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チュートリアル(入学前)

Bパート

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 慌てず騒がず、優雅に上品に……の割に驚異的な速度で前に進む。足音も立てないのにスーッと進む姿を、屋敷に備え付けられた鏡で見ると正直不気味……ってかキモイ。

 着ている物が濃紺で飾り気の無いドレスだからか、修道女に見える位に地味だしね。
 但し、見た目の地味さと裏腹に生地は上等な手触り・着心地です。これだけでも並のドレスでは比較にならないお値段である事が想像に難くない程に……

 やはり並大抵のお金持ちじゃないです公爵家!
何せ今、私がいるのは別館ではなく本館。お父様が住まい、執務を行う。最早、豪邸と言うよりも城と言った方が近い建物だ……

 本当に凄いよ公爵家……年頃の娘に専用の部屋じゃなくて専用の別館が与えられてるんだから……その別館も大豪邸で、一般的な貴族屋敷よりもグレードが上な辺り、クリシュナーダ公爵領が如何に裕福かが伺える。

 


 そんな領地の本拠地本陣とも呼べる場所の主……ワタクシの父親ランフォード・クリシュナーダに会うために、私は公爵家執務室に足早に向かっている。丸で蜘蛛かゴキの如く!

 急ごうとするとこうなる辺り、洗練された貴族子女の嗜みってのも考えものです。急いでる時位、大股広げて駆けてもいいじゃないとか思うけど身体に染み付いてるんだね……シャカシャカと進んでは鏡に移る自分が酷く珍妙に思える、見た目が良い分余計に。

 格好は地味でも……いや、地味だからこそスタイルの良さが浮き彫りになる。
リズ達にサイドを結い上げて貰ったロングヘアーは、シックな今の服装にとてもよく合っている。縦巻きロールだったらこうはいかない……
 メイクも控え目だけど、元の顔立ちが派手な方だから華が無い様には見えない。
 全体的に落ち着いた雰囲気を纏った大人の女性に仕上げて貰った様です、15歳には見えないね!




 なんて言ってる間に執務室へと到着しました。護衛の男二人が部屋の前で警備していますが、近づくと敬礼して端に控えてくれた。

 「閣下、マリアルイゼお嬢様がお見えになられました!」

 ノックと共に護衛の片方が宣言すると、中から「入らせ賜え」と声がかけられた。

 「失礼致しますわ、お父様」

 開かれたドア、部屋に入りドレスの裾を摘まんでお辞儀。背後でドアの閉まる音が聞こえる。

 「よい、体の方は大事ないか?」

 渋みがあるが、若々しい声が室内に良く通る。声がかけられてから顔をあげる私は、年相応に笑顔で答える。

 「はいっ!ご心配をお掛けしました、お父様。マリアルイゼ、完治の御報告に参りました」

 私の前に置かれた豪華な細工の施された執務机に腰掛た、アッシュグレーの長髪の男性。ランフォードお父様は15歳の娘がいる36歳のアラフォーには見えない程に若々しく顔立ちも文句なしで、これぞTHE・貴族!と言った感じの線の細いイケメンである。背景に飾られたバラに負けてないねお父様!

 「おや?何やらご機嫌だな。てっきり良くなったのに顔も出しに来ない父に、嫌味の一つでも言いに来たのかと思ったが」

 「お父様が御公務で離れられない事位、ワタクシでも理解しています。もう子供ではありませんわ」

 「むぅ、男子3日会わざれば……ではないが、どうしたんだいマリーゼ?今日は身なりも、身にまとった雰囲気も落ち着いているね。丸でヒルダが入って来たのかと思ったよ……」

 ヒルダと言うのはヒルダルイゼ・クリシュナーダ公爵夫人の事で、お父様の妻、ワタクシの母親……そして今は亡き故人の事である。

 それがマリアルイゼが捻くれた最初の要因なのかもしれない……
 早くに母を亡くしたワタクシは教育係に厳しく躾けられ、愛情に飢えていた。お父様は惜しみない愛情をワタクシに注いでくれたが、それも思春期特有の身内を疎ましく感じる時期も相まって、自ら愛する家族を遠ざけていた……俗に言う「お父さんの下着と一緒に洗濯しないで!」って言い出す年頃から……

 ワタクシが唯一、素直に愛情表現が出来ていた人物にでもそんな有様である。
 赤の他人とのスキンシップ等、推して知るべしだね……

 そんなワタクシに残された二人の家族の内の一人、イケメンで大金持ちで地位も名誉もあるお父様が、側室も持たず再婚もしないのは貴族としての損失であるのだが、それだけ母を愛していたのだろう。
 数多あまたある縁談話を全て断り、ワタクシと弟の二人を大切に愛情を持って育ててくれた結果……マリアルイゼは我が儘放題に育っていく辺り、救いは無いね!諸行無常の鐘が鳴ります!

 まぁ弟の方はルート次第で更生するんですけどね、ヘレスティアの攻略対象の中の一人ですから。
 会えるなら手掛かりの為にも会ってみたいのですが、今はテスタメントの中等部に留学しているので我が家にいません。
 マリアルイゼは中等部を卒業して早くに帰省していた所に高熱を発症し今こうなっている訳ですが、弟は一週間後には帰ってくるはずなので、その間にも出来る事をやる為にお父様と交渉しなくてはいけません。

 「まぁ!お母様と見間違えて頂けるなんて、お父様も漸くワタクシを淑女レディと認めて下さったのですね」

 「うむ、寝込んでいる間に丸で人が変わった様に感じるよ。落ち着いた年齢の女性になった位に」

 うわ、お父様鋭い。二、三言話しただけでもう見抜いてる!広大な領地を妻の助けも無く治める有能領主なだけはある……これは手強い。

 「ええ、今回の事でワタクシ生まれ変わった気分ですの。お父様にも素直になれず、無礼な態度を取ってしまっていた事……深く反省しております」

 ならば健気な娘アピールです!まずは情に訴えてみましょう。

 「なんと!?あのマリアルイゼがっ!見ていてくれたかいヒルダ?私達の娘は立派に育ってくれているよ…!」

 うわ、お父様チョロい。感涙にむせび泣く父親の姿に、ワタクシと私どちらの感性で判断してもちょっと引くわー……

 
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