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3人目

実感

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 決闘場を思わせる円形の広間の中心に魔人は静かに浮かんでいた。奴のコマのような尖り地面と反発している下半身を除けば輪郭は人と変わらなかった。

「ふうむ、環境に後から適合したのだろうな」

 隣でリカが言う通り、魔人の容姿は4層という環境を最大限活かした様相だった。表面がすべて鏡のような結晶に覆われており、4層の鏡に覆われた洞窟という環境も相まって視認性が著しく乏しいのだ。

「<鑑定アプレーザル>!」
「……ヴゥン゛」

 <鑑定アプレーザル>により、奴もこちらに気付く。だがまだ攻撃を仕掛けてこない。おそらくは俺たちがまだ広間に足を踏み入れていないからだろう。

 魔人種、個体名ラウザーク。
 魔人種、人型に近くはあるが悪魔族と違い会話は不可能で動物のくくりに入る魔物だ。一つとして同じ個体が居ないため、種族名ではなく個体名によって識別され、また倒し消滅したとしても一定時間が経過すると復活する。低い出現頻度と強さゆえに未だ生態に謎が多い。

「しかし、魔法が効かないとはのぉ」
「らしいな」

 隣でリカも何らかの手段で情報を得ているようだが、ラウザークは魔法を全て反射するらしい。だというのに奴は魔法を使って攻撃する、と書いてあるのだからなかなか厳しいものだ。

「リカ王、ここは下がるべきでは」
「今更改まっても願いは聞かんぞ。それに奴を倒さねばこの先に進めん」

 せっかくの王呼びの効果も虚しく、俺の意見は一蹴された。奴を解析したい、というのが彼女の一番の目的だというのはキラキラしたその瞳を見るだけで分かるが、それでも確かに彼女の意見も正しい。言う通りに奴を倒した先に5層に降りる道がある可能性があるからだ。

── だが、それでも勝てない戦いはすべきではない。

「何をごちゃごちゃ考えてる、ほれっ」

 どん──と、俺の背中をリカは蹴飛ばす。

「あっ」
「ヴンッ」

 俺の身体が奴の縄張りに入り、後ろから蹴られたせいで膝をついて俺が前に倒れこむ、それとほぼ同時にさっきまで俺の頭があった場所を火球ファイアボールが襲った。危うく俺を消し炭にしかけたその火球ファイアボールは壁を溶かし、消滅する。

「っぶね!!」
「せいぜい頑張って戦ってくれ、わしはここから観察しておる」
「はっ!?」
「なあに、危なければ助けに入る。それに勝て……あっ、次がもう来とるぞ」

 後ろの安全圏からリカが言う通り、再び火球が俺に向かってきている。

「くそっ、<瞬歩>っ!」

 速度自体は大したことがない火球、それを俺はスキルによって予備動作無しに左へ避ける。だがそれを読んでいたのか、今度は俺が避けた先にもう一撃、魔法で作られたであろう剣が超高速で迫っていた。
 
 ザシュッ──嫌な音を立てて俺の両足の腱があっさりと切断される。立っていられなくなって俺は両膝をついてしまう。しかし魔人が待ってくれるはずもない、左前方から低速の3つの火球、右前方から高速の水の網、正面前からはさっきと同じ目で捉えることすら難しい速さの剣が無数に。

「<治癒ヒール>!!」

 スキルで傷を回復し、現状復帰をまずは果たす。

「<疾走スプリント><軽量化ウェイトリダクション><空中歩行>!!」

 さらに今出せる最高速を! 
 背後の壁を蹴り、宙に浮かぶ。進むは正面上だ。火球ファイアボール水網アクアネットのような非物理に当たると<治癒ヒール>が間に合わない可能性が高い。

 そう考え、迫り来る大量の魔法剣マジックソードの隙間を縫うように駆ける。

── 俺、こんなに速かったか?

 数百の魔兎とフレイムサーペント、そして雫とセージの犠牲によって俺は自分が思うよりも強くなっていたようだ。俺が全力で宙を蹴る度に、空気が震えるのが分かる。これなら、ラウザークも目で追うことすら叶うまい。

 奴の死角である真上に一瞬で移動する。

「ヴゥッ……?」
「遅ぇ!! <クナイ>!」

 刹那の視界外からの攻撃、だが

── 硬いっ!! 

 何となく分かっていたが<クナイ>の刃はあっさりと、その体表の結晶に弾かれる。だが、こういう時のセオリーは知っている。関節だ、全身防御でも体を動かすために関節は柔らかい素材になっている。

「<隠密ハイド>っ!」
「……?」

 ラウザークが上に目をやった頃には、俺の姿は再び一瞬にして消えている、今度は速度ではなくスキルによって。

── 勝てる!

 自身の思っていた以上の成長に俺がそう油断した時だった。
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