11 / 124
2人目
黒田誠司の任務
しおりを挟む
視点: 黒田 誠司
────────────────────────
仄かに明るい第一層、俺はただ目的の為に歩き続ける。他国のダンジョン故に、教王により与えられた地図情報だけが頼りだ。
「ん、居るな」
すぐ前の曲がり角に、<探知>に魔物が引っかかった。<隠密>を発動させた上で、壁に出来るだけ張り付くようにして最短距離で角を曲がり、勢いのままナイフを魔物が居るであろう場所に突き立てる。
───グサッ
心地よい音と共に「ギィヤァァァ!!」と叫んだのは
「なんだ、ゴブリンか」
ゴブリン程度なら問題は無い。というか、そもそも初めの一突きが成功した時点で、相手は虫の息だろう。俺のナイフにはオーガ程度なら一秒と経たず昏倒する毒属性が付与されているからだ。
「ヤ゛ァァァ……ウ゛ゥ゛……」とか蹲って呻いてるゴブリンの横をささっと通り抜けて、さらに進んでいく。
「裏迷宮の近くの魔物は強い、と聞いていたがこのぐらいなら問題ないな」
だが、ミノタウロスが出たとしたなら話は別だろう。事実、目的の人間はミノタウロスによって裏迷宮に追い落とされたと言うのだから警戒は解けない。
そんなふうに静かに、ゆっくりと確実に魔物を一撃で仕留めながら進んでいく中、ふと教王の『セージよ、[転生者の篝火]を殺せ。そしてここまで運ぶのだ』という指令が思い出された。
教国密殺員『隠』が一人である俺の元へ、教王自身わざわざ訪れてまで下した指令だ。機密性で言っても最高レベルの任、失敗は許されない。
教国の算段としては[転生者の篝火]を大聖堂にて復活させ、恩を売った上で保護という名の軟禁を行い、篝火の力により引き寄せられる転生者を独占するつもりなのだろう。
だが、それは転生者にとっては良いことだと俺は思う。少なくとも共和国の利益主義の連中に馬車馬の如く働かされたり、王国や帝国の戦争道具として人殺しを強制されることなど無いのだから。
[転生者の篝火]が出現する前五年から転生は観測され始めるらしい、そう教会で習った。俺、黒田誠司もその転生者の一人であり、教会には恩がある、グランツという人間には申し訳ないが今後現れるであろう転生者の為にも、今回の任は重要なものだ。
─── 気を引き締めないとな。
改めて、課された任の責の重さを自覚し、より一層慎重に進む。だから、だからこそ気付いた。この先、壁を曲がってすぐ傍に人間が複数居ることに。
数は、7もしくは8だろうと気配で読み取る。<隠密>が発動してる上、転生者特典である『忍びの術』がある限り、俺が出す音、匂い、気配は全て無かったことになるから見つかる心配はゼロに等しく、そこに関しては安心だ。
地図によると、そこは崩落を起こしたミノタウロスの魔法の発動場所だった。
─── 共和国の、崩落の調査班だろうな。
そうアタリをつけて、目を出すと複数人がしゃがみこんだり、残留魔素の解析をしたりしているのが見えた。共和国の兵が2人、冒険者が6人、そして気配では読めなかった女がひとryっ!?
─── バレた!?
突如、振り返った女。慌てて俺は「スキル<影潜り>」とだけ唱えて隠れる。
「エレナ様、何かありましたか?」
「いえ……いや」
エレナと呼ばれたその女は兵士の質問に首を横に振りかけ、止めた。そしてこちらに向かって真っ直ぐ指をさす。
「あちらから、誰かに見られた気がします」
「ホントですか!?」
「おい、エレナ様が嘘をつくわけねぇだろ」
思わず驚いたように疑いの声を上げた若い兵に、その上司らしい兵が苦言を呈す。
「すみません、エレナ様、こいつには後で言っておくんで。それでどうしますか?」
「今日のところは帰りましょうか。冒険者さん達も疲れたでしょうし」
エレナ、俺はその名前に聞き覚えがある。
どこにでもいる名前ではあるが、兵に敬われる立場であり、俺の視線に気づくほどの傑物となれば殆ど確実に俺の知っているエレナだろう。『罪斬りのエレナ』、共和国最強の賞金首狩りであり、2年前に引退した伝説の冒険者だ。
彼女らが去るのを確認した俺は今生きている幸運に感謝し、それでも暫くは影から出る気がしなかった。
────────────────────────
仄かに明るい第一層、俺はただ目的の為に歩き続ける。他国のダンジョン故に、教王により与えられた地図情報だけが頼りだ。
「ん、居るな」
すぐ前の曲がり角に、<探知>に魔物が引っかかった。<隠密>を発動させた上で、壁に出来るだけ張り付くようにして最短距離で角を曲がり、勢いのままナイフを魔物が居るであろう場所に突き立てる。
───グサッ
心地よい音と共に「ギィヤァァァ!!」と叫んだのは
「なんだ、ゴブリンか」
ゴブリン程度なら問題は無い。というか、そもそも初めの一突きが成功した時点で、相手は虫の息だろう。俺のナイフにはオーガ程度なら一秒と経たず昏倒する毒属性が付与されているからだ。
「ヤ゛ァァァ……ウ゛ゥ゛……」とか蹲って呻いてるゴブリンの横をささっと通り抜けて、さらに進んでいく。
「裏迷宮の近くの魔物は強い、と聞いていたがこのぐらいなら問題ないな」
だが、ミノタウロスが出たとしたなら話は別だろう。事実、目的の人間はミノタウロスによって裏迷宮に追い落とされたと言うのだから警戒は解けない。
そんなふうに静かに、ゆっくりと確実に魔物を一撃で仕留めながら進んでいく中、ふと教王の『セージよ、[転生者の篝火]を殺せ。そしてここまで運ぶのだ』という指令が思い出された。
教国密殺員『隠』が一人である俺の元へ、教王自身わざわざ訪れてまで下した指令だ。機密性で言っても最高レベルの任、失敗は許されない。
教国の算段としては[転生者の篝火]を大聖堂にて復活させ、恩を売った上で保護という名の軟禁を行い、篝火の力により引き寄せられる転生者を独占するつもりなのだろう。
だが、それは転生者にとっては良いことだと俺は思う。少なくとも共和国の利益主義の連中に馬車馬の如く働かされたり、王国や帝国の戦争道具として人殺しを強制されることなど無いのだから。
[転生者の篝火]が出現する前五年から転生は観測され始めるらしい、そう教会で習った。俺、黒田誠司もその転生者の一人であり、教会には恩がある、グランツという人間には申し訳ないが今後現れるであろう転生者の為にも、今回の任は重要なものだ。
─── 気を引き締めないとな。
改めて、課された任の責の重さを自覚し、より一層慎重に進む。だから、だからこそ気付いた。この先、壁を曲がってすぐ傍に人間が複数居ることに。
数は、7もしくは8だろうと気配で読み取る。<隠密>が発動してる上、転生者特典である『忍びの術』がある限り、俺が出す音、匂い、気配は全て無かったことになるから見つかる心配はゼロに等しく、そこに関しては安心だ。
地図によると、そこは崩落を起こしたミノタウロスの魔法の発動場所だった。
─── 共和国の、崩落の調査班だろうな。
そうアタリをつけて、目を出すと複数人がしゃがみこんだり、残留魔素の解析をしたりしているのが見えた。共和国の兵が2人、冒険者が6人、そして気配では読めなかった女がひとryっ!?
─── バレた!?
突如、振り返った女。慌てて俺は「スキル<影潜り>」とだけ唱えて隠れる。
「エレナ様、何かありましたか?」
「いえ……いや」
エレナと呼ばれたその女は兵士の質問に首を横に振りかけ、止めた。そしてこちらに向かって真っ直ぐ指をさす。
「あちらから、誰かに見られた気がします」
「ホントですか!?」
「おい、エレナ様が嘘をつくわけねぇだろ」
思わず驚いたように疑いの声を上げた若い兵に、その上司らしい兵が苦言を呈す。
「すみません、エレナ様、こいつには後で言っておくんで。それでどうしますか?」
「今日のところは帰りましょうか。冒険者さん達も疲れたでしょうし」
エレナ、俺はその名前に聞き覚えがある。
どこにでもいる名前ではあるが、兵に敬われる立場であり、俺の視線に気づくほどの傑物となれば殆ど確実に俺の知っているエレナだろう。『罪斬りのエレナ』、共和国最強の賞金首狩りであり、2年前に引退した伝説の冒険者だ。
彼女らが去るのを確認した俺は今生きている幸運に感謝し、それでも暫くは影から出る気がしなかった。
30
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく。
Gai
ファンタジー
不慮の事故によって亡くなった酒樹 錬。享年二十二歳。
酒を呑めるようになった二十歳の頃からバーでアルバイトを始め、そのまま就職が決定していた。
しかし不慮の事故によって亡くなった錬は……不思議なことに、目が覚めると異世界と呼ばれる世界に転生していた。
誰が錬にもう一度人生を与えたのかは分からない。
だが、その誰かは錬の人生を知っていたのか、錬……改め、アストに特別な力を二つ与えた。
「いらっしゃいませ。こちらが当店のメニューになります」
その後成長したアストは朝から夕方までは冒険者として活動し、夜は屋台バーテンダーとして……巡り合うお客様たちに最高の一杯を届けるため、今日もカクテルを作る。
----------------------
この作品を読んで、カクテルに興味を持っていただけると、作者としては幸いです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
貴方の隣で私は異世界を謳歌する
紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰?
あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。
わたし、どうなるの?
不定期更新 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
異世界転生でチートを授かった俺、最弱劣等職なのに実は最強だけど目立ちたくないのでまったりスローライフをめざす ~奴隷を買って魔法学(以下略)
朝食ダンゴ
ファンタジー
不慮の事故(死神の手違い)で命を落としてしまった日本人・御厨 蓮(みくりや れん)は、間違えて死んでしまったお詫びにチートスキルを与えられ、ロートス・アルバレスとして異世界に転生する。
「目立つとろくなことがない。絶対に目立たず生きていくぞ」
生前、目立っていたことで死神に間違えられ死ぬことになってしまった経験から、異世界では決して目立たないことを決意するロートス。
十三歳の誕生日に行われた「鑑定の儀」で、クソスキルを与えられたロートスは、最弱劣等職「無職」となる。
そうなると、両親に将来を心配され、半ば強制的に魔法学園へ入学させられてしまう。
魔法学園のある王都ブランドンに向かう途中で、捨て売りされていた奴隷少女サラを購入したロートスは、とにかく目立たない平穏な学園生活を願うのだった……。
※『小説家になろう』でも掲載しています。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
カティア
ファンタジー
疲れ切った現実から逃れるため、VRMMORPG「アナザーワールド・オンライン」に没頭する俺。自由度の高いこのゲームで憧れの料理人を選んだものの、気づけばゲーム内でも完全に負け組。戦闘職ではないこの料理人は、ゲームの中で目立つこともなく、ただ地味に日々を過ごしていた。
そんなある日、フレンドの誘いで参加したレベル上げ中に、運悪く出現したネームドモンスター「猛き猪」に遭遇。通常、戦うには3パーティ18人が必要な強敵で、俺たちのパーティはわずか6人。絶望的な状況で、肝心のアタッカーたちは早々に強制ログアウトし、残されたのは熊型獣人のタンク役クマサンとヒーラーのミコトさん、そして料理人の俺だけ。
逃げるよう促されるも、フレンドを見捨てられず、死を覚悟で猛き猪に包丁を振るうことに。すると、驚くべきことに料理スキルが猛き猪に通用し、しかも与えるダメージは並のアタッカーを遥かに超えていた。これを機に、負け組だった俺の新たな冒険が始まる。
猛き猪との戦いを経て、俺はクマサンとミコトさんと共にギルドを結成。さらに、ある出来事をきっかけにクマサンの正体を知り、その秘密に触れる。そして、クマサンとミコトさんと共にVチューバー活動を始めることになり、ゲーム内外で奇跡の連続が繰り広げられる。
リアルでは無職、ゲームでは負け組職業だった俺が、リアルでもゲームでも自らの力で奇跡を起こす――そんな物語がここに始まる。
冷遇ですか?違います、厚遇すぎる程に義妹と婚約者に溺愛されてます!
ユウ
ファンタジー
トリアノン公爵令嬢のエリーゼは秀でた才能もなく凡庸な令嬢だった。
反対に次女のマリアンヌは社交界の華で、弟のハイネは公爵家の跡継ぎとして期待されていた。
嫁ぎ先も決まらず公爵家のお荷物と言われていた最中ようやく第一王子との婚約がまとまり、その後に妹のマリアンヌの婚約が決まるも、相手はスチュアート伯爵家からだった。
華麗なる一族とまで呼ばれる一族であるが相手は伯爵家。
マリアンヌは格下に嫁ぐなんて論外だと我儘を言い、エリーゼが身代わりに嫁ぐことになった。
しかしその数か月後、妹から婚約者を寝取り略奪した最低な姉という噂が流れだしてしまい、社交界では爪はじきに合うも。
伯爵家はエリーゼを溺愛していた。
その一方でこれまで姉を踏み台にしていたマリアンヌは何をしても上手く行かず義妹とも折り合いが悪く苛立ちを抱えていた。
なのに、伯爵家で大事にされている姉を見て激怒する。
「お姉様は不幸がお似合いよ…何で幸せそうにしているのよ!」
本性を露わにして姉の幸福を妬むのだが――。
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる