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幕間

終局

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 轟音と共に現れた3層の食物連鎖の頂点、誰もが程度の差はあれど一瞬、驚き対応が遅れる。
 だが魔物は待ってくれない。その巨大な体躯に似合わないスピードでイグニススコーピオンは最も近かったタカダマサトに急接近し、大きな鋏を振り上げた。

 集中の乱れはスキルの発動に悪影響をもたらす。僅かにタカダによる拘束が弛み、後ろで手を動かせることに気付いた俺は、思い付きの一手を打ってみることにした。これが成功すれば俺は暫くは誰にも追われないハズ……だ。

転移テレポート!」

 言葉と共にエレナから貰った転移石をイグニススコーピオンの攻撃を避けようとするタカダ マサトの背中に投げつける。煌々とした輝きが徐々に強まっていく転移石、俺は思わず目を瞑る。

「……っ!?」
「キュオォ゛ンン!!!!!!!!!」

 目を瞑っていても分かるほど激しい閃光を放つ転移石と、その光に目を焼かれたスコーピオンの絶叫の中、微かにタカダの驚きの声も聞こえた。

── だがもう遅い。

 もう一度瞬きした時には既にタカダと、イグニススコーピオンが姿を消していた。

「お前、何をっ」
「<隠密ハイド>」

 怒るアレスを無視して、拘束が消えた俺は最速でスキルを発動させて消える。

「面倒なことをしてくれたね」

 エレナは俺の狙いに気付いたんだろう、そう言って予想通りにもう1つ持っていた転移石を懐から取り出す。ひとつしかないなら俺にあっさり渡すはずが無いからな、やはり持っていたか。

 まあ、もう俺は関係ない。さっさと逃げよう。

 俺はさらに<疾走スプリント>と<空中歩行>によってさっき居た場所から移動する。その俺がちょうどエレナの頭上を移動している時だった、彼女は真上を見つめてこう言った。

「でも、私が<隠密ハイド>を破れると思わなかった?」

── へっ?

 がしっ、とエレナに脚を掴まれ引っ張られ地面に叩きつけられる。見えていないハズの俺の脚を、だ。俺はエレナに脚を持たれ、まるで物のように引き摺られるような形になる。

── マズいっ、転移させられる!

 転移、と今にも口にするだろうエレナの手を振りほどこうとするも、圧倒的力の差がそれを阻む。

「てr──」
「<糸絶バニッシュライン>」

 だが俺の転移をアラクネが黙って見ているわけがなく、横一線に糸の刃がエレナの胴体に向かって凄まじいスピードで襲う。これには流石のエレナも俺を離し、その糸を鎌で一瞬受け止め……ようとし、辞めて、上に飛んで避けた。<糸絶バニッシュライン>はエレナが避けた先に居た、まだ状況が呑み込めていなかったトーマスの上半身を軽々と落とす。

「<断撃ディメンションスラッシュ>!」
「<烈拳ブレイジングバラージ>!!!!」
「うーーん、時間切れね。仕方ない、今回はリューロ・グランツ、君の作戦勝ちだ」

 着地のタイミングに追撃を仕掛けたアレスの剣をエレナは軽々と白刃取りし、

転移テレポート

 再びの閃光を放ったあと、アレスとライアン共々消えた。

── よし! 作戦通りだ!

 完全に俺の思惑通りにことが進んだ。

 議会場に突如転移してきた帝国の人間と巨大で凶暴な魔物。イグニススコーピオンはところ構わず暴れ、首都で破壊の限りを尽くすだろうし、それを引連れてきた人間は転生者ときている。当然、共和国としてはエレナが無力化された上で転移石を奪われた、もしくはエレナが裏切ったと考え、魔物を使った帝国の攻撃としか思えないはずだ。魔王軍との戦いが控える中で、人間同士の戦争なんてしていられない。ならばエレナは一刻も早く戻って状況説明をしなければならない。
 三人転移が可能だったのは予想外だったが、そこは嬉しい誤算だった。

「私には見えないわ。だから、今回は諦めることにする」
「……」

 そして残ったのは<隠密ハイド>を使っている俺とアラクネのリィラ、だがアラクネは俺を感知出来ない。

「そうそう、ひとつだけ。教国には気をつけた方がいいわよ」
「……」
「じゃ、下層でまた会いましょう」

 アラクネはそれだけ言って、影に入った。
 ……か。


 
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