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第二章 葉月瑠璃

Episode19

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(41.)
 天気は雨。
 まるで僕の憂鬱な気持ちを代弁してくれている様子だ。
 9月18日の水曜日、朝。午前10時半ーー。
 最寄り駅から降りてしばらく歩いたところにある大通りを進み、僕と瑠璃は異能力者保護団体の施設前にやってきていた。

 あれから瑠璃はすぐ眠ってしまったのか、僕の返事がないから寝たのかはわからないんだけどーー今のいままでなにも訊いてこないまま朝を迎えた。僕はそのせいで不眠症気味だ。
 朝から返答に困っていた僕をよそに、昨夜のことは夢か何かだったのかとすぐにでも言いたくなるくらい、瑠璃はさの話題を口にしてもこない。で、今に至る。

 もやもやとした感情が頭を支配して離れない。
 しかし、率先して訊く気分にもなれないでいた。

「本当は自宅でもできるんだけど、法律がややこしいから」

 瑠璃はそう説明してくれた。
 たしかに、まえもわざわざ診断室だか診察室だかで検査したけれど、あそこでやる必要性がまるでなかった気がする。
 建物前の左右に広がる駐車場を通り過ぎ、正面入口と書かれている自動ドアから二人で中に入る。
 
 目前に広がるのは、大学病院の総合窓口だけだ。
 その周辺にはーー少しも、いや、誰一人として座っていないソファーが、相も変わらず陳列されている。

「ねえ、どうしてこんな、大学病院みたいに椅子が並んでるの?」

 瑠璃が愛を知らないだとか、恋をしたことが一度もないだとか、ああだこうだ云々から気を紛らわせるため、僕はどうでもいい質問をしてしまう。
 瑠璃への恋が終わったからといって、生理が来ることには変わりない。
 いまはまだ、異能力について気にすればいいだけだ。
 そうだろ、僕。

「え? ああ、それはーー」
「それはですね。国が異能力者が爆発的に増えると早とちりした結果、病院並みの広さになっているからです」
「え?」

 カウンターから答えが返ってきた。
 そこにいる声の主は、たしかにーーたしかにあの未来さんだ。 

「班長? 相変わらず受付でサボっているんですか? いいご身分ですね?」

 え?
 は、班長?

「葉月ちゃん? この見た目のときは、色彩しきさいちゃんって呼んでね?」
「この見た目……? というより、班長ってなに? だれ?」

 話に付いていけず、よくわからないまま、ついつい聞いてしまった。

「このひと、私の所属している調査課第2班のリーダー。こう見えてとっくにおばさんよ」
「おば、おばさん!?」

 どっからどう見ても10代半ばにしか見えないこの子が、おばさん!?

「だから、いまのわたしはピチピチなの、ね?」
「いいです。いいです。わかりましたから。今から異能力検査室借りるからね。あと、誰かひとり貸してください。昨日連絡したとおり、監視対象の“杉井豊花”に変化があり、気になる点が多々現れていますから」
「あ、はーい。ん? ああ、ならちょうど今、ガミョちゃんが帰ってきてくれているから、呼んでみましょうか?」
「来てるの!? 私が来る意味なくなっちゃったじゃない……はぁ」

 瑠璃は、怒り呆れが混ざっているような顔をしながらソファーに座り込む。
 そもそもガミョーーって誰だろう?
 ガミョちゃんて名前なのだろうか?
 外国人にしても、珍しい突飛な名前をしてるような……。

「さっき帰ってきたばかりだから仕方ないのよ。総谷くんと加治木さんも帰ってきてるけど、だれにおねがいする?」
「……いるなら美夜さんしか選択肢がないじゃない……そもそも、私が検査する必要もなくなっちゃったけど」

 瑠璃はぶぅ垂れる。

「そんなこと言わないの。異能力特殊査官ひとりの独断より、二人の判断のほうが確実性は上がるし、なによりも第1級異能力者特殊捜査官の手腕にも興味があるでしょう。ガミョちゃんの検査を見学すれば葉月ちゃんの知識に、ガミョちゃんが検査を受ければ間違いだって起こらない。損はないでしょう?」
「……わかりました。それでは、美夜さんはどこにいらっしゃいますか?」
「班の部屋に戻っているんじゃない? こっちで呼ぶ?」
「部屋……またか。まあいいや。それなら、そう伝えておねがいしますと言っておいてください」

 瑠璃はそれだけ言うと、近場のソファーにドカッと音を立てて再び勢いよく座った。

 なんだろう?
 瑠璃はちょっとだけ不機嫌だ。
 恋や愛や情を知らないというのに、なら怒りはなにが原動力になっているのだろう?

 そういう疑問が、少しだけ、ほんの少し頭に違和感を覚えた。
 なにか話題を変えようと、べつの話を訊くことにした。

「そういえば、未来さんの今の見た目って、いったいどういう意味なんですか?」

 容姿が容姿だから、ついつい年上だと忘れてしまいそうになる。

「こういうーー」

 え?
 一瞬、未来さんの空間が二重に歪み、瞬きする間に顔立ちはあまり変わっていない30歳ほどの女性が現れた。

「ーー意味だ。わかったか?」

 視界が朦朧としたかのように霧がかり視界が歪んだかと思うと、未来さんは、いきなり三十代半ばの見た目に成長していた。

「え、ええ、えっ? 未来……さん?」

 そこにいるのは、先ほどの少女が20歳ほど成長したような見た目をしている女性。
 だから、未来さんだというのはなんとなくわかる。
 未来さんの面影を残した顔立ちをしているが、三十路過ぎのそこら辺にいそうなおばさんーーは失礼かもしれないけど、いや、たしかに、うん。やっぱり普通のおばさんとしか言い表せない。瑠美さんより歳上の可能性すらあり得る見た目だ。

「私の名前は未来色彩みらいしきさい。異能力者保護団体横浜支部調査課第2班の指揮を担当している。異能力が少し被っていると思うか? だが」未来さんは付け足した。「きみとは違って、入れ替わりは自分の意志でできる。だが、きみみたいに可愛いまったく無関係の別人の姿にはなれない。つまり事情は大きく異なる」
「未来さん、異能力の不必要な使用は控えたほうがいいんじゃないですか?」
「べつにいいじゃないか。異能力者保護団体従事証明書もちゃんとある。規則違反にも法律違反にも当てはまらない」

 驚きつつも、なんだか希望が湧いてくる。
 ひょっとすると僕も将来、未来さんみたいに自由な変身が可能になるかもしれない。

「まったく、非常識極まりないぞ」

 通路の奥から、知らない女性の声が聞こえてきた。
 そちらに振り向くと、怪しげな格好をした女性がひとり。

 なんだろ、あの格好……魔女っ娘?

 なぜか黒いローブに身を包んだ女性、いや、女の子か。
 背が僕と同じくらいの女の子。少し高いくらいしかない。
 なぜ頭まで包まれているのに女性なのがわかるのかというと、単純に声だけではなく、胸が僕の正反対だからだ。ローブを介しても目立つくらい、自己主張しているのである。
 つまり、そう、おっぱいが大きい。目のやり場に困るくらい……。

「美夜さん、またそんな格好して……久しぶりに会えたかと思えば、またその変な儀式やってるんですか? 私、美夜さんのその姿以外見たことないんですけど」

 どうやら、この魔女っ娘こそ、話に挙がっていた美夜さんらしい。

「変な儀式じゃない、きみだっていつも制服じゃないか」
「美夜さんはもう学生じゃないですよね? うちの学校では、アルバイトなど労働をする際、あと、平日の外出時には制服の着用が義務づけられているからってだけです」

 へ?
 なにそれ初耳なんだけど。
 そういえばうちの学校って、無駄な校則がやたらと多かった気がする。
 先生ですら知らないほど風化しているから誰も守っていないのに、瑠璃はいちいち守っているのか……。

「これはボクの正装だぞ、変わらないじゃないか。ふん、まったく。小追儺儀礼しょうついなぎれいの最中に非常識だぞ」
「え、しょう?」

 しょうついなぎれいのさなか?
 というか、まさかのボクっ娘。
 現実で自分をボクと称す女の子なんてはじめて見た。
 長い黒髪、低い身長、大きな胸、長い睫毛……これでもかってくらい女だと主張しているのに、ボク、というのだから、さらに違和感があるのかもしれない。

「ボクは今、五芒星の小追儺儀礼をして、儀式を行うため場の祓いをしている真っ只中だったんだぞ、と言っているんだ。これがもし、儀式魔術の最中なら無視するところだぞ」
「は? あの、意味がよくわからないんだけど……」

 なんだか当たり前みたいに用語を出してくるけど、僕の異能力の知識は初心者。まったくわからーーあれ?
 困ってしまい周りをつい確認すると、未来さんはため息を溢し、瑠璃に至っては『またか』と呟きながら首を傾げてしまっていた。

「知らないのか? 基礎の基礎だぞ。そのていどのこと、ボクがきみくらいの年齢のときには既に知っていたぞ。勉強したまえ」

 いやいやいやいや聞いたことないから。
 いきなり説教されても……だいたい、やたら偉そう。きみくらいの年齢ってなんだよ。
 と、瑠璃は講釈を永久に垂れつづけそうな少女に近づき肩を叩く。

「美夜さん、それって何の用語? 初耳ですけど」
「ガミョ、カルトにハマるのは個人の自由だ。だがいまは勤務中だ。おまえのカルト信仰の時間じゃないんだ。仕事しろ」 
「カルトじゃなくて陰秘学オカルトだ! あとガミョはやめろといつもいつも言ってるじゃないか! ここにいる訪ねし者が勘違いをしたらどうするつもりだ? きみたちは異能力のことは認知するのに、魔術は認知しないという差別は即刻やめるべきだぞ」
「あの……僕の魔術のイメージって、箒に乗って空を飛んだりするんだけど、えっと、美夜ちゃん? が言っているのは、そういう魔術なの?」

 なかなか濃い女の子が登場したなぁ。
 魔術って言葉くらいなら、アニメや漫画でいくらでも出るから聞いたことくらいある。
 だけど、それが成り立つなら異能力と同じく問題になるだろう。
 
「どちらかといえば、それは魔術師ではなく魔女術ウィッチクラフトのイメージだ。だけど不可能じゃない」
「ええ!?」

 マジで!?

「箒も不要だぞ? ただ星幽アストラル体投射をするなりパスワーキングないしアストラルイニシエーション、まあ、なんでも構わない。とにかく、星幽界に赴けば、好きなように飛行可能だ」
「ええぇ?」

 マジで頭大丈夫!?

 と言いそうになり、慌てて思いとどまる。
 なんだろこの子……。

「そもそも訪ねし者よ、きみは歳上に礼儀がなっていないんじゃないか?」
「いや僕、こう見えても16だから」

 いや間違えるのも無理ないけどさ。

「このボクが未成年に見えると……言いたいのか、きみは? ここに来るまえに、早く眼科に行くべきだぞ……?」
「えっ、は、はい?」
「豊花、ちょっと豊花?」瑠璃が肩を叩き耳元に口を近づけてきた。「気持ちはわかるけど、あれでも美夜さん24だから」

 瑠璃が小声で教えてくれた。
 はい?
 24歳?
 そんなバカな話……。

「あっ、異能力!」

 そうだそれがあった。
 そもそも僕だって14歳以下の少女に見られてしまうけど、異能力なだけであって本来は男子高校生だ。
 自分や未来さんみたく姿を変える異能力だっ「ボクは異能力者じゃないからな? 歴とした大人だ!」て……ええ?

「は?」
「さっきから失礼だぞ!? ボクは正真正銘24歳! 異能力者みたいに努力もなしに奇跡を手にしただけの癖して、物質界に直接影響を及ぼせるようなズルい能力は持ちえていないからな!? ……わかったな?」
「……はい」

 ヤバい。なんだか逆鱗に触れてしまったらしい。
 そもそも美夜さんだって未来さんにため口じゃんーーとは口に出せないけど、さっき未来さんも含めきみたち言っていたよね?

 たしかによくよく見れば、二十歳くらいになら……見えなくもないかも……しれない。
 いやいや、どうだろ?
 いま僕が誰か知らないひとに『クラスメートの美夜ちゃんです』って言えば、疑われないんじゃないだろうか。
 高校生ならまだしも24歳は無理がある。
 むしろ、そっちのほうが嘘っぽい。

「ボクは 美夜みよ。現代を生きる魔術師だ」
「いいや異能力捜査官のガミョだ。昨日、一人東京に帰ってしまった。つまり、出張も正規も含め、神奈川県唯一無二の第1級異能力特殊捜査官ともいえる。頭が少し弾けてるのは勘弁してやってくれ」

 なんだろう?
 凄い肩書きなのかもしれないけど、格好いいとは思えないや。

「未来、きみは耳が腐っているのか? いい加減にしなければ呪術をかけるからな。甘く見るなよ、ボクはなにも、魔術だけに傾倒しているわけじゃない。呪術や呪詛といった類いも、魔女術も占星術も、密教や宗教、思想、心理学だって網羅している。きみひとり呪うくらい容易いんだからな」
「やめてくれ、カルト教団のメンバーをうちに寄越して私を勧誘する気だろ? やめろやめろ、私は無宗教なんだ、ほかを当たれ」
「そこの奴が眼科なら貴様は耳鼻科か脳外科に早く行くべきだな!? 耳か脳みそが腐っているに違いない! なにをどう聞き間違えたら、呪術が勧誘に聞こえるんだ!?」

 なんだか賑やかな人だ。
『きみ』から『そこの奴』や『貴様』に変わっているのが気になる。ただ、怒っていても、あんまり恐くないのはなぜだろう……ああ、多分あれだな。

「いいから早く見てやれ」
「なんだと!?」

 体を動かしているから、顔の下にある大きな性の象徴も仲良く怒ってしまっていた。激しいリズムを刻むように、ばよんばよん鳴りそうな揺れかたをしている。
 大きいからか、見ていても気まずいと感じない。
 ただ凄いなぁという感想のほうが勝る。恥ずかしくならないのだ。

 そのときーー。

「ーーおい、色彩」

 い!?

「いやぁあぁああっ! やぁぁ……」

 背後から突拍子もなく低く凛々しい声音の女声が聞こえ、恥ずかしい悲鳴を上げてしまった。
 しばらく美夜さんの双丘を観察して目を逸らさないでいたから、このひとの足音などに気づけなかったのかもしれない。
 いや……瑠璃や未来さんも、声には出していないけど、驚いて目を見開いている。
 いきなり未来さんと同輩くらいの長髪の女性が、僕の背後にいたのだ。
 眼鏡の奥には鋭い眼孔が覗かせている。
 最初からいたのか、現れたのか、わからない。
 見ているのに『居る』という気配がまるで感じられない。

 その女性は、やたら大きな黒いケースを持っていた。
 いや、それよりおかしなところがある。
 腰に刀を差している危険人物は、未来さんに向かって声をかけたらしい。
 数秒の間をおいて、未来さんが口を開いた。

「脅かすなよ……なんか用事か?」
「一言断っておいたほうがいいと思ってな。今日から明日にかけて、神奈川県を中心に新規異能力者が多発する。つまり、近辺の調査も必要になる。人手は集めておいたほうがいいだろう」

 え、異能力者が多発する?
 どうして、この女性、そんなことわかるんだろ?

刀子とうこ……いったいなにを始めるつもりだ」
「例の契約に従うだけさ。不服だが仕方ない。それに、奴らには個人的な義理もある。借りは必ず返すのが信条だ。ーーそこの子どもたちには伝わらないだろうが、おまえらにはわかるだろう?」

 刀子と呼ばれた女性は、僕と瑠璃を見たあと美夜さんと未来さんを見た。
 美夜さんは理解できているのか、なにやら渋い顔をしている。

「それが冒頭の理由に繋がる……まさか、決裂したのか? ここらに異能力者の集まりは二つしかない。つまり」

 二つ?
 あっ、そういえば、ありすが『愛のある我が家』とかいう犯罪集団と、『リベリオンズ』とかいう反国組織の話を聞いたなぁ……。
 ん? って、刀子?
 なんだか聞き覚えがある気がする。

「ああ、そういうことだ。敵の敵は味方とは、まさしく今の状況を指す言葉だ。今回に限って言えば、例の契約は損ではない。むしろ得とすらいえる。ここに仇なす連中はきょう、偶然皆揃い行方不明となる。一生、行方不明のままさ」

 ああ、そういえば、ありすが言っていたじゃないか。
 それに、静夜とかいう奴からも聞いた。
 ありすは『刀子師匠』とたびたび口にしていたし、静夜も『刀子さん』と言っていた。
 ヤクザやマフィアよりも恐ろしい存在と解釈できるようなことを口にしていた『刀子師匠』が、僕の目の前にいるのだ。

「引き受ける以上、真面目にやる。おそらく失敗はないだろう」
「失敗=死に繋がる仕事だからミスはできないとか、おまえの弟子は言ってなかったっけ? というより刀子からしくじったなんて話聞いたことないから確定か。はぁ、まあ、たしかに損じゃないけど、忙しくなるのかぁ」
「きみはまだいいじゃないか……高杉が東京に帰ってるから、ボクひとりで川崎に行き横浜に戻って、三浦半島ぐるりと回って湘南海岸を横目に茅ヶ崎や相模原、すべての市区町村を旅するんだぞ……研究所、しばらく休むんだろ、高杉のやつ。呼び戻してくれたまえ、リハビリとでも言って」
「何のリハビリだ、高杉可哀想だろ……。それに聞いた? あいつ、保護団体に対する疑心から来た心の病だってさ」

「多分明日おなかいたくなる。ボク有給使います」
「いきなり子どもになるなよ……無理、私も来るからおまえも出てこい。強制出勤、異能力者保護団体従事者の有給は世間の有給じゃない。法律は建前、実際は使っていいと言われなきゃ使えないの。神奈川県には隠し特別ルールがあるんだよ、知らない?」
「……はぁ」

 未来さんと美夜さんは、なぜかゲンナリした表情を浮かべため息をついている。
 なにかが引っ掛かる。異能力者の現れる理由がわかるような錯覚がした。
 いまの会話のなかに異能力者が多発する理由なんてなさそうだけど……自身の聞いてきた話と経験から、なにかが繋がるような気がしてならない。

「成功なぞ断言できることなんてないさ。それに、どうにもならないことは私にも多々ある。しくじりそうな依頼は最初から受けない。ただそれだけだ」

 刀子さんはそれだけ言うと振り返り、外へと立ち去った。

「あの、私には言っている意味がわからないんだけど、さっきのひとと未来さんは知り合いですか? いったいなにが?」
「ああ、うん、昔馴染み、古い友人だ。それより二人とも、早く杉井くんの検査をしてやれ。いつまでも待たせたら失礼だろ」

 腑に落ちないが、僕にはなにも言えない。
 瑠璃はちょっと訊いただけなのか、あまり興味はなさそうだ。
 美夜さんはなにか知っているからか、さっきまでごちゃごちゃ言っていたのに、命じられたとおり素直に僕と瑠璃の手を掴み『行こう』と引っ張る始末。

 そのまま、僕たち三人は前回と同じ『検査室』に向かうのであった。
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