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2人目

黒田誠司の任務

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視点: 黒田 誠司 
────────────────────────

 仄かに明るい第一層、俺はただ目的の為に歩き続ける。他国のダンジョン故に、教王により与えられた地図情報だけが頼りだ。

「ん、居るな」

 すぐ前の曲がり角に、<探知サーチ>に魔物が引っかかった。<隠密ハイド>を発動させた上で、壁に出来るだけ張り付くようにして最短距離で角を曲がり、勢いのままナイフを魔物が居るであろう場所に突き立てる。

 ───グサッ

 心地よい音と共に「ギィヤァァァ!!」と叫んだのは

「なんだ、ゴブリンか」

 ゴブリン程度なら問題は無い。というか、そもそも初めの一突きが成功した時点で、相手は虫の息だろう。俺のナイフにはオーガ程度なら一秒と経たず昏倒する毒属性が付与されているからだ。

 「ヤ゛ァァァ……ウ゛ゥ゛……」とか蹲って呻いてるゴブリンの横をささっと通り抜けて、さらに進んでいく。

「裏迷宮の近くの魔物は強い、と聞いていたがこのぐらいなら問題ないな」

 だが、ミノタウロスが出たとしたなら話は別だろう。事実、目的の人間はミノタウロスによって裏迷宮に追い落とされたと言うのだから警戒は解けない。

 そんなふうに静かに、ゆっくりと確実に魔物を一撃で仕留めながら進んでいく中、ふと教王の『セージよ、[転生者の篝火]を殺せ。そしてここまで運ぶのだ』という指令が思い出された。

 教国密殺員『カクレ』が一人である俺の元へ、教王自身わざわざ訪れてまで下した指令だ。機密性で言っても最高レベルの任、失敗は許されない。

 教国の算段としては[転生者の篝火]を大聖堂にて復活させ、恩を売った上で保護という名の軟禁を行い、篝火の力により引き寄せられる転生者を独占するつもりなのだろう。

 だが、それは転生者にとっては良いことだと俺は思う。少なくとも共和国の利益主義の連中に馬車馬の如く働かされたり、王国や帝国の戦争道具として人殺しを強制されることなど無いのだから。

 [転生者の篝火]が出現する前五年から転生は観測され始めるらしい、そう教会で習った。俺、黒田誠司もその転生者の一人であり、教会には恩がある、グランツという人間には申し訳ないが今後現れるであろう転生者の為にも、今回の任は重要なものだ。

 ─── 気を引き締めないとな。

 改めて、課された任の責の重さを自覚し、より一層慎重に進む。だから、だからこそ気付いた。この先、壁を曲がってすぐ傍に人間が複数居ることに。

 数は、7もしくは8だろうと気配で読み取る。<隠密ハイド>が発動してる上、転生者特典である『忍びの術』がある限り、俺が出す音、匂い、気配は全て無かったことになるから見つかる心配はゼロに等しく、そこに関しては安心だ。

 地図によると、そこは崩落を起こしたミノタウロスの魔法の発動場所だった。

 ─── 共和国の、崩落の調査班だろうな。

 そうアタリをつけて、目を出すと複数人がしゃがみこんだり、残留魔素の解析をしたりしているのが見えた。共和国の兵が2人、冒険者が6人、そして気配では読めなかった女がひとryっ!?

 ─── バレた!?

 突如、振り返った女。慌てて俺は「スキル<影潜りシャドウダイブ>」とだけ唱えて隠れる。

「エレナ様、何かありましたか?」
「いえ……いや」

 エレナと呼ばれたその女は兵士の質問に首を横に振りかけ、止めた。そしてこちらに向かって真っ直ぐ指をさす。

「あちらから、誰かに見られた気がします」
「ホントですか!?」
「おい、エレナ様が嘘をつくわけねぇだろ」

 思わず驚いたように疑いの声を上げた若い兵に、その上司らしい兵が苦言を呈す。

「すみません、エレナ様、こいつには後で言っておくんで。それでどうしますか?」
「今日のところは帰りましょうか。冒険者さん達も疲れたでしょうし」

 エレナ、俺はその名前に聞き覚えがある。

 どこにでもいる名前ではあるが、兵に敬われる立場であり、俺の視線に気づくほどの傑物となれば殆ど確実に俺の知っているエレナだろう。『罪斬りのエレナ』、共和国最強の賞金首狩りであり、2年前に引退した伝説の冒険者だ。

 彼女らが去るのを確認した俺は今生きている幸運に感謝し、それでも暫くは影から出る気がしなかった。
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