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一手

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「そうか……初めからこうすれば良かったのか」

 激しい戦闘をよそに、タカダは見えていないはずの俺を完全に捕らえ虚ろな目で呟く。おそらくは初めから俺が逃げないように、俺の周りに透明の手を配置していたんだろう。

「こうしておけば……エドだって」

 彼の元へと俺は物のように運ばれていく。抜け出したいが、腕ごと拘束されては抵抗も出来ないし、下手にスキルを使ったら絞め殺されそうな狂気を彼から感じた。

「<隠密ハイド>を解除しろ」

 従う他ない。
 俺がスキルを解除し姿を現せば、すぐにタカダは俺の両腕を後ろに回し片手で抑え、もう片方の手でナイフを首に突きつける。

「動くな」
「「……っ!?」」

 ナイフの冷たさよりも彼の声は冷たく、覚悟の滲む声色にアラクネもエレナも、驚いた表情で動きを止める。いつの間に、どうやって、という疑問もあるのだろう。

「良くやった! マサト!」

 俺を捕らえた上、アラクネもエレナの動きを制限出来たことにアレスもライアンもトーマスも勝利を確信して、タカダに駆け寄る。

「<糸」
「動くな!!! 動けばこいつを殺す!」

 スキルを発動させようとしたアラクネに再度警告するタカダ、俺の首にはナイフがより強く当てられる。もう誰もタカダを止められる者は居ないだろう。

「おい、エレナとかいったな。お前、帰る手段を持っているだろ、出せ」

 アレスの脅迫にエレナは俺の方を少しだけ、ちらりと見てからため息をつく。

「仕方ない……ね。もうリューロ・グランツに渡してあるんだけど。2人まで共和国議会に転移させられる転移石はあるわ」
「2人まで、」
「そう。かつ共和国に、よ」
「嘘じゃないだろうな?」
「もちろん」

 黙り込むアレス、同じようにタカダもライアンもトーマスも渋い顔をしていた。
 帝国側は困るだろう。俺を含めたら1人しかこの裏迷宮から出ることは叶わないのだ。つまり、3人を見捨てる必要がある。さらに転移先も問題だ、他国への無断転移など国際問題に発展しかねない。最悪、魔王軍との戦いより先に人族の間で戦争が起こる。

「どうす」
「待て」

 相談しようとしたアレスの声をタカダが止める。タカダはトーマスに何やら視線を送り、それにトーマスは神妙に頷いた。
 その瞬間だった。

 バァンッ!! ──という何かが弾けるような凄まじい轟音が俺たちを襲う。
 すぐに音のした方を向けば、壁が突き破られ崩落した瓦礫が粉塵をまきあげていた。

──誰がっ、いやがやった!?

鑑定アプレーザル

 タカダが冷静に鑑定を発動させる。

「イグニススコーピオン……この層の頂上種だ」

 

 
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