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第二章 『トリプルナイン』
CHAPTER.39 『利を計りて、以って聴き、』
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少し街の中央から離れた場所にある四階建ての廃ビル。それがエルフ達の拠点だった。
その入口の前で待機するのは、誉、惣一、プロ子、エレーヌの四人。エメ、エレーヌ以外のSESの面々とナキガオ、ダブルは既に屋上にて、突撃の時間を待っている。
午後三時、一分前。
誉と惣一は緊張の表情を浮かべる。
真正面から敵との戦いになる今回の作戦、プロ子や魔女たちは人間である誉と惣一は来ないように勧めたが、みんなが命を賭ける中で自分たちだけが安全な場所に居るというのは彼らの性分に合わなかった。
それに、誉と惣一にも攻撃手段がないわけではない。彼らが手に持つ『武器屋』のアイテムは、十二分に人外相手に通用するものばかりだ。
「突入!」
誉がドアを勢いよく開ける、と同時にプロ子と惣一はすぐ左の階段を駆けあがる。時軸が有るのは二階中央、と事前にマノンから聞いていたので真っ先に向かったのだ。
「おー、時間ぴったり。ボスの言った通りっスね!」
軽い口調で、エレーヌと誉を迎えたのは長い金髪をお団子に結った少女。半袖半ズボンのスポーツウェア、健康的に焦げた肌、軽く跳ねただけで彼女の運動神経の良さが伺える。
「あ、自己紹介しときます!自分、ライって言います!」
「あれ、通してええの?」
誉はミラの自己紹介をスルーして、階段を上がっていった二人のことを聞いた。
「いいッス、ボスに言われたのは貴方たち二人の対処だけですから!」
誰が何時に来るか、まで視られていた。おそらくは、戦い方も既に視られているだろう。分かっていたことだが誉は『未来視』の厄介さに顔をしかめた。
パチン、とライが指を鳴らす。
「……っ!」
誉の身体が一瞬、宙に浮く。
胃が持ち上がる感覚で誉は真下の床が崩れ落ちたことに気づいた。一緒に落下するエレーヌが咄嗟に翼を展開、誉を抱きかかえて救出する。
「やっぱり『蓄積』っぽいね」
事前にダメージを床に『蓄積』、解除することで床が突然壊れたかのように見せる、という攻撃。
エレーヌは、誉に言われた通りの相手が言われた通りの攻撃方法をしてきたことに、目を丸くしながら呟く。
「『未来視』でどこに『蓄積』すればいいかの最適解を選択できるからな、想定内や」
誉とエレーヌで倒せると踏んでいたのは、『成長加速』と『植物改造』の二人だった。そして、誉が勝てないと考えたのは『蓄積』の使い手。だからこそ、誉は向こうが『蓄積』をぶつけてくると想定していた。
「やっぱり、自分の能力もバレてるんスね!」
初撃を躱され、能力も言い当てられたライだが驚いた様子もない。全てが、ボスに伝えられた通りに事態が進行しているからだろう。
お互いが想定通り、『未来視』通りの戦いが始まった。
一方、四階、屋上からの階段を降りてすぐの場所。
「さて、予想通り敵サンは『成長加速』みたいだね」
「……」
ニネットは、しわくちゃになったダブルが生みだした自分のドッペルゲンガーを見ながら、不敵に呟く。
能力を当てられたことに対しても無表情、無言を貫く赤いローブを羽織り、赤いフードを深くかぶる男。鋭く魔女を睨み、触れただけで相手を死へ至らしめる手を前に構える。
「誉と惣一の言ったとおりになったわね」
「ちっ、つくづくムカつく野郎だぜ」
「……瞠目結舌」
マノンとファイエット、シヴィルも思わず驚きを口にする。
寿命不定の天使、アンドロイドに対して『成長加速』による老化は効かない。そして、向こうも『未来視』によってその事実は把握している。つまり、『成長加速』を使える敵が向けられるのは、魔女一行となる。
誉と惣一はそこまで読んで今回の作戦のチーム分けを考えていた。
「ま、私たちは言われた任務をすればいいのさ。なぁ、ナキガオ!」
「ええ、こちら準備万全です」
後方でなにやら機械をいじっていたナキガオは、そう言って前に出てきた。その手には、白銀色に輝く球体が握られていた。
「……」
男は一層警戒感を強める。
「そんなに警戒しなくとも大丈夫です、気持ちは分かりますが。貴方たちのボスも、この後の貴方の未来は視えなかったんでしょう?いや、『姿を消した』みたいに視えるんでしょうか?」
「……」
「『未来視』と言っても全知では無いですからね。つまり、此処から離れてしまえば良いワケです」
ナキガオが手にしている球体のアイテムは、この一か月間で誉がジェントルに作らせたものだった。機能は一つ、テレポートだ。
男もナキガオの言葉でそれを察したが、逃げずにテレポートを受け入れるように目を瞑った。
「自分がテレポートされることまで分かっていても逃げない。良い勇気です」
ナキガオは本心から、男を褒めてこう叫ぶ。
「テレポーテーション!」
フロア中を真っ白な光が満たし、誰もが目を閉じる。
そして再び、ナキガオが目を開けた時には男の姿は消えていた。
「ふむ……」
「ボサっとしてないで降りるよ!」
二ネットに急かされるナキガオだったが、まだ動こうとしない。
「すみません!私も彼のところにテレポートしようと思います」
「はぁっ?」
ファイエットが理解不能なものを見る目でナキガオを見た。ファイエットだけじゃない、SESの誰もがナキガオの意図が分からなかった。
「ここから、私の役目も特にないですし、お願いします」
「私もついて行く」
唯一、ナキガオの考えを理解していたダブルもそう言った。
「分かった。じゃあ私らは先に行っとくからね」
「ちょっと二ネット!良いの!?」
「良いのさ、何か考えがあるんだろう?」
「ええ」
ナキガオはそう言って、テレポートの準備を始めた。
「じゃ、私たちは下へ降りるよ」
ニネットを先頭に、マノン、ファイエット、シヴィルの四人は三階へと続く階段を下りてゆく。
「よし……次は『植物改……って、なにこれ!?」
マノンは、三階に下りた瞬間叫んだ。先に着いていたニネットもあまりの光景に、茫然と立ちつくす。
「うるせぇな、敵にバレちま……わっ、すご」
「……」
ひとり無言のシヴィルも目は驚いている。
それもそのはずだ、三階のフロアはジャングルと化していたのだから。
「おっ、来たねぇ。時間ぴったし」
森の奥から聞こえたのは少女の声、姿は見えないが十代後半だろう、とファイエットはあたりを付ける。
「私はローザ。よろしk」
「火魔法『清炎』」
「え、ちょ」
ローザの名乗りを無視してニネットは、腕を一振りして炎を前方に放った。
「あ、ちょ、ダメだって!あーあ……」
ニネットが放った火は一番近くの木を包み込み、更に隣の木、その下の草に次々と引火していく。
そして、そのまま炎は――消えた。幹に吸い込まれるように火は失われる。
「なっ、」
「……なんつって。魔法対策なんてしてるに決まってるじゃん。キミ達が魔法をぶつければぶつけるほど、私の森は成長しまーす」
その言葉通り、ニネットの火で焼かれた木々はより逞しく、彼女らを通せんぼする。
「誉の言った通り、ここも簡単には通れなさそうね」
その頃、二階ではプロ子と惣一がボスと対峙していた。
「名乗っておこう。俺の名はグラン、お前たちを殺す名だ」
グランは、以前に会った時と同じような服に身を包んで、部屋の中央に立ち背後のケースに入れられた時軸を守っていた。
「惣一、カメラは?」
グランをまっすぐ見ながら、小声でプロ子はそう言った。
「大丈夫、電波良好、写りもヨシ」
「ん、じゃあ行ってくる」
「頑張って、僕もちまちま援護はするから」
惣一はカメラを持つ手と逆の手に握っている『武器屋』のアイテムをちらり、と見せる。
「作戦会議は終わったか?……っておいおい、そこの男は隠れるのか!情けねぇな!」
グランの言った通り、惣一は階段の陰へと隠れ、プロ子がそれを守るように立った。
「安っぽい挑発だね。『未来視』で知ってたくせに驚いたフリ?」
「その口上も既に視たぜ、アンドロイドの嬢ちゃん」
そして、二階でもプロ子とグランの戦いが始まった。
その入口の前で待機するのは、誉、惣一、プロ子、エレーヌの四人。エメ、エレーヌ以外のSESの面々とナキガオ、ダブルは既に屋上にて、突撃の時間を待っている。
午後三時、一分前。
誉と惣一は緊張の表情を浮かべる。
真正面から敵との戦いになる今回の作戦、プロ子や魔女たちは人間である誉と惣一は来ないように勧めたが、みんなが命を賭ける中で自分たちだけが安全な場所に居るというのは彼らの性分に合わなかった。
それに、誉と惣一にも攻撃手段がないわけではない。彼らが手に持つ『武器屋』のアイテムは、十二分に人外相手に通用するものばかりだ。
「突入!」
誉がドアを勢いよく開ける、と同時にプロ子と惣一はすぐ左の階段を駆けあがる。時軸が有るのは二階中央、と事前にマノンから聞いていたので真っ先に向かったのだ。
「おー、時間ぴったり。ボスの言った通りっスね!」
軽い口調で、エレーヌと誉を迎えたのは長い金髪をお団子に結った少女。半袖半ズボンのスポーツウェア、健康的に焦げた肌、軽く跳ねただけで彼女の運動神経の良さが伺える。
「あ、自己紹介しときます!自分、ライって言います!」
「あれ、通してええの?」
誉はミラの自己紹介をスルーして、階段を上がっていった二人のことを聞いた。
「いいッス、ボスに言われたのは貴方たち二人の対処だけですから!」
誰が何時に来るか、まで視られていた。おそらくは、戦い方も既に視られているだろう。分かっていたことだが誉は『未来視』の厄介さに顔をしかめた。
パチン、とライが指を鳴らす。
「……っ!」
誉の身体が一瞬、宙に浮く。
胃が持ち上がる感覚で誉は真下の床が崩れ落ちたことに気づいた。一緒に落下するエレーヌが咄嗟に翼を展開、誉を抱きかかえて救出する。
「やっぱり『蓄積』っぽいね」
事前にダメージを床に『蓄積』、解除することで床が突然壊れたかのように見せる、という攻撃。
エレーヌは、誉に言われた通りの相手が言われた通りの攻撃方法をしてきたことに、目を丸くしながら呟く。
「『未来視』でどこに『蓄積』すればいいかの最適解を選択できるからな、想定内や」
誉とエレーヌで倒せると踏んでいたのは、『成長加速』と『植物改造』の二人だった。そして、誉が勝てないと考えたのは『蓄積』の使い手。だからこそ、誉は向こうが『蓄積』をぶつけてくると想定していた。
「やっぱり、自分の能力もバレてるんスね!」
初撃を躱され、能力も言い当てられたライだが驚いた様子もない。全てが、ボスに伝えられた通りに事態が進行しているからだろう。
お互いが想定通り、『未来視』通りの戦いが始まった。
一方、四階、屋上からの階段を降りてすぐの場所。
「さて、予想通り敵サンは『成長加速』みたいだね」
「……」
ニネットは、しわくちゃになったダブルが生みだした自分のドッペルゲンガーを見ながら、不敵に呟く。
能力を当てられたことに対しても無表情、無言を貫く赤いローブを羽織り、赤いフードを深くかぶる男。鋭く魔女を睨み、触れただけで相手を死へ至らしめる手を前に構える。
「誉と惣一の言ったとおりになったわね」
「ちっ、つくづくムカつく野郎だぜ」
「……瞠目結舌」
マノンとファイエット、シヴィルも思わず驚きを口にする。
寿命不定の天使、アンドロイドに対して『成長加速』による老化は効かない。そして、向こうも『未来視』によってその事実は把握している。つまり、『成長加速』を使える敵が向けられるのは、魔女一行となる。
誉と惣一はそこまで読んで今回の作戦のチーム分けを考えていた。
「ま、私たちは言われた任務をすればいいのさ。なぁ、ナキガオ!」
「ええ、こちら準備万全です」
後方でなにやら機械をいじっていたナキガオは、そう言って前に出てきた。その手には、白銀色に輝く球体が握られていた。
「……」
男は一層警戒感を強める。
「そんなに警戒しなくとも大丈夫です、気持ちは分かりますが。貴方たちのボスも、この後の貴方の未来は視えなかったんでしょう?いや、『姿を消した』みたいに視えるんでしょうか?」
「……」
「『未来視』と言っても全知では無いですからね。つまり、此処から離れてしまえば良いワケです」
ナキガオが手にしている球体のアイテムは、この一か月間で誉がジェントルに作らせたものだった。機能は一つ、テレポートだ。
男もナキガオの言葉でそれを察したが、逃げずにテレポートを受け入れるように目を瞑った。
「自分がテレポートされることまで分かっていても逃げない。良い勇気です」
ナキガオは本心から、男を褒めてこう叫ぶ。
「テレポーテーション!」
フロア中を真っ白な光が満たし、誰もが目を閉じる。
そして再び、ナキガオが目を開けた時には男の姿は消えていた。
「ふむ……」
「ボサっとしてないで降りるよ!」
二ネットに急かされるナキガオだったが、まだ動こうとしない。
「すみません!私も彼のところにテレポートしようと思います」
「はぁっ?」
ファイエットが理解不能なものを見る目でナキガオを見た。ファイエットだけじゃない、SESの誰もがナキガオの意図が分からなかった。
「ここから、私の役目も特にないですし、お願いします」
「私もついて行く」
唯一、ナキガオの考えを理解していたダブルもそう言った。
「分かった。じゃあ私らは先に行っとくからね」
「ちょっと二ネット!良いの!?」
「良いのさ、何か考えがあるんだろう?」
「ええ」
ナキガオはそう言って、テレポートの準備を始めた。
「じゃ、私たちは下へ降りるよ」
ニネットを先頭に、マノン、ファイエット、シヴィルの四人は三階へと続く階段を下りてゆく。
「よし……次は『植物改……って、なにこれ!?」
マノンは、三階に下りた瞬間叫んだ。先に着いていたニネットもあまりの光景に、茫然と立ちつくす。
「うるせぇな、敵にバレちま……わっ、すご」
「……」
ひとり無言のシヴィルも目は驚いている。
それもそのはずだ、三階のフロアはジャングルと化していたのだから。
「おっ、来たねぇ。時間ぴったし」
森の奥から聞こえたのは少女の声、姿は見えないが十代後半だろう、とファイエットはあたりを付ける。
「私はローザ。よろしk」
「火魔法『清炎』」
「え、ちょ」
ローザの名乗りを無視してニネットは、腕を一振りして炎を前方に放った。
「あ、ちょ、ダメだって!あーあ……」
ニネットが放った火は一番近くの木を包み込み、更に隣の木、その下の草に次々と引火していく。
そして、そのまま炎は――消えた。幹に吸い込まれるように火は失われる。
「なっ、」
「……なんつって。魔法対策なんてしてるに決まってるじゃん。キミ達が魔法をぶつければぶつけるほど、私の森は成長しまーす」
その言葉通り、ニネットの火で焼かれた木々はより逞しく、彼女らを通せんぼする。
「誉の言った通り、ここも簡単には通れなさそうね」
その頃、二階ではプロ子と惣一がボスと対峙していた。
「名乗っておこう。俺の名はグラン、お前たちを殺す名だ」
グランは、以前に会った時と同じような服に身を包んで、部屋の中央に立ち背後のケースに入れられた時軸を守っていた。
「惣一、カメラは?」
グランをまっすぐ見ながら、小声でプロ子はそう言った。
「大丈夫、電波良好、写りもヨシ」
「ん、じゃあ行ってくる」
「頑張って、僕もちまちま援護はするから」
惣一はカメラを持つ手と逆の手に握っている『武器屋』のアイテムをちらり、と見せる。
「作戦会議は終わったか?……っておいおい、そこの男は隠れるのか!情けねぇな!」
グランの言った通り、惣一は階段の陰へと隠れ、プロ子がそれを守るように立った。
「安っぽい挑発だね。『未来視』で知ってたくせに驚いたフリ?」
「その口上も既に視たぜ、アンドロイドの嬢ちゃん」
そして、二階でもプロ子とグランの戦いが始まった。
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