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第一章 『隠された出会い』

CHAPTER.5 『私はあえてリスクをとる』

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 プロ子が居なくなった後、二人はまたテーブルについた。

「どうして、あんな嘘をついたんです?」

 そう聞いたナキガオは本当に不思議そうな表情を浮かべていた。

「ん? 何か嘘をついたっけ?」
「とぼけないで下さい。『くれぐれも、別の奴連れてきたりしないでくれよー!』『絶対に逃がすなよ』この二つ、ワザと嘘つきましたよね?」

 似ていない声真似をしながら、ナキガオは真剣に聞く。

「まぁ、ちょっとな聞きたいことあんねん」

 標準語で喋るのをやめた誉にナキガオは少し驚いた。

「……それが本来の貴方なんですか?」
「どうやろうな? これも演技かもしらんぞ」

 ひょうひょうと笑う誉に、ナキガオは不快感を示すことなく、むしろ尊敬の念を抱いているように見えた。

「ちょっと聞きたいことがあんねん。そこに隠れてるお前にもな」

 陰に隠れていた本当のデブにも、誉は声をかけた。


◇◇◇


 「はぁっ、はぁ……、」
「速いね、でも速いだけかな」

 二人は路地裏で止まった。息を切らしているデブでは無い男と、平然と追いついたプロンプターは会話を交わす。

「……どうだろう?」

 男はプロンプターと向かい合い不敵に笑い、そして息を切らしながら二人を後ろから追いかけてきた観察者は、そっとカメラを回し始めた。

 話には聞いていたが観察者が幾ら目を凝らしても彼女は全くアンドロイドには見えない。これが未来の技術か、と驚くと同時に、相対する男の人間とは思えない急速な筋肉の隆起に観察者は戦慄した。

 そして、戦いは静かに始まった。
 男が地面を思いきり踏みつける。と、同時に大地がゴォォ──と悲鳴を上げ、彼女が立っている場所が隆起する。

「あれ? ルダス星人じゃないの?」

 彼女はそう疑問を呈しながらも予想外の攻撃に戸惑うことなく、テクノロジーが可能にした超速伝達によって反射神経のみで、ひらりと片脚で浮遊し、攻撃を避け壁を蹴って男との間合いを詰める。

「……これ痛いんだよなぁ」
 
 が、しかし男はプロンプターの回避を予想していたのか、予め右手を彼女に向かって突き出していた。その手の指一本、一本が目で瞬間的にナイフへと変化し、一斉に彼女へと襲いかかる!

「うーん……物理攻撃だけじゃ、ちょっと私には及ばないんじゃない?」

 余裕の表情で煽る彼女は、眼前に現れたナイフに驚く様子もなく、一本、二本と鋼鉄の腕でそれらを弾き、いなし、時に叩き落とす。

「そんな訳ないだろう」

 ナイフを弾く間、数秒できた猶予で男は左手を壁にかざした。と、瞬間的に今度は両隣の壁が巨大な手の形に浮かび上がり、シンバルを叩くようにプロンプターを潰そうとする。

「いや、それも物理攻撃ですけど」

 目の前で起きる超人的な戦闘に観察者は、自分でも気付かぬうちに笑ってしまっていた。

 男が地形を操り、身体から様々な武器を出すのに対し、それをプロンプターは躱し、跳ね返し、男へ距離を詰めようとする。
 鋼鉄のボディに武器や弾丸が跳ね返る音、地形が絶え間なく変わる地響き、機械独特の駆動音がこの場を支配していた。

 が、そんな時間も長くは続かなかった。

「このままじゃイタチごっこだね」

 そう言ったプロンプターは立ち止まる。

「少しだけ、少しだけ。ギアを上げるね」

 関節部分が橙に光り、強力な熱を放出しながら空中で体のパーツが浮く。耳障りな高音と共に彼女の全身が変形を始め、強力な空間の歪みが起きた。

「勘弁して欲しいな」

 男には彼女のその相貌が空想上の産物である、天使に見えた。

「綺麗でしょ」

 彼女は宙に浮いていた。
 半透明の翼が背中には幾重にも重なり、足もコンパスのように尖っている。そして、何よりも目を引くのが彼女の身体の周りを跳ぶ幾つもの光輪だった。

 男の返事を待たず彼女は言葉を続けた。

「でもね、綺麗な薔薇にはトゲがあるの」


◇◇◇


  観察者はカメラを止めた。
 何かが焼け焦げたような匂いが残る路地裏には、彼女が立っていた。戦いと呼ぶには一方的だった記録を抱え観察者はその場を離れた。


◇◇◇


 プロ子がカジノへと戻ると、誉はナキガオと仲良く談笑をしていた。

「終わったよ」
「おぉ、お帰り。で、デブは?」

 ちらりと、プロ子はナキガオを見てこう答えた。

「あー、その話は後にしよ」
「それもそうか。じゃ」

 すっかり仲良くなった誉とナキガオを見て彼女は少し呆れた。

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