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ハッピーエンドで結の転
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現れたのは当時と変わらない、この世の者とは思えない美形。精神体の透けた身体が、佇んでいるだけで魅了する幻の様に揺らめいている。しかし、その美しさの中に秘めた強靭な意志が、その切れ長の瞳には確かに宿っていた。白に近いプラチナシルバーの長髪から垣間見える顔立ちは、5年など瞬きでしかない者達にとっては変化など存在しないのであろう。例えそれが50年であろうと、500年であろうと……
「こっでワシの仕事は終わったけん、後は若い者達に任せて寝るばい……用が済んだら起こしたもんせ(これで私の仕事は終わりましたね、後はフィアル頑張って下さい。なーに二人の邪魔はしませんよ)」
そんな時の流れにまつろわぬ者をして若者と呼ぶ、見た目はこの場に居るものの中で一番若いダイチ。どこからともなくクッションを取り出して寝る姿は、可愛らしい子供のそれである。言ってる言葉と喋り方はおっさん臭い事この上ないのだが……だが、今はフィアルにとってそれ所ではない。
「シン……」
「……フィアル、やっと喚んでくれたな」
今、自分はどんな顔をしているのだろうか?どんな顔をしてシンに顔を合わせているのだろうか?何を話せばいいのだろうか?まずは謝らなくては……謝って済む問題では無いのに……伝えなきゃいけない言葉が沢山あるのに……いざシンの前に出ると、フィアルは動けなくなってしまう。フィアルが迷っている事も、苦しんで思い悩んでいる事も……全てを理解した上で見守ってくれている美しき龍王の微笑の前では……
それでも進まなくてはいけない。あの時に止まった……自らが止めてしまった時間を進める為にも。
あの時……父・ミリアルドが、その身の全てで兵士を、領民を、領地を……そして娘を守りぬいた時、その代償に命の全てを燃やし尽くし帰らぬ人になった時……フィアルは壊れた。
大切な何かを守るためには、大切な何かを犠牲にする必要がある。それを高貴なる者は畏れてはならない……父の教えをフィアルは忠実に守ってきた……つもりだった。
その守るべき大切な人が、自分を守るため犠牲になった時……フィアルの時間は止まった。後悔という名の過去しか見えない想いに縛られる事で。
その呪縛は強力だった……特に強靭な意志と力を持つ者にとって……その全てが自分を苛んでいくのだから。神の加護などと言う、人外の力があれば尚の事……より強く自分を責めていく。その自責の念に耐えきれなくなった時……フィアルは壊れた。壊れて言ってはいけない言葉を紡いでしまった。
「シン……お父様を生き返らせて……」
「フィアル……それは出来ない。それだけはしてはいけない……」
「どうして!?龍王なんでしょう?神様なんでしょう!?」
「例え神であろうと……いや、神だからこそ死者を冒涜する事は何よりも恥ずべき行いだ。ましてや己の信念を全うして逝った者を引き留めるなど……気高き魂に泥を塗る事は、同じ想いを抱く俺には出来ない……」
「分からないよ!理由なんてどうだっていい!それでもお父様に生きてて欲しいの!」
「フィアル……」
「代わりに私が死んだっていい!だからお願……」
「フィアルッ!」
乾いた音が響いた……その場に居るのは頬を抑えたフィアルと、震える己が手を見つめるシン。朱くなっていく乙女の肌が痛々しいが、それでも自分の責任から目を背けずシンはフィアルへ語りかける。
「フィアル、お前がそれだけは言ってはいけない。ミリアルドにも後悔や無念があった……それをひっくるめて尚、笑っていけるのは……フィアル、お前が生きていてくれるからだ。そのお前が……それだけは言ってはいけない」
「……分かんないよっ!シンの馬鹿……大っ嫌いッ!!」
どれだけ相手を思っても伝わらない、どれだけ願っても叶える事の出来ない……心のやり取りは、涙で走り去っていくフィアルを止める術にはならなかった。一緒に居たいと願った自分が一緒に居ては、余計に彼女を悲しませる。
悲しみを止める方法はある、自分にはそれが出来る力がある。が、力はあれど盟約がそれを許さない。何より同じ想いを抱く者として、ミリアルドの生き様、その輝きは龍王であるシンですら神々しく感じずにはいられない。
「本当に無念も希望も……全て抱えて尚、その顔で逝けるか……羨ましいぞ、ミリアルド……」
どこまでも気高く、どこまでも安らかに眠る……どこまでも自分の想い人に愛されし男を眩しく見つめるシン。その最期は神の如き力を持った龍王が羨望を止まない程……己が人生を全うした男の顔であった。
「あのね……シン。私は……貴方に謝らなければいけない事が沢山あるの……」
「そうか……俺もだ……」
あれからフィアルは、自分の全てを後悔した。
自分は何と醜く傲慢な存在なのだろうと……自分は上手くやれてる、自分は大丈夫……それが妄想であった事を突き付けられた。ミリアルドの死によって……
それに耐えきれなかった時、シンに縋り付いた。そして突き放された……そう思い込んだ。それは保護者を失った悲しみを、別の保護者にぶつける事でしか発散出来ない子供の自分だったから。
自分は守られていた……シンに、ミリアルドに、ヤマタノオロチの皆に。それを自分の力だと勘違いして、上手くやれている、大丈夫だと思い込んでいた。これを傲慢と言わずして何と呼ぶのだろうかと……フィアルは後悔した。
後悔して、己を責め、悔やんでも悔やみきれない己を自覚した時、少女は決意した。
『自分はシンの傍に居てはいけない。清廉なる龍王の傍に、醜い自分が居てはいけない。また縋り付いて、また自分の大切な人を傷付けて、汚してしまうから……』
こうして自責の念からも意を決したフィアルは、王太子との結婚を受け入れ、王宮宝物庫へと三種の神器を封印した……
これも子供の思い込みであったのかもしれない。だが、責任を取るのは自分自身。その立場へ自分を追い込む事でしか、自分を律する事が出来なかったから……シンに言えば止められる事も、やめろと言われればまた縋ってしまう事も分かっていたから……
「私ね……ちゃんとした女性に成りたかったんだ……シンやオロチや、他のヤマタノオロチの皆に相応しい……皆と居ても胸を張っていられる大人に……」
「そうか……」
「でも……現実はやっぱり違ってて……一人じゃ何も出来ない私がいるだけで……知ってたけど、それじゃ駄目だって思ったから……三種の神器を封印して、本当の自分の力だけでやっていかなきゃって思ったの」
「そうか……」
「そう思ったけど……やっぱり駄目だったよ。オロチに無理させて、オロチを安心させて還らせる事も出来ないで、それでもオロチが傍に居てくれる事が嬉しくて……結局、皆に頼って戻って来ちゃったんだ」
「別にいいだろう?それはアイツ等が全員好きでやった事だ。俺達の盟約は『対等な約束』だ。誰かに強制されたからやった事じゃない、全部己の意志だ」
フィアルの言葉を優しく促すシンが、始めて口を挟んだ。だがそれもフィアルを想っての事……それが今のフィアルには何よりも辛いものであった。
だがそれでも、立ち止まる訳にはいかない。優しさに甘えるだけの少女ではいられないのだから……
「うん……今なら『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って皆に言えるよ。これでもね、会わなかった5年間……私なりに頑張ったんだよ。オロチは居てくれたけど……」
そう……シェリオンの地を守るため、身を挺して過ごした5年間は無駄では無かった。それだけは胸を張ってそう言える。自分一人の力では無かったけれど、自分の決めた目的に、自分の出来る事で成し遂げた成果だ。後悔は無い……『己の道は己自身で決めること』。その結果がこれ。今の自分なのだから……
「だから『ごめんなさい』……シン。私は……シンに『一緒にいたい』って言って貰える様な大人の女性に成れなかったよ……」
フィアルの……絞り出すような懺悔の声が、儚く、か細く……シンへと届けられた。
「……そうか……それがフィアルの出した答えか……寂しいけど、それを選んだんだな……」
「うん……ごめんね。また約束破っちゃうけど、神器は私が持ってちゃいけない物だよ。オロチもカガチもフウも……私なんかを選んでくれたけど、シンとの約束を守れなかった私には……皆と約束する資格が無いから」
「謝る必要は無い……元は俺が一方的に押し付けた物だ。例え、俺も『神器を持っていて欲しいのはフィアルだけだ』なんて言っても、お前の事だ……答えは変わらないんだろう?それ位は俺にだって分かるさ……神器を俺に返す事が、お前のケジメだって事くらいな。」
「やっぱりシンには敵わないね……もう私の役目は終わったから。これからは皆に恩返ししていきたいけど、神器があるとまた皆に甘えちゃうから……だから、受け取ってくれるかな?もう……私には過ぎた代物だから」
そう言うとフィアルは、震える手で剣をシンへと差し出した。これら神器をシンが受け取った時、神々の盟約は正式に破棄される。そして、お互いの了承の元に破棄された盟約は……二度と同じ内容の盟約を結ぶ事は出来ない。それは二人とも理解の上でだ……
「分かった。フィアルの決めた事だ……もう神器で縛る事の出来る子供は居ないからな」
理解した上で、シンはクサナギを受け取った。『互いに決別する事』への了承、その証を……
「シンに認めて貰える時が来るなんて、私も頑張った甲斐があったよ」
そう誇らしげに笑うフィアルの首に掛けられたマガタマを、フィアルは自身の手で外す。後はこの手にある最後の絆を返せば、最早二度と……永遠に神と人の運命が交差する事はない。
(これでようやく、私の責任の全てが果たせる……最後の最後で、やっと私は大人になれたんだ。これで思い残す事は何も無い……)
そのはずなのに……
「あれ……おかしいな……」
戸惑いの言葉がフィアルの口から漏れた。
「ちゃんと返すって決めたのに……手が言うことを聞いてくれないよ……」
マガタマを自分の手で外す。そこがフィアルの限界だった……シンへと、マガタマを持つ手を差しだそうとしても、自分の手では無いようにピクリとも動いてくれない。
「おかしいな……ちゃんとね、返したんだよ。王冠も……指輪も……返して帰って来たんだよ。ヤマタノオロチの皆に会って、故郷の家族に会って、みんなから勇気を貰って……シンに神器を返す為に……」
正妃のティアラや指輪なら何の迷いも無く返せたのに、手のマガタマが張り付いた様に剥がれない。動かそうとしても指一本離せない。
「ごめんね……シン。ちゃんと……ちゃんと返すから!もう少し……もう少しだけ待って……」
「フィアル……む「「「ちょーーーーーっっと待ったあああぁぁぁ!!」」」」
そしてそこが、ヤマタノオロチ達の限界でもあった……
「こっでワシの仕事は終わったけん、後は若い者達に任せて寝るばい……用が済んだら起こしたもんせ(これで私の仕事は終わりましたね、後はフィアル頑張って下さい。なーに二人の邪魔はしませんよ)」
そんな時の流れにまつろわぬ者をして若者と呼ぶ、見た目はこの場に居るものの中で一番若いダイチ。どこからともなくクッションを取り出して寝る姿は、可愛らしい子供のそれである。言ってる言葉と喋り方はおっさん臭い事この上ないのだが……だが、今はフィアルにとってそれ所ではない。
「シン……」
「……フィアル、やっと喚んでくれたな」
今、自分はどんな顔をしているのだろうか?どんな顔をしてシンに顔を合わせているのだろうか?何を話せばいいのだろうか?まずは謝らなくては……謝って済む問題では無いのに……伝えなきゃいけない言葉が沢山あるのに……いざシンの前に出ると、フィアルは動けなくなってしまう。フィアルが迷っている事も、苦しんで思い悩んでいる事も……全てを理解した上で見守ってくれている美しき龍王の微笑の前では……
それでも進まなくてはいけない。あの時に止まった……自らが止めてしまった時間を進める為にも。
あの時……父・ミリアルドが、その身の全てで兵士を、領民を、領地を……そして娘を守りぬいた時、その代償に命の全てを燃やし尽くし帰らぬ人になった時……フィアルは壊れた。
大切な何かを守るためには、大切な何かを犠牲にする必要がある。それを高貴なる者は畏れてはならない……父の教えをフィアルは忠実に守ってきた……つもりだった。
その守るべき大切な人が、自分を守るため犠牲になった時……フィアルの時間は止まった。後悔という名の過去しか見えない想いに縛られる事で。
その呪縛は強力だった……特に強靭な意志と力を持つ者にとって……その全てが自分を苛んでいくのだから。神の加護などと言う、人外の力があれば尚の事……より強く自分を責めていく。その自責の念に耐えきれなくなった時……フィアルは壊れた。壊れて言ってはいけない言葉を紡いでしまった。
「シン……お父様を生き返らせて……」
「フィアル……それは出来ない。それだけはしてはいけない……」
「どうして!?龍王なんでしょう?神様なんでしょう!?」
「例え神であろうと……いや、神だからこそ死者を冒涜する事は何よりも恥ずべき行いだ。ましてや己の信念を全うして逝った者を引き留めるなど……気高き魂に泥を塗る事は、同じ想いを抱く俺には出来ない……」
「分からないよ!理由なんてどうだっていい!それでもお父様に生きてて欲しいの!」
「フィアル……」
「代わりに私が死んだっていい!だからお願……」
「フィアルッ!」
乾いた音が響いた……その場に居るのは頬を抑えたフィアルと、震える己が手を見つめるシン。朱くなっていく乙女の肌が痛々しいが、それでも自分の責任から目を背けずシンはフィアルへ語りかける。
「フィアル、お前がそれだけは言ってはいけない。ミリアルドにも後悔や無念があった……それをひっくるめて尚、笑っていけるのは……フィアル、お前が生きていてくれるからだ。そのお前が……それだけは言ってはいけない」
「……分かんないよっ!シンの馬鹿……大っ嫌いッ!!」
どれだけ相手を思っても伝わらない、どれだけ願っても叶える事の出来ない……心のやり取りは、涙で走り去っていくフィアルを止める術にはならなかった。一緒に居たいと願った自分が一緒に居ては、余計に彼女を悲しませる。
悲しみを止める方法はある、自分にはそれが出来る力がある。が、力はあれど盟約がそれを許さない。何より同じ想いを抱く者として、ミリアルドの生き様、その輝きは龍王であるシンですら神々しく感じずにはいられない。
「本当に無念も希望も……全て抱えて尚、その顔で逝けるか……羨ましいぞ、ミリアルド……」
どこまでも気高く、どこまでも安らかに眠る……どこまでも自分の想い人に愛されし男を眩しく見つめるシン。その最期は神の如き力を持った龍王が羨望を止まない程……己が人生を全うした男の顔であった。
「あのね……シン。私は……貴方に謝らなければいけない事が沢山あるの……」
「そうか……俺もだ……」
あれからフィアルは、自分の全てを後悔した。
自分は何と醜く傲慢な存在なのだろうと……自分は上手くやれてる、自分は大丈夫……それが妄想であった事を突き付けられた。ミリアルドの死によって……
それに耐えきれなかった時、シンに縋り付いた。そして突き放された……そう思い込んだ。それは保護者を失った悲しみを、別の保護者にぶつける事でしか発散出来ない子供の自分だったから。
自分は守られていた……シンに、ミリアルドに、ヤマタノオロチの皆に。それを自分の力だと勘違いして、上手くやれている、大丈夫だと思い込んでいた。これを傲慢と言わずして何と呼ぶのだろうかと……フィアルは後悔した。
後悔して、己を責め、悔やんでも悔やみきれない己を自覚した時、少女は決意した。
『自分はシンの傍に居てはいけない。清廉なる龍王の傍に、醜い自分が居てはいけない。また縋り付いて、また自分の大切な人を傷付けて、汚してしまうから……』
こうして自責の念からも意を決したフィアルは、王太子との結婚を受け入れ、王宮宝物庫へと三種の神器を封印した……
これも子供の思い込みであったのかもしれない。だが、責任を取るのは自分自身。その立場へ自分を追い込む事でしか、自分を律する事が出来なかったから……シンに言えば止められる事も、やめろと言われればまた縋ってしまう事も分かっていたから……
「私ね……ちゃんとした女性に成りたかったんだ……シンやオロチや、他のヤマタノオロチの皆に相応しい……皆と居ても胸を張っていられる大人に……」
「そうか……」
「でも……現実はやっぱり違ってて……一人じゃ何も出来ない私がいるだけで……知ってたけど、それじゃ駄目だって思ったから……三種の神器を封印して、本当の自分の力だけでやっていかなきゃって思ったの」
「そうか……」
「そう思ったけど……やっぱり駄目だったよ。オロチに無理させて、オロチを安心させて還らせる事も出来ないで、それでもオロチが傍に居てくれる事が嬉しくて……結局、皆に頼って戻って来ちゃったんだ」
「別にいいだろう?それはアイツ等が全員好きでやった事だ。俺達の盟約は『対等な約束』だ。誰かに強制されたからやった事じゃない、全部己の意志だ」
フィアルの言葉を優しく促すシンが、始めて口を挟んだ。だがそれもフィアルを想っての事……それが今のフィアルには何よりも辛いものであった。
だがそれでも、立ち止まる訳にはいかない。優しさに甘えるだけの少女ではいられないのだから……
「うん……今なら『ごめんなさい』じゃなくて『ありがとう』って皆に言えるよ。これでもね、会わなかった5年間……私なりに頑張ったんだよ。オロチは居てくれたけど……」
そう……シェリオンの地を守るため、身を挺して過ごした5年間は無駄では無かった。それだけは胸を張ってそう言える。自分一人の力では無かったけれど、自分の決めた目的に、自分の出来る事で成し遂げた成果だ。後悔は無い……『己の道は己自身で決めること』。その結果がこれ。今の自分なのだから……
「だから『ごめんなさい』……シン。私は……シンに『一緒にいたい』って言って貰える様な大人の女性に成れなかったよ……」
フィアルの……絞り出すような懺悔の声が、儚く、か細く……シンへと届けられた。
「……そうか……それがフィアルの出した答えか……寂しいけど、それを選んだんだな……」
「うん……ごめんね。また約束破っちゃうけど、神器は私が持ってちゃいけない物だよ。オロチもカガチもフウも……私なんかを選んでくれたけど、シンとの約束を守れなかった私には……皆と約束する資格が無いから」
「謝る必要は無い……元は俺が一方的に押し付けた物だ。例え、俺も『神器を持っていて欲しいのはフィアルだけだ』なんて言っても、お前の事だ……答えは変わらないんだろう?それ位は俺にだって分かるさ……神器を俺に返す事が、お前のケジメだって事くらいな。」
「やっぱりシンには敵わないね……もう私の役目は終わったから。これからは皆に恩返ししていきたいけど、神器があるとまた皆に甘えちゃうから……だから、受け取ってくれるかな?もう……私には過ぎた代物だから」
そう言うとフィアルは、震える手で剣をシンへと差し出した。これら神器をシンが受け取った時、神々の盟約は正式に破棄される。そして、お互いの了承の元に破棄された盟約は……二度と同じ内容の盟約を結ぶ事は出来ない。それは二人とも理解の上でだ……
「分かった。フィアルの決めた事だ……もう神器で縛る事の出来る子供は居ないからな」
理解した上で、シンはクサナギを受け取った。『互いに決別する事』への了承、その証を……
「シンに認めて貰える時が来るなんて、私も頑張った甲斐があったよ」
そう誇らしげに笑うフィアルの首に掛けられたマガタマを、フィアルは自身の手で外す。後はこの手にある最後の絆を返せば、最早二度と……永遠に神と人の運命が交差する事はない。
(これでようやく、私の責任の全てが果たせる……最後の最後で、やっと私は大人になれたんだ。これで思い残す事は何も無い……)
そのはずなのに……
「あれ……おかしいな……」
戸惑いの言葉がフィアルの口から漏れた。
「ちゃんと返すって決めたのに……手が言うことを聞いてくれないよ……」
マガタマを自分の手で外す。そこがフィアルの限界だった……シンへと、マガタマを持つ手を差しだそうとしても、自分の手では無いようにピクリとも動いてくれない。
「おかしいな……ちゃんとね、返したんだよ。王冠も……指輪も……返して帰って来たんだよ。ヤマタノオロチの皆に会って、故郷の家族に会って、みんなから勇気を貰って……シンに神器を返す為に……」
正妃のティアラや指輪なら何の迷いも無く返せたのに、手のマガタマが張り付いた様に剥がれない。動かそうとしても指一本離せない。
「ごめんね……シン。ちゃんと……ちゃんと返すから!もう少し……もう少しだけ待って……」
「フィアル……む「「「ちょーーーーーっっと待ったあああぁぁぁ!!」」」」
そしてそこが、ヤマタノオロチ達の限界でもあった……
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