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第三章 『落ちた薬莢』

CHAPTER.45 『驚きは、知ることの始まり』

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男は一言、誉の聞き取れない言語を発したあと直ぐに日本語でこう言った。

「静かにしろ、騒ぐな、気取られるな」

誉の額に突きつけられた銃口。
引き金に手をかけた状態で、男は冷たい目で誉を見る。

「お前は何者だ?お前とあの男はただの人間か?」

やや戸惑いを隠せない声色で惣一を顎で指しながら男は問う。

「そうや」

誉は出来るだけ小声で相手の機嫌を損なわないように、それだけ答える。まだ寝ているプロ子や魔女一行が起きれば、戦闘が起きるのは目に見えていた。そうなれば情報を得るどころの話ですらない。

「ただの人間が魔女と何をしている?」

誉はこの男が魔女と敵対する存在であると察した。ただ、何をしている、という質問にはどう答えればいいか言葉に詰まった。

「……言えないのか?それなら」
「ちょっと待って、いや……その俺らはただの旅行……」

何かしようとした男に、誉は苦し紛れに急いでそう答える。

「そこの魔女らが、本部からの召喚を受けたことは知っている」

男は下手な嘘は通用しない、と言いたげに魔女たちの情報を口にする。が、誉だって自分たちが何故フランスに向かってるか知らない。ただ暇だったから着いてきただけだ。

「いや、ホンマ申し訳ないねんけど。魔女らの目的は知らんねん」

誉の言葉を聞いて、男は少し顔をしかめた。

「訛りが強いな」
「あっ、ごめんなさい。えっと……申し訳ないのですが、魔女たちの目的は知らないです」

誉が素直に言い直すのを聞きながら男は、腕時計にちらっと目をやった。

「Le temps presse」
「え?」
「もう時間だ。収穫ナシじゃ許されないからな」

男は短く呟き、まだ夢の世界に居るエメに銃口を向ける。

「起きろ!」

誉は咄嗟に、銃を持っている男の腕にしがみつく。

「くそっ、邪魔だ!」

誉の体重で男の腕が下がり、誉が座っていたソファ向けて引き金が引かれる。バンっ、という耳をつんざく発砲音で誉の耳が機能を停止する。弾丸はまっすぐソファへと吸い込まれ、寝ていた全員が目を覚ました。

「敵!?」

マノンが真っ先にこちらを見て、目を見開いて叫ぶ。

「火魔……いや、戦闘は頼んだよ!」
「うん!水魔法マージドゥルゥ波壊はかい』!!」

猛々しく迫る水の壁を、男は懐から出したナイフで一刀両断。左右に分かたれた水流は勢いはそのまま、誉と惣一を安全圏まで運ぶ。
二ネットはエメに何やら指示を出しながら、ビジネスクラスの方へ向かう。

「ooh-la-la !」

男はそう言って笑いながら、水圧で傷付いたナイフを持っていた右手の甲を見ながら、左手だけでプロ子を相手取る。プロ子が何か攻撃をしようとするその、予備動作の段階で男は全てその動きを止める。

「うぜえな、陰魔法マージドゥブル使役コントロール……風の精霊』」

男へと襲いかかる突風、かろうじて体重移動で男が躱した風の刃はソファを切り刻んだ。ほっと男が一息ついたのも束の間、第2第3の見えない刃が襲いかかる。

水魔法マージドゥルゥ『絶海の三叉』!」

マノンが手に現れた三叉槍を、狭い機内でも器用に回しながら男に近付く。流れるような体捌きとは反対に繰り広げられる怒涛の連撃。
男は軽く突風を避けながら、プロ子を掌底で吹き飛ばし、三叉槍の鋭い突きを躱し、いなし、重く打ち降ろされた先端をナイフで軽く受け止める。

「マノン!使役は重い、一回切れるぞ!」

汗を流しながらファイエットが小声で何か呟くと、風の流れが一瞬元に戻る。その動きにマノンが目をやった、その一秒にも満たない隙に男は、視界から逃れるように体勢を低くして懐まで一気に潜り込む。
マノンが再び前の男に攻撃を放とうと、目を戻した時にはもうそこには居ない。

「マノン!下や!」

惣一の言葉も、もう遅い。
男はナイフで、マノンの腹を横に切り裂こうとしたその瞬間。
ガタンっ、という衝撃と共に、がたがたと震えだした飛行機。着陸の揺れで、座り込んでいた男の姿勢も崩れる。それを見たマノンは転んだ男に一直線に、三叉槍を振り下ろす。
が、しかし男は仰向けに寝転がった状態から、マノンの足を蹴って転ばせ、自分は後ろ回りをするようにして立つ。

「オルヴォワール、さようなら」

転んだマノンを見ながら男は、余裕の表情でホコリをはらいつつ、滑走路を走る飛行機の窓から飛び出していった。
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