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幕間
一人と五人と蜘蛛一匹と
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「新手だと!?」
「へぇ……強いわね。ふふ」
存在を知られたエレナは少しため息をついてから、右腕を真っ直ぐ横に伸ばした。その腕はなにやら真っ暗な亜空間に音もなく吸い込まれる。だがそんなエレナの悠長な動きとは対称的に、アラクネも帝国一行も彼女の底知れない強さを肌で感じたからか、協力するように正面二方向から同時にエレナに攻撃を仕掛けた。
「<糸弾>……」
「<飛蔦連扇>!」
「<攻撃支援>!」
「……」
アラクネの放つ高密度の糸の弾、エドワードの支援とトーマスの魔法によって質量を増した木魔法、さらにタカダ マサトによるほぼ不可視の謎のスキル。
それら全ての攻撃を、エレナは亜空間から取りだした漆黒の大鎌を軽く振り、ギィィンッ── という耳障りな音ともに弾き落とした。
「なっ……」
誰のかも知れぬ驚きの声も束の間、初撃を防がれることを予想していたのか既に近接特化のアレスとライアンは左右から挟むようにエレナの懐に潜り込んでいる。さらに糸弾は地に叩き付けられた衝撃で割れ、中身が飛び出す。恐らくは元からそういう仕様なのだろう。エレナの足元を糸弾が割れたことにより拡散した蜘蛛の糸が縛る。
「<重撃><雷閃><断血>!」
「<烈火打ち><燐衝波>!」
雷光を纏う神速の大剣による左からの振り下ろし、炎熱を滾らせるグローブの的確に内臓を狙う打撃。さらに両脚はアラクネの糸によって行動不能。
これは避けられない! 俺が浅はかにもそう決めつけたその瞬間、エレナは
「よいしょっ、と」
攻撃全てをかわし、地面に刺さった大鎌の上に絶妙なバランスで立っていた。
何が起こったのか、特にエレナに近付きすぎていたアレスとライアンは何故か空を切った攻撃と、突如目の前に居た敵が視界から姿を消して、代わりに鎌が現れたことに状況が把握出来ずにポカンとしている。
遠くで傍観している俺だからこそ見えた、エレナの尋常ならざるその動きが。
まずエレナは拘束されている足元の地面をその蜘蛛の糸ごと鎌をくるっと回して抉った。だがまだ、切り離された地面の塊は足裏に残っている。故にエレナは突き立てた鎌を軸として、腕の力だけで全身を持ち上げ、足裏の邪魔なソレを、ほんの僅かな時間だけ先に接触しそうだったライアンの拳に対し掠めさせることで砕く。自由になったエレナはそのまま、逆上がりのように片足ずつ真上にあげ、後ろ上方向から振り下ろされる大剣の刀身を脚で撫ぜることで軌道をずらした。それから、もう一回転して、エレナは突き立った鎌の上に乗った、というわけだ。
── 訳が分からない。
見た光景を言葉にしても全くもって意味がわからないほどの、人並外れた神業。悠々と漆黒の鎌の持ち手に立ち、黒の服を着たエレナは、死神に見間違えるほどだ。
だが、俺以外の連中は驚いている暇なんて無い。
とん、と軽くエレナが鎌から飛ぶ。すぐに1番近く、リーチも長いアレスは先程宙を切って地面に刺さった剣を振り上げるが遅い。
「エド!」
アレスの警告に、後方から支援を行っていたエドワードはすぐに横に飛び退く。ほぼ同時に移動前の場所にエレナの放った斬撃波が襲う。しかし、それすら予想済みだったのか、既にエレナはエドワードの回避先で待ち構えていた。
ぱすっ── という軽い音と共に大鎌が神速で薙いだ。
「えっ?」
自身の身に何が起きたのかも把握していないのだろう。エドワードは戸惑いの表情を浮かべ、そしてその表情のまま首が地面に落ちる。
一瞬でひとりが死んだ。
「エ……ド?」
全員がその事実に戸惑った隙をエレナが逃すわけもなく。エドワードから1番近かったせいで、血溜まりに足を浸し硬直するトーマスに鎌が襲いかかる。だが、アラクネも獲物を狙うエレナの隙を見逃さない。
「<超加速><強毒付与><滅糸刃><操り人形>」
その八本の足とスキルが非人的な加速を生み出し、エレナの背後に急速に迫る。糸で作り出された細い刀で斬りかかりつつ、ついさっき死んだエドワードの身体すらも糸で操り2方向から同時に攻撃を仕掛ける。
「速いねえ!」
一方、エレナはというとそんなアラクネの攻撃を嬉しそうに簡単にいなしながら笑う。
5 対 1の戦いが、エレナの参戦によって一瞬にして4 対 2 対 1 となった。遠く離れた場所から他人事のように戦いを見ている俺だからこそ、エレナの恐ろしさはひしひしと伝わってきた。
── さて、どうするか。
俺の手にはまだ転移石が握られたままだった。
「へぇ……強いわね。ふふ」
存在を知られたエレナは少しため息をついてから、右腕を真っ直ぐ横に伸ばした。その腕はなにやら真っ暗な亜空間に音もなく吸い込まれる。だがそんなエレナの悠長な動きとは対称的に、アラクネも帝国一行も彼女の底知れない強さを肌で感じたからか、協力するように正面二方向から同時にエレナに攻撃を仕掛けた。
「<糸弾>……」
「<飛蔦連扇>!」
「<攻撃支援>!」
「……」
アラクネの放つ高密度の糸の弾、エドワードの支援とトーマスの魔法によって質量を増した木魔法、さらにタカダ マサトによるほぼ不可視の謎のスキル。
それら全ての攻撃を、エレナは亜空間から取りだした漆黒の大鎌を軽く振り、ギィィンッ── という耳障りな音ともに弾き落とした。
「なっ……」
誰のかも知れぬ驚きの声も束の間、初撃を防がれることを予想していたのか既に近接特化のアレスとライアンは左右から挟むようにエレナの懐に潜り込んでいる。さらに糸弾は地に叩き付けられた衝撃で割れ、中身が飛び出す。恐らくは元からそういう仕様なのだろう。エレナの足元を糸弾が割れたことにより拡散した蜘蛛の糸が縛る。
「<重撃><雷閃><断血>!」
「<烈火打ち><燐衝波>!」
雷光を纏う神速の大剣による左からの振り下ろし、炎熱を滾らせるグローブの的確に内臓を狙う打撃。さらに両脚はアラクネの糸によって行動不能。
これは避けられない! 俺が浅はかにもそう決めつけたその瞬間、エレナは
「よいしょっ、と」
攻撃全てをかわし、地面に刺さった大鎌の上に絶妙なバランスで立っていた。
何が起こったのか、特にエレナに近付きすぎていたアレスとライアンは何故か空を切った攻撃と、突如目の前に居た敵が視界から姿を消して、代わりに鎌が現れたことに状況が把握出来ずにポカンとしている。
遠くで傍観している俺だからこそ見えた、エレナの尋常ならざるその動きが。
まずエレナは拘束されている足元の地面をその蜘蛛の糸ごと鎌をくるっと回して抉った。だがまだ、切り離された地面の塊は足裏に残っている。故にエレナは突き立てた鎌を軸として、腕の力だけで全身を持ち上げ、足裏の邪魔なソレを、ほんの僅かな時間だけ先に接触しそうだったライアンの拳に対し掠めさせることで砕く。自由になったエレナはそのまま、逆上がりのように片足ずつ真上にあげ、後ろ上方向から振り下ろされる大剣の刀身を脚で撫ぜることで軌道をずらした。それから、もう一回転して、エレナは突き立った鎌の上に乗った、というわけだ。
── 訳が分からない。
見た光景を言葉にしても全くもって意味がわからないほどの、人並外れた神業。悠々と漆黒の鎌の持ち手に立ち、黒の服を着たエレナは、死神に見間違えるほどだ。
だが、俺以外の連中は驚いている暇なんて無い。
とん、と軽くエレナが鎌から飛ぶ。すぐに1番近く、リーチも長いアレスは先程宙を切って地面に刺さった剣を振り上げるが遅い。
「エド!」
アレスの警告に、後方から支援を行っていたエドワードはすぐに横に飛び退く。ほぼ同時に移動前の場所にエレナの放った斬撃波が襲う。しかし、それすら予想済みだったのか、既にエレナはエドワードの回避先で待ち構えていた。
ぱすっ── という軽い音と共に大鎌が神速で薙いだ。
「えっ?」
自身の身に何が起きたのかも把握していないのだろう。エドワードは戸惑いの表情を浮かべ、そしてその表情のまま首が地面に落ちる。
一瞬でひとりが死んだ。
「エ……ド?」
全員がその事実に戸惑った隙をエレナが逃すわけもなく。エドワードから1番近かったせいで、血溜まりに足を浸し硬直するトーマスに鎌が襲いかかる。だが、アラクネも獲物を狙うエレナの隙を見逃さない。
「<超加速><強毒付与><滅糸刃><操り人形>」
その八本の足とスキルが非人的な加速を生み出し、エレナの背後に急速に迫る。糸で作り出された細い刀で斬りかかりつつ、ついさっき死んだエドワードの身体すらも糸で操り2方向から同時に攻撃を仕掛ける。
「速いねえ!」
一方、エレナはというとそんなアラクネの攻撃を嬉しそうに簡単にいなしながら笑う。
5 対 1の戦いが、エレナの参戦によって一瞬にして4 対 2 対 1 となった。遠く離れた場所から他人事のように戦いを見ている俺だからこそ、エレナの恐ろしさはひしひしと伝わってきた。
── さて、どうするか。
俺の手にはまだ転移石が握られたままだった。
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