上 下
1 / 33

1.死因がうめぇ棒ってショボ過ぎでしょ

しおりを挟む
「誰だよ! うめぇ棒なんて投げたやつ!!」

 俺の名前は子甫 伊人(しほ いひと)、28歳、独身、男。
 名前に小さい"よ"と濁点を足せば『しょぼいひと』。

 これまで名前の通りショボい人生を歩んできた。

 小学生の頃は友達がテレビゲームをしているのを後ろで見ているような子供だった。
 中学ではテレビゲームを見せてくれる友達もいなくなり、高校では焼きそばパンを買いに走る毎日。
 大学受験も就活も失敗し28歳までフリーター。
 彼女なんてできるはずもなく、1人さびしく過ごしてきた。

 挙句の果てに死因はうめぇ棒。
 バイト帰り、横道から飛んできたうめぇ棒に驚いたのが人生最後の瞬間。
 驚いた拍子に転び、縁石に頭を打ちつけてご臨終。

 うめぇ棒で死ぬって、俺の命は10円かよ……
 ショボ過ぎんだろ……

 てか、誰だようめぇ棒投げたやつ!!


 ―◇◇◇―


 そして現在、俺は真っ白な空間にいる。

 これがかの有名な、異世界転移する前の神の空間というやつだろうか。
 今までショボい人生に満足していなかったわけではないが、異世界転移とか夢見てなかったかといえば嘘になる。
 いや、正直なところ期待していた。めっちゃ期待していた。
 さようならショボい人生。こんにちはチート人生。

 これから神様が現れて、チートスキルもらって、異世界に送ってもらう流れのはずだ。
 転移か転生かはわからないが些細なことだろう。

『そのとおりなのじゃ!』

「のじゃ女神のパターンか」

『おぬし、声に出ておるぞ』

「どうせ心の声も読めるんだから一緒じゃないですか」

『それもそうなのじゃ!』

 かなりチョロそうな女神様だな。

『それも聞こえておるぞ!』

 いかん、つい正直な感想を思い浮かべてしまった。
 これからチートスキルをもらうんだから、怒らせるのはまずい。
 機嫌をとっておかなくては。

『おぬしが持っているそれはうめぇ棒ではないか!?』

「えっ?」

 俺はそう言われて初めて、うめぇ棒を持っていることに気付いた。

『わしは地球をよく覗いておるのじゃが、うめぇ棒が気になっておったんじゃ! なかなかうめぇ棒を持ったまま死ぬやつはおらんからの、初めて実物を見たぞ!』

「あぁ、これそんなに珍しいんですか」

 すごい剣幕で食い入るように見られていて怖い……
 確かにうめぇ棒持ったまま死ぬやつは、なかなかいないよな。

「あー……食べます?」

『よいのか!? あぁー、夢にまで見たうめぇ棒じゃぁ~。催促したみたいで悪いのぉ』

「いえいえ、このくらいでご機嫌取りできるなら安いものです」

『聞こえておるぞ。じゃが、わしは心が広いから気にしないのじゃ。それではいただきますなのじゃ』

 サクッ

 この女神、目の前で食べ始めたぞ。
 あー、今思えば異世界に行ったらうめぇ棒も食べられなくなるんだよなぁ。
 ちょっと勿体ないことした感あるなぁ。

『そんな目で見ても分けてやらんのじゃ。あー、うめぇのぉ。このサクサク感とゴルゴンゾーラの味がたまらん! おぬしはこんなにうめぇものが食べられなくて残念じゃのぉ~?』

 こいつ絶妙に腹立つな。まぁチートスキルをもらうためだ、ここは我慢、我慢。

『はぁ~、うまかったのじゃ。このような供物、こちらの世界ではなかなかないからの。それではそろそろおぬしにチートスキルを授けてやるとするかの』

 おぉ、俺のこと忘れられてなかった。
 どんなチートスキルかなぁ。最強の力を手に入れるやつか、それともやっぱりアイテムボックス的なやつか。

『そんなすごいスキル、わしが授けられるはずなかろう。うーん……よし決めた! おぬしのチートスキルは"10円玉召喚"じゃ!! うめぇ棒の値段とも一致するしそれがよかろう』

 は……?

「いやいやいや! 聖属性魔法とか転移魔法とかもっといろいろありますよね!? 10円玉召喚スキルってなんですか!!」

『10円玉召喚スキルとは、精神を集中して"10円玉召喚"と唱えると10円玉を1枚召喚することができるスキルじゃ。1日1回限定でな』

 そういうこと聞いてんじゃねーよ!

『違うのか? ……あぁ、安心せい。召喚される10円玉はわしの賽銭箱の中から召喚されるから、偽造じゃったり経済への影響なんかは考えなくても大丈夫じゃ』

 もうツッコむ気力もない……
 こいつ、弱小貧乏女神で碌なスキル持ってないんだな。やっぱり俺の人生、異世界でもショボそうだ……

『弱小貧乏女神とか言うな! おぬしが宣伝して、わしへの供物や信仰心が増えればもっと良いスキルを与えることができる……かもしれんから精々がんばるのじゃ。おっ、そろそろ時間じゃ。じゃあの!』

 もう転移!? もっと聞きたいこと色々あったんですけど!! スキルのこととか転移先のこと……とか考えてる間に視界が暗転した。


 ―◇◇◇―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

◆完結◆修学旅行……からの異世界転移!不易流行少年少女長編ファンタジー『3年2組 ボクらのクエスト』《全7章》

カワカツ
ファンタジー
修学旅行中のバスが異世界に転落!? 単身目覚めた少年は「友との再会・元世界へ帰る道」をさがす旅に歩み出すが…… 構想8年・執筆3年超の長編ファンタジー! ※1話5分程度。 ※各章トップに表紙イラストを挿入しています(自作低クオリティ笑)。 〜以下、あらすじ〜  市立南町中学校3年生は卒業前の『思い出作り』を楽しみにしつつ修学旅行出発の日を迎えた。  しかし、賀川篤樹(かがわあつき)が乗る3年2組の観光バスが交通事故に遭い数十mの崖から転落してしまう。  車外に投げ出された篤樹は事故現場の崖下ではなく見たことも無い森に囲まれた草原で意識を取り戻した。  助けを求めて叫ぶ篤樹の前に現れたのは『腐れトロル』と呼ばれる怪物。明らかな殺意をもって追いかけて来る腐れトロルから逃れるために森の中へと駆け込んだ篤樹……しかしついに追い詰められ絶対絶命のピンチを迎えた時、エシャーと名乗る少女に助けられる。  特徴的な尖った耳を持つエシャーは『ルエルフ』と呼ばれるエルフ亜種族の少女であり、彼女達の村は外界と隔絶された別空間に存在する事を教えられる。  『ルー』と呼ばれる古代魔法と『カギジュ』と呼ばれる人造魔法、そして『サーガ』と呼ばれる魔物が存在する異世界に迷い込んだことを知った篤樹は、エシャーと共にルエルフ村を出ることに。  外界で出会った『王室文化法暦省』のエリート職員エルグレド、エルフ族の女性レイラという心強い協力者に助けられ、篤樹は元の世界に戻るための道を探す旅を始める。  中学3年生の自分が持っている知識や常識・情報では理解出来ない異世界の旅の中、ここに『飛ばされて来た』のは自分一人だけではない事を知った篤樹は、他の同級生達との再会に期待を寄せるが……  不易流行の本格長編王道ファンタジー作品!    筆者推奨の作品イメージ歌<乃木坂46『夜明けまで強がらなくていい』2019>を聴きながら映像化イメージを膨らませつつお読み下さい! ※本作品は「小説家になろう」「エブリスタ」「カクヨム」にも投稿しています。各サイト読者様の励ましを糧についに完結です。 ※少年少女文庫・児童文学を念頭に置いた年齢制限不要な表現・描写の異世界転移ファンタジー作品です。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...