っ<治 癒>!!!」
焼き潰された部分から伝わる尋常じゃない熱、それを一瞬でも自覚しないうちに俺は根性で<治癒>を発動させる。
「ガォォ……!!」
両腕が完治するのとほぼ同時、後ろから聞こえた鳴き声、咄嗟に俺は左に飛びながらアレを使うことを心に決める。リカが使っていた最強の魔法、この場所ではぶつける壁が無いが、この高原から突き落とすだけでも十分だ。
「<重力操作>!!!」
「待って!! 魔法反射がある!!」
── えっ?
俺が後ろに居るであろうランブルタイガーに放った重力操作、具体的には落下方向が横になる力。
それがそっくりそのまま俺に跳ね返るなら?
理解するより先に、俺の身体が横に、虚空に落下を始めた。
「はぁっ……はぁっ……くそっ」
悲鳴を上げる足腰に鞭を打って、深く積もる雪の斜面を登っていく。横から吹き付ける強風に何度もよろけそうになるが、ひとたび姿勢を崩せば一気にはるか真下まで転げ落ちるだろう。そんな死に方だけは避けたいものだ。
「リューロさん、大丈夫ですか?」
「はぁっ……あ、あぁ、どうにか、な」
先導するユミはさっきから何度も心配そうにこちらを振り返って心配してくれているが、どの道こんな中途半端な場所では休めそうもない。前を見上げれば、坂が途切れているのが見える。もう少しで登り道が一旦終わる場所があるようだ。せめて、そこまでは気合いで行くしかない。
── かなりキツいが……
5層の探索を初めて三日目、初めての吹雪と永遠に続く傾斜と尋常じゃない寒さに俺は限界だった。昨晩は二人しか居ない上に『セーフゾーン』が見つからなかったので、交互に見張らなければならず、ろくに睡眠も取れていない。
それでも、まだまだ元気そうなユミを見て、俺は素直に感心する。
彼女がデッドウルフの体というのもあると思うが、それだけじゃなく彼女の経験則によって選択される道も疲れていない理由にあるのだろう。あの洞窟の周りだけとは言え、彼女は長い年月この階層に囚われていたのだ。積もった雪を歩く時の心得も雲泥の差だ。
── あとはレベル差だな。
正直俺はかなり強い方だと思う。エレナやアラクネを見ている、もちろん上には上がいるのは知っているがそれでもレベル45だ、共和国でも恐らくは10本指には入るはず。
だが、ユミのステータスは俺を大幅に上回っていた。洞窟で確認した時点で、どの項目もSでレベルは驚愕の70。今は『代償成就』を食事を出したり、体温を保ったりすることに使用したため多少下がってはいるだろうが、俺より強いのは確実だ。
── 一体どれだけの年月をこの層で過ごし、どれだけの魔物を狩ってきたのだろうか。
俺は彼女のこれまでに思いをめぐらせ、その全てを無駄にしないためにもやはり俺がこんなことで挫けてはいけないな、と改めて自覚した。
***
「前方、何かいるみたいです」
ようやく長く険しい登り道が途切れ、高原のような場所に到着した。一面真っ白に雪が積もる平らな場所は良く言えば索敵に長け、悪く言えば隠密性に欠ける。
やっと休める、と俺が取り敢えず腰を下ろした瞬間、ユミはやや強い口調でそう警告した。
「……確かに、まだ遠いが微かに見えるな」
ユミが指さす方向、まっすぐ前を目を凝らせば、確かに吹雪の中で赤い光が遠くで揺らめいているのが見える。『雪火の山岳』に生息する魔物は『雪火』の名の通り、そのどれもが体に火を灯しているとされている。そうでもしなければ体温を正常に保てないのだろう。かく言う、俺たちも明かり兼暖を取るために<炎柱>を発動している。
この距離、この視認状況の悪さなら向こうからも同じように赤い火だけが見えているはずだ。ユミが<鑑定>で前方の敵を確認している間、俺は後ろの警戒をする。
「出ました」
ユミが鑑定結果に目を落とし、俺は後ろの警戒をやめて、その報告に耳を傾……待て、さっきの火はどこへ行った? ユミが今、鑑定結果を見るために目を離した隙、その一瞬でどこへ行ける?
「ランブルタイガー、雷を使う虎の見た目をした魔物で、雷による遠距離攻撃と、雷速を身に纏う高速移dyっ!?」
──ドンッ!!!
頭上からの殺気、背筋が凍るような死の恐怖に身体が支配されそうになる中、精一杯の力で俺はユミを突き飛ばした。
「っ痛!」
突き飛ばした両腕が一瞬光った! かと思えば次の瞬間には真っ黒に焦げ炭化している。
「あ゛ぁぁぁ!!! っ<治 癒>!!!」
焼き潰された部分から伝わる尋常じゃない熱、それを一瞬でも自覚しないうちに俺は根性で<治癒>を発動させる。
「ガォォ……!!」
両腕が完治するのとほぼ同時、後ろから聞こえた鳴き声、咄嗟に俺は左に飛びながらアレを使うことを心に決める。リカが使っていた最強の魔法、この場所ではぶつける壁が無いが、この高原から突き落とすだけでも十分だ。
「<重力操作>!!!」
「待って!! 魔法反射がある!!」
── えっ?
俺が後ろに居るであろうランブルタイガーに放った重力操作、具体的には落下方向が横になる力。
それがそっくりそのまま俺に跳ね返るなら?
理解するより先に、俺の身体が横に、虚空に落下を始めた。
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