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エレナのため息
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視点:魔物対策室長エレナ
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
「一層にミノタウロスが? それは本当か!?」
領主はその醜く太った腹で机を揺らしながら、私が言ったことをオウム返しする。一瞬その様子を滑稽と思ってしまったが、そういえば私も部下から報告を受けた時、持っていた書類全てをばらまくという同じような失態を晒した気がする。
「はい。現在確認が取れている被害としては、ダンジョンの一部通路が崩落による損壊。またスライム討伐の依頼を受けたパーティーがミノタウロスに遭遇したようでして」
「ふむ……詳しく教えてくれ」
珍しく神妙な面持ちの領主に私は少し感心した。金のことしか興味が無いと思っていたが存外民のことも考えているらしい。
「死亡者のうち損壊が激しいもののどうにか身元が確認出来た者はBランクの戦士エディ、同ランク僧侶ローザの二名。また、血痕と肉片しか残っていなかったものの解析魔法により身元が判明したのはBランクの魔法使いアンです」
視覚共有魔法によって、その現場を見た時のことを思い出して私は少し身震いしてしまう。
仕事柄、凄惨な死体は幾度と無く見てきたがその中でも特に酷い光景だった。特に魔法使いの女に関しては元が人間だということが信じられない有様で、おかげで私が次に見せられたのは現地調査班の吐瀉物だったぐらいだ。
「ああ、いや人間の被害はどうでもよい」
「はっ……?」
領主は淡々と、興味無さげに言葉を続ける。
「それよりダンジョンの通路が崩落したことについて、考えられる利益面での損失を。それがお前の仕事だろう」
こんなことも分からないのか、と机をカツカツと爪で鳴らしながらそれだけ言って、私の言葉を待つ領主はやはり領主だった。
さっき抱いた私の感心を返して欲しい。だがまぁ崩落については今回の事件で最も不可解な点がある。どちらかと言うと私も領主に聞いて欲しいのはこれから話すことだ。
「……それでは、ダンジョン面での被害ですが。少々不可解な点がありまして、まず崩落したと思われる通路は以前まで無かっ」
「おい」
苛立たしげなその声に、私は反射的にビクッとなる。
「重要なのはダンジョン鉱石や魔石の産出量だ。減るのか? 増えるのか? どっちなんだ」
「変わらない……と思います」
私の言葉に領主は満足気に頷き、「下がれ」と言った。部屋を出る時に最後に見えた、奴がワインを机から引っ張り出す汚い笑顔を私は一生忘れないだろう。
こうして領主への報告を終えた私は足早に与えられた『魔物被害対策室』と書かれた部屋に戻る。
存在しなかったはずの通路。血で書かれた誰が残したか分からない道標。高度な魔法が使われた痕跡。生き残ったと思われるCランクの冒険者の行方。
残された多くの謎、この事件はまだまだ尾を引きそうだ。
「取り敢えず、討伐隊と捜索隊の帰りを待つしかない……か」
願わくば、Cランクの彼が生きて見つかりますように。
私はそう女神様に祈り、残された遺族へせめて状況を伝えるための文書を考えることにした。
一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一一
「一層にミノタウロスが? それは本当か!?」
領主はその醜く太った腹で机を揺らしながら、私が言ったことをオウム返しする。一瞬その様子を滑稽と思ってしまったが、そういえば私も部下から報告を受けた時、持っていた書類全てをばらまくという同じような失態を晒した気がする。
「はい。現在確認が取れている被害としては、ダンジョンの一部通路が崩落による損壊。またスライム討伐の依頼を受けたパーティーがミノタウロスに遭遇したようでして」
「ふむ……詳しく教えてくれ」
珍しく神妙な面持ちの領主に私は少し感心した。金のことしか興味が無いと思っていたが存外民のことも考えているらしい。
「死亡者のうち損壊が激しいもののどうにか身元が確認出来た者はBランクの戦士エディ、同ランク僧侶ローザの二名。また、血痕と肉片しか残っていなかったものの解析魔法により身元が判明したのはBランクの魔法使いアンです」
視覚共有魔法によって、その現場を見た時のことを思い出して私は少し身震いしてしまう。
仕事柄、凄惨な死体は幾度と無く見てきたがその中でも特に酷い光景だった。特に魔法使いの女に関しては元が人間だということが信じられない有様で、おかげで私が次に見せられたのは現地調査班の吐瀉物だったぐらいだ。
「ああ、いや人間の被害はどうでもよい」
「はっ……?」
領主は淡々と、興味無さげに言葉を続ける。
「それよりダンジョンの通路が崩落したことについて、考えられる利益面での損失を。それがお前の仕事だろう」
こんなことも分からないのか、と机をカツカツと爪で鳴らしながらそれだけ言って、私の言葉を待つ領主はやはり領主だった。
さっき抱いた私の感心を返して欲しい。だがまぁ崩落については今回の事件で最も不可解な点がある。どちらかと言うと私も領主に聞いて欲しいのはこれから話すことだ。
「……それでは、ダンジョン面での被害ですが。少々不可解な点がありまして、まず崩落したと思われる通路は以前まで無かっ」
「おい」
苛立たしげなその声に、私は反射的にビクッとなる。
「重要なのはダンジョン鉱石や魔石の産出量だ。減るのか? 増えるのか? どっちなんだ」
「変わらない……と思います」
私の言葉に領主は満足気に頷き、「下がれ」と言った。部屋を出る時に最後に見えた、奴がワインを机から引っ張り出す汚い笑顔を私は一生忘れないだろう。
こうして領主への報告を終えた私は足早に与えられた『魔物被害対策室』と書かれた部屋に戻る。
存在しなかったはずの通路。血で書かれた誰が残したか分からない道標。高度な魔法が使われた痕跡。生き残ったと思われるCランクの冒険者の行方。
残された多くの謎、この事件はまだまだ尾を引きそうだ。
「取り敢えず、討伐隊と捜索隊の帰りを待つしかない……か」
願わくば、Cランクの彼が生きて見つかりますように。
私はそう女神様に祈り、残された遺族へせめて状況を伝えるための文書を考えることにした。
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