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第75話 母と娘と 中
しおりを挟む前回のあらすじ:(エタって)ないです
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何もなければ白を基調とした落ち着いた空間は、厳格な雰囲気も相まって騒いではいけない空気を醸し出す。
しかし今、女4人はその中を疾走し、塞がる敵を切り開き上へ上へと目指し進む。
さながらダンジョンを進むかの如く、遭遇する防衛機械のモンスター達を倒し、次の階層へと向かって行く。
先程戦った羽の生えた銀の球体に始まり、赤や青の人型の機械、緑の獣型の機械……どれも精巧な魔法人形の様で、意思無き傀儡が襲って来るが彼女達の脅威には成りえなかった。
これらゴーレムの強さを例えるならダンジョン最深層のモンスターに匹敵し、以前の彼女達なら負傷は免れなかったであろう。
だがそれぞれ一人一人が以前の彼女達ではなく、幼女の歌は戦う3人の限界を数倍に押し上げている。
少しは近づいたかと思ったら呆気なくまた雲の彼方へと飛び去って行く……そんな男を主人に持ち、そんな男に一生懸命追いつこうと努力して、今は先頭を走るユウメも確実に強くなっている事を実感出来ている。
底知れない高位魔族達との戦いを知りながら何も出来ない辛酸の日々を味わい、守られているだけだった自分が頼まれて任されている。その想いが彼女の疾走を更に加速させる!
それは後ろを走る彼女の妹と呼べる二人も同じ想いだ。娘であるアンリもオミの強化魔法、エルナの補助魔法を受けているとはいえ、子供の足で懸命について来ている。そんな娘にかすり傷程の負傷もさせる訳にはいかない……その決意が母の剣技を更に閃かせるのであった。
一騎当千の彼女達の進軍を留める物は存在しない。強いて上げれば、床や扉等が意志を持つかの如く自動で動き、奇怪なゴーレム達が蠢くこの場所は魔界と呼ぶに相応しいと思う……そんな未知への恐怖が幾何かの対応に追われる程度だ。
しかし十分に対応できる範囲だと分かり、慣れてくると勝手に開閉してくれるので便利だと思える程度には彼女達の余裕も出て来ているようだ。
それもそうだろう、一番小さな女の子であるアンリが案内して、途中の装置も操作して開けてくれるから迷う事も無い。先程から通信石による反対の棟にいるアンコウの声が聞こえないのが気がかりではあるが、二人には念話の様に離れていても伝わる通信手段があるので問題無いのだろうとユウメは思っている。
それに進むも戻るも、ここはゴーレムの巣窟だ。だったら制圧して少しでも先に進む様にすべきだとも思っている。例え、まだこの先に脅威と感じる胸騒ぎがあろうとも……
「あちらが治療施設なら、こちらは軍の駐屯所の様ですね。官憲の手先の様に、外敵の脅威から防衛している風に見えます」
「はい……オミ姉さんの言う通り、我々の進撃を防げないのならせめて足止めを……その様に動き始めた印象を受けます」
確かに二人の言う様に、排除から進行の阻止に切り替わった印象をユウメも感じていた……それはつまり、時間を稼ぎ始めたという事だろう……自分達が敵わないのなら、自分達以上の戦力が到着するまでの時間稼ぎを目的とする。防衛用では無く、駆逐用の戦力を投入する迄の時間稼ぎ……
「どうしよう?安全策で行くなら呼び掛けて応援に来て貰うって方がいいんだろうけど……」
「フフッ……大丈夫ですよ、ユウメさん。私達の想いは一緒のはずですから」
「はいっ!魔界と言えど、未知の場所に後れを取ったとあらば武門の恥です!臆病風に吹かれて親方様の御手を煩わせるとなっては申し訳がありません!」
「うん……一応ちゃんと聞いておかなきゃと思ったから。お姉ちゃんだしね!」
十分に感じていた事でも、改めて言葉にして言って貰えた事でより安心を得たのだろう。表情も明るく娘へと向き直り、小さな彼女と目線を合わせる為に膝を着いた。
「アンリは大丈夫?もっと速くなっても大変じゃない?」
「うんっ!いーっぱいうたうから!ユウメちゃんもオミちゃんもエルナちゃんも、いーっぱいおうえんするから!」
返って来たアンリの頼もしすぎる言葉に思わず苦笑してしまうユウメ……愛しい娘の頭を撫でてから立ち上がると、その顔は更なる決意に満ちていた。
(何があっても絶対にお母さんが守ってみせるからね……)
まだ口に出しては言えない想い……胸の中で燻っている様に感じているが、決して消えない炎がユウメの心を……身体を突き動かす!
「よしっ!それじゃあ行くわよ!」
「「「はいっ!」」」
稲妻の速さで走り出したユウメを3人が追う。その足取りは軽く、迷いの無い意志を感じさせるのであった。
進めば進む程ゴーレム達が隊伍を組み、その質量・重量で隙間の無いよう待ち構えていたが、一陣の雷が光るとゴーレムの陣形に風穴が開く!
そこに烈火の如く迫る追撃が蹂躙し、蹴散らされ舞い上がったゴーレムに駄目押しと言わんばかりに強烈な矢の嵐が降り注いだ。
例え防戦に構えたとして、彼女達の進路を妨げる者共の末路は変わらない様だ。
神の加護を受けしアンリの歌が鎮魂歌の様に残骸となったゴーレムの中響き渡り、更に残骸を瓦礫の如く積み上げながら進んだ先で……やがて部屋と呼ぶには広大な空間。世界樹の中にあった謁見の間程ではないが、部屋の中に家が建てられる位には十分な広さの場所へ辿り着いた。
位置取り的にこの先が目的の場所『管理室』の様である。
だが其処にはやはりゴーレム部隊が無数に並び陣形を組んでいる……今迄遭遇していたよりも巨大で、更に多数の色取り取りのゴーレムが並び立つ様はどこか滑稽だが、それ以上に脅威的で高圧的で彼女達を圧迫してくる。
「本当にキリがありませんが何体出て来ても同じ事です!」
「待ってエルナ!中央に今迄とは違う反応がある」
「ええ……ですが、これは……」
先手必勝と言わんばかりに射かけようとするエルナを止めるユウメ、それを肯定しているが戸惑うオミの言葉の理由……何故ならその反応は、強大だが無機物犇めくゴーレム達の中で、どこか暖かく感じていれば安心してしまいそうな気配を放っていたからだ。
その不思議な気配が近づいて来るとゴーレムの肉壁で閉じられたドアが開いたかの様に、意志亡き人形達が道を譲り、頭を垂れ主へと傅いていくのであった。
ゴーレムの海を十戒の如く割って現れたのは人間の女性の姿。
屈んでも3メートル以上はあるであろう巨大なゴーレム達の中にあって160センチ程の高さしかない、人間種では大きくも小さくもない身長……だが特徴的な一糸纏わぬ全身を覆っている光、ミスリルの金属の輝きが異彩を放つ。
ミスリルメタルのボディ……真銀の輝きが長い脚をより優雅に、丸い理想的なヒップラインを典雅に、豊かな双丘を惜しげも無く晒しながらも慈愛に満ちた印象へと変えている。そんな彼女の表情に気恥ずかしさや照れ等という物を読み取る事は出来ない。
ミスリルの仮面……否、仮面の様に見えるが紛れもなく彼女の顔であった。目の形だけが彫ってある、その程度の造形。瞳は無く、鼻も口も無い。
そんな簡素な顔だが、豊かな真銀の長髪と抜群のプロポーションが合わさると、名だたる彫刻の完成品の様に思えてくる。肉感的だが宗教絵画の様な神々しささえ感じてしまう程に……
男であればマネキンと分かっていても心を奪われてしまう。それ程までの美しさがあるであろう……が、幸いにも対峙する彼女達は全員女である。
惑わされる事無く気配を探る事で、同性にすら母性を感じさせる気配に隠された……鬼子母神と呼ぶに相応しい巨大な戦闘力を示す反応が陰で渦巻いているのに気付く……!
ユウメは確信する。戦士の勘が告げていたのはこの相手で間違いないと!だがそれだけでは足りない、もう一つの勘が起こす胸騒ぎが止まらない。
その正体はすぐに判った……
「おかあさん……」
アンリの口からまだ自分へと紡がれる事の無い相手へと送られた言葉に、ユウメの女の勘は避けられぬ……避けてはいけない戦いの予感を告げた。
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平素よりの御目通し、誠にありがとうございます。
拙作ではありますが、ファンタジー小説大賞に応募させて頂きました。放置期間が長いにも関わらず既に投票して戴いた方々に重ねて感謝の念を述べさせて頂きます。
涼しい内に出来るだけ更新する所存です。おっと!台風は勘弁な!
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