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12.トラブル ~遂に来た本当の危機~

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「イヒトさん、どうかされましたか?」

 トラブルを聞きつけてミカナさんが来てしまった。

「あっ、ミカナちゃん! 今日もかわいいねー。それで昨日の件、考えてくれた?」

「その件はもうその場でお断りしたはずですが……」

 2人は知り合いなのだろうか?
 ミカナさんは明らかに嫌がっているが……
 男に聞こえないようにこっそりミカナさんに確認する。

「ミカナさん、この方とはお知り合いで?」

「いえ……昨日、お客さんとしていらっしゃって、私に一目惚れしたらしく……求婚されたのでお断りしたはずなのですが……イヒトさん、どうしたらよいでしょう?」

 ミカナさんは怯えたような顔でこちらを見上げてくる。
 こんなか弱い女性を怖がらせるなんて許せない。
 許せない……が、俺に何ができる?
 相手はガチムチで荒事にも慣れてそうなやつだ。
 俺なんかが力で追い払うのは無理だろう。
 だからといって話し合いで納得するようなやつではなさそうだ。

 ちらりとミカナさんの方を見る。
 そんな顔で俺を見ないでくれ。
 頼りにされても所詮俺はショボい人生を送ってきたショボ男なんだ。
 この状況を解決できるような人間じゃないんだ!

「おいおい! 何をコソコソやってんだよ! お前見ない顔だなー? 俺のミカナちゃんに近付くんじゃねーよ!」

「す、すみません。俺は今日たまたま助っ人としてこの店で働くことになった者で……」

 かっこわりぃ……
 相手の威圧にビビって下手に出てしまった。

「じゃあ、俺らの仲を邪魔すんじゃねーよ! どいてろ!」

 俺は男に突き飛ばされ、仰向けに倒れる。

「痛っつぅ……」

「イヒトさん!!」

 ミカナさんの悲痛な叫び声が聞こえる。

「おいおい、どんだけ弱えーんだよ! 軽く触っただけだろ? 何ぶっ倒れてやがんだ、笑えるぜ! ぎゃはは!」

 男は俺をあざ笑う。
 にもかかわらず、俺には怒りの感情が湧いてこない。
 ビビってしまってるんだ、情けないことに。

 邪魔者はいなくなったとばかりに、男はミカナさんに近付く。

「なぁいいだろ? 今見てわかった通り俺は強いし、見た目も悪くない。稼ぎも絶対ダンジョン攻略して大金手に入れるからよ!」

「お断りします!」

 ミカナさんはすごいな。
 こんな強そうなやつに対してもしっかりと対応できるんだ。
 俺とは大違いだ。

 いや、ミカナさんの脚が震えている。
 そりゃあこんなガタイのいい男に詰め寄られたら怖いだろう。
 それでも懸命に、気丈に対応しようとしている。

 俺は突き飛ばされて倒れたことで少し安堵していた。
 この程度でこの男の敵意から逃れることができたんだ。
 あざ笑われるくらいなんてことない。
 それで無事に済むなら、と考えてしまう。

 でもミカナさんはそうはいかない。
 少しでも弱いところを相手に見せれば、たちまち付け込まれて結婚させられてしまうだろう。
 ミカナさんは怖くても立ち向かうしかないんだ。

「こんなに下手に出てやってるのに、いつまで強情張ってるんだよ! さっさと俺んところに来いよ!」

 男の手がミカナさんの方に伸びてくる。
 俺にはその手がやけにスローモーションに見える。

 やめろ。

 男の手がミカナさんの腕をつかむ。

 やめろ。

 そのまま無理矢理連れて行こうとする。

「きゃ! 離してください!」

 ミカナさんは急に腕を引かれ、たたらを踏む。

 おい、やめろって。
 何してんだよ。
 人が真面目に生きてるのに、そんな理不尽な理由で邪魔してんじゃねーよ。

「おい、調子に乗ってんじゃねーぞ! これ以上俺に歯向かうならこの店ぶっ壊すぞ!」

 ドカッ!

「「「きゃー!」」」

 男が椅子を蹴り飛ばす。
 ミカナさんもお客さんも怯えている。

 やめてくれ!
 暴力で自分の意見を通そうとするなんて、人間のすることじゃない。
 獣と同じだ。

「次はどうすっかなー? テーブルか? 窓か? それともそこの客にするか?」

「お客さんだけはやめてください!」

「それなら俺の言うこと聞くか?」

「っ……お客さんに手を出さないって約束し……」

 まずい! ミカナさんは自分を犠牲にしようとしている。

 暴力で人に迷惑かけるのも、自分を犠牲にして丸く収めようとするのも、どっちもやめろよ。

 やめろ……

 おい、やめろって……

 やめろって言ってんだろ!

「やめろよ!」

 みんなが一斉に俺を見る。

 なんでみんなこっち見てんだ……?

 やば……俺、声に出してた……?

「お前、今なんて言った? ふざけたことぬかしてんじゃねーぞ! ぶっ殺すぞ!」

 ヤバい。

 ヤバい。

 ヤバい。

 考えろ。

 考えろ。

 考えろ。

 どうする。

 どうする。

 どうする!

 俺に出来ることなんてほとんどねぇ。

 腕っぷしは弱いし、戦ったこともないただの一般人。
 だからといって頭がずば抜けて良い訳でも、この状況を打開できる程の運も持ち合わせちゃいない。

 元々、俺はショボい人生でなんら人に誇れるようなことなんてなかったんだ。
 そんな俺に何か出来ることがあるのか?

 俺に特別な何かがあるのか?

 俺にこの状況を覆せる力が……

 ……

 …………

 ………………

 ……あるじゃねぇか。

 そうだ、1つだけあるじゃねえか。
 他の誰も持ってない、俺だけの力が!

 女神様にもらったチートスキルってやつがよぉ!

「……おい、俺と勝負しろよ。俺が勝ったら金輪際ミカナさんに近付くな!」

 言ってしまったー!
 めっちゃ怖えー!
 ミカナさんが驚いたような嬉しそうな顔でこっちを見ている。
 そんなに期待しないでくれー!

「はっ! お前が俺様と勝負だと? そんなに弱えーくせに勝てると思ってんのか? まさかジャンケンじゃねーだろうな、笑わせるぜ」

「ジャンケンなんてそんな運で決まる勝負じゃない。実力勝負だ。俺が提案する勝負は……『変則ビーチフラッグス』だ!」


 ―◇◇◇―
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