サブタイトル詐欺につき……

さく

文字の大きさ
上 下
1 / 3

貪る青い血の野獣

しおりを挟む
 その#もの本気・・はこの世に生を受け、1年と少々。人語を介さず、手づかみで獲物を捕らえると口に運び咀嚼する。
 時折その口から発する言葉は「あー」とか「うー」とか、そういう言語の体をなしていなかった。
 まさに野獣と呼べる……

 ん?

「ちょっと、あなた?」
「ハイ」
「自分の娘を捕まえて野獣はないんじゃないの?」
「いや、ちょっと軽い冗談を」

 ……すまない。ひょっとすると自分のギャグのセンスは壊滅的なのかと疑ってはいる。
 いや、でも、自分では面白いと思っているのだ。
 だから、妻よ。
 お願いだから、そう、私のことを蔑むような白い目で見るのはやめていただけないであろうか。

「バカなこと言ってないで、さっさと食事させて」
「わかったよ」

 そういって、娘のところに食事を持っていく。もう離乳食も卒業し、固形物が基本だ。

 娘のもとに持っていくと、「あー、あー」と両手を上げて催促された。

「くっくっく、そんなにこの獲物をご所望か?」
「やめなさいっ!」
「ぐぅ」

 せっかくの休日。娘と遊びたいお父さんの気持ちがわからないのか、妻よ……

 プラスチック製のお盆を娘の前にすっと差し出すと、待ってましたとばかりに、娘が手づかみで食べ始める。
 やはり、スプーンとかを使わせたほうがいいのだろうか? と思うのだが、持たせただけですごく嫌がり、放り投げてしまったことがあった。
 子育てとして間違ってるのかも知れないが、食べてもらわないことにはどうしようもないので、とりあえず様子を見ている。
 育児書にも「手づかみ食べは悪くない」と書いてあったしな…外食するようになったら躾ければいいかと思ってる。

 そのちっちゃな手で、わしっと食べ物をつかむと、口に持って行ってもごもごと食べる。
 ごくん。と飲み込むとニコニコしながら毎回「あー」と言う。彼女なりに「おいしい」という表現なのだろう。
 いつみてもワイルドな食べっぷりではある。

 その様子を愛おしそうに眺めていると、妻が自分の食事を持ってきてくれた。

「はい、あなたの分」
「お、サンキュー」
「それにしても、もう一歳になるのに、しゃべらないのよねぇ、大丈夫なのかしら」
「うーん。どうかなぁ。結構個人差あるみたいだよ?あ、食べたときに『あー』っていってるから、マネするかもしれん」

 そういって、プレートに乗ったサンドイッチをつまみ、娘に見せびらかす。
 すると、娘が若干の興味を引き、こちらを見る。
 それを確認すると、うまそうに口の中に入れ、一言発する。

「んまーーーーい」
「コラ」
「え、なんか変なこと言った?」
「女の子なんだから、ンマイはないでしょ!考えなさいよ」

 ぐぅ。
 妻よ。厳しすぎやしないか?

「んー」とか「まー」とか子供が言いやすそうな言葉を使いつつ、その素晴らしい美味を表現……
 すまない。お願いだから、その、突き刺さるような白い目で見ないでほしい。

「せめて『おいしー』にしなさい」
「御意」
「……」

 娘はそんな私たちのやり取りをきょとんとした目で見ている。
 なので気を取り直して、もう一つサンドイッチを取り出して、口の中に入れ、ゆっくり租借して飲み込む。

「おーいしーーーー」

 妻はその光景をみて、無言で頷くと、自分も「おいしー」といってサンドイッチをつまみ始めた。
 するとどうだろう。
 娘も口の中に入れてもごもごした後、何か言おうとしているではないか。

「あーーーー。おーーー」

お、どうだ。

「おーいーーー」

あと一息!

「ちーーーー」

「「おお!!」」

 ちょっと違うが、これはこれでいい!
 その後、私や妻が食べて「あー。おいしー」というのをまねて「あーおいちー」というようになった。

 おいちい。なんてかわいいじゃないか!! もうメロメロである。

 しかし、そこでふと魔が差したんだ。うん。恐怖の青い血の味噌汁という小話を思い出した。

「貪る…青い血の野獣……」

 声に出てた。

 ……妻よ、お願いだから、その、親の仇をみるような、白い目で見るのはやめてくれないか?
 今日麩の味噌汁、あーおいち。っていうオチが付く、超有名な小話を君も知って……あ、だめだ。これはよくないパターンだ。

「すまない。何でもない」
「わかればよろしい」

 娘は「あおいち」を連発してキャッキャと喜んでいたが、私は冷や汗がダラダラと出て、妻のその視線で生きた心地がしなかった。
 そんな、平和であるが、殺伐とした休日の昼下がりの出来事だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

処理中です...