深きダンジョンの奥底より

ディメンションキャット

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3人目

死地

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「キエッッ」

 攻撃が簡単に届くだけマシだが、驚くことにクリスタルバードは走るのも速かった。フラフラと滑稽かつ不規則なリズムで軽快にデッドウルフの連携の取れた攻撃を右に左に避ける。
 
「ヴァウッ!!」

 リーダー格らしきデッドウルフが何か吠え、その声とほぼ同時にの5匹が俺とクリスタルバードを中心に円を形成する。完全に包囲する形になったデッドウルフはみな同時にこちらに向けて口を開き、何か高エネルギーな何かが紫光を発する。
 
「──ま ず 死っ

 ブォン──空気が震える音と共に一瞬にして俺の視界が光で満たされる。瞼を閉じても瞳が焼かれるほどの熱が超速で迫り来る中、隣でクリスタルバードが鉱石を周りに生成する音が聞こえる。

 鉱石が俺とクリスタルバードを囲むように幾重にも配置され一時的に視界が確保される。石にかけられた魔法を<鑑定アプレーザル>で見れば<大小変換サイズシフト>と表示された。鉱石に向こうから破壊した攻撃を小さく、こちらから破壊した攻撃を大きくする効果だ。

 だが、

── これじゃ無理だ。

 いちばん外層の石が既に破壊され、徐々に鉱石のドームの内部に熱がこもりだす中で思考をフル回転させる。逆に隣でクリスタルバードは思考する暇も惜しいと言ったふうに汗を滲ませながら必死の鉱石生成で壁を増やし続けていた。

 今、俺たちを襲っている幾重の壁を壊しながらも止まる気配の無い攻撃は、かの有名な<死咆デスロア>だろう。触れたもの全てを無条件で分解しながら、目標に到達するまで絶対に止まらない最凶のスキルだ。

 触れたもの全てというのだから、物理的障壁はなんの意味も持たない。いくら攻撃自体が小さくなってもなんの意味もない。

── アレをやってみるしかない、か。

「っ<反転リバース治癒ヒール>!」

 発声とともに、俺の掌からも禍々しい紫の光が放たれる。向かってくる<死咆デスロア>に合わせて、俺も6方向に向けて撃ち込む。

 <治癒ヒール>の効果を逆転させることで対象に対し無条件破壊を行えるという俺が持つ唯一の遠距離攻撃。残念ながらこの場合『超回復』は効果を発揮しないようで、単に俺の弱い回復スキルが逆転するだけなので一撃必殺とはいかない。

 だが、今ならクリスタルバードが設置した<大小変換サイズシフト>のスキルがある。恐らくは<死咆>と同じ仕組みの攻撃、さらに俺の方が今は攻撃の規模が大きい。

「なら、相殺出来るはずだ!」

 濃い紫の光と光がぶつかり合う、接触した一瞬だけ漆黒が部屋中を照らし、驚くほど静かに、だが確実に<死咆デスロア>が消失した。

 だが、安心も束の間。デッドウルフだって<死咆>が相殺されようとしているのを黙って見ているわけがなく既に奴らは次の攻撃に入っていた。圧倒的俊敏性と連携の取れた鋭い爪と牙の攻撃、という死の鎌は喜ぶ俺とクリスタルバードに迫っていた。

「キィエェェェェェェエエエェ!!!!」

 先に隣でクリスタルバードの悲鳴が上がる、俺もスレスレで避けようとするが、右に体を捻った先にも2匹目の爪が迫っていた。

── これは死んだ。

 俺がそう悟ったとき

「ギャウン゛ッッ」

 突如、回避する俺に刺さるはずだったデッドウルフの爪が、その腕ごと消し飛んだ。

「はっ?」
 
 空気が震え、地面が震え、部屋全体が震える。さっきとは打って変わって太陽が顕現したと勘違いするほどの白い光が部屋全体を包み込んだ。眩しいがせめて状況を把握しなければ、と目を細めて部屋の中心を見れば驚くほど複雑な魔法陣が浮かんでいる。

 その魔法陣の紋様に俺は心当たりがあった。実際に見たことなんてないが噂には聞いている、転移の魔法陣は世界でいちばん複雑だ、と。

── まさか、エレナか……?

 エレナが現れる可能性に<隠密ハイド>を発動させる。デッドウルフもクリスタルバードも、本能的な警戒から一時的に攻撃を辞めて何かが現れるのを待つ。

 転移テレポート魔法、転移テレポートスキルは非常に高度なものだ。転移スキルは先天的なものなので使える人間が限られるのは仕方ないが、技術が物を言う魔法にしても一国に指で数える程しか使える人間は居ないだろう。

 そんな転移テレポート魔法から出てきたのは、1人の小柄な少女だった。
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