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幕間
登場
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「助けてあげましょうか?」
突如頭上から聞こえた女の声に俺は驚きのあまり心臓が止まりそうになる。
── 誰だ!? 一切気配が無かった!
咄嗟に立ち上がって真上を見る。
「うわっ!」
天井が映るはずの視界を女の顔が占めていて、思わず声が出てしまう。俺は上を向いているハズなのに、女の顔は俺と鏡合わせになるようにピッタリと合う。
「ふふ、そんなに驚かなくても良いじゃない」
艶のある声で女はそう言って、俺の頬を撫でる。彼女の長い黒髪は俺を包み込むように垂れ下がっていて、カーテンの中みたいな不思議な落ち着きを感じた。
── 待て、この女はどうやってぶら下がっている?
女の美しさと恐怖を混ぜた雰囲気に呑まれ、どこかへ逃げようとした疑問を理性で無理やり捕まえる。幸いにも直ぐに答えは女の髪の隙間に見えた。黒く細い脚、それはどう見ても人間のそれでは無く、蜘蛛の脚だった。
「……アラクネ!?」
上級悪魔のアラクネ。下半身が蜘蛛、上半身が人間の女の悪魔だ。悪魔族は普通の魔物とは違い、高い知能を有し会話も可能だ。だがそれでも人間の敵であることには変わらない。
「私はリィラ。魔王軍四天王ユーラ様が第一の下僕」
「魔王軍……だと?」
四天王のユーラということは『不敗のユーラ』のことだろう。確か『不敗のユーラ』は百年前、魔王が勇者に打ち滅ぼされる少し前に教国の聖女ミラと相打ちになったはずだ。その戦いの詩を街で何度も聞いたことがある。それに魔王軍は魔王が倒された百年前に一緒に壊滅したハズだ。残党が裏迷宮に潜んでいたのか?
クソっ、分からないことが多すぎる。だがそれでも確実なことがひとつ。俺の命がかつてない危機に瀕しているということだ。
「さて、お喋りはこのくらいにして……少しだけ眠ってね」
「なっ……」
── あれ? 言葉が出ない!?
口を開こうとしたのに、舌を動かそうとしたのに思った通りに体が動かない。痺れた手先から察するに麻痺、だろう。
そんな中、女の指先の爪から紫の液体、恐らくは毒が零れる。爪は頬を撫で、どんどんと首に近付いてくる。
先の女の言葉「少しだけ眠ってね」から察するに俺をどこかに連れていく気だろう。つまり命の危機は無いはずだ。
ここは無理に抵抗しない方が生存できるだろう、と俺が諦めて目を瞑った時だった。
「待て、[転生者の篝火]は帝国が頂く」
力強い自信を思わせる声が背後から聞こえた。俺と女の後ろにはいつの間にか、五人のパーティが立っていた。その全員が人並外れた力を持っていることが俺にもひしひしと伝わってくる。
「ついでに蜘蛛女の首も持ち帰るとしようじゃないか」
ニヤリ、と凶悪にリーダーらしき金髪の男は笑った。
突如頭上から聞こえた女の声に俺は驚きのあまり心臓が止まりそうになる。
── 誰だ!? 一切気配が無かった!
咄嗟に立ち上がって真上を見る。
「うわっ!」
天井が映るはずの視界を女の顔が占めていて、思わず声が出てしまう。俺は上を向いているハズなのに、女の顔は俺と鏡合わせになるようにピッタリと合う。
「ふふ、そんなに驚かなくても良いじゃない」
艶のある声で女はそう言って、俺の頬を撫でる。彼女の長い黒髪は俺を包み込むように垂れ下がっていて、カーテンの中みたいな不思議な落ち着きを感じた。
── 待て、この女はどうやってぶら下がっている?
女の美しさと恐怖を混ぜた雰囲気に呑まれ、どこかへ逃げようとした疑問を理性で無理やり捕まえる。幸いにも直ぐに答えは女の髪の隙間に見えた。黒く細い脚、それはどう見ても人間のそれでは無く、蜘蛛の脚だった。
「……アラクネ!?」
上級悪魔のアラクネ。下半身が蜘蛛、上半身が人間の女の悪魔だ。悪魔族は普通の魔物とは違い、高い知能を有し会話も可能だ。だがそれでも人間の敵であることには変わらない。
「私はリィラ。魔王軍四天王ユーラ様が第一の下僕」
「魔王軍……だと?」
四天王のユーラということは『不敗のユーラ』のことだろう。確か『不敗のユーラ』は百年前、魔王が勇者に打ち滅ぼされる少し前に教国の聖女ミラと相打ちになったはずだ。その戦いの詩を街で何度も聞いたことがある。それに魔王軍は魔王が倒された百年前に一緒に壊滅したハズだ。残党が裏迷宮に潜んでいたのか?
クソっ、分からないことが多すぎる。だがそれでも確実なことがひとつ。俺の命がかつてない危機に瀕しているということだ。
「さて、お喋りはこのくらいにして……少しだけ眠ってね」
「なっ……」
── あれ? 言葉が出ない!?
口を開こうとしたのに、舌を動かそうとしたのに思った通りに体が動かない。痺れた手先から察するに麻痺、だろう。
そんな中、女の指先の爪から紫の液体、恐らくは毒が零れる。爪は頬を撫で、どんどんと首に近付いてくる。
先の女の言葉「少しだけ眠ってね」から察するに俺をどこかに連れていく気だろう。つまり命の危機は無いはずだ。
ここは無理に抵抗しない方が生存できるだろう、と俺が諦めて目を瞑った時だった。
「待て、[転生者の篝火]は帝国が頂く」
力強い自信を思わせる声が背後から聞こえた。俺と女の後ろにはいつの間にか、五人のパーティが立っていた。その全員が人並外れた力を持っていることが俺にもひしひしと伝わってくる。
「ついでに蜘蛛女の首も持ち帰るとしようじゃないか」
ニヤリ、と凶悪にリーダーらしき金髪の男は笑った。
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