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sideルーカス
22.
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ノアが街道に沿って移動してくれた事もあり、悪路に悩むことなく無事に街に引き返す事ができた。
手近な宿を取ると、直ぐに街医者の所に向かい往診を願う。
沢山薬を持たせたノアの事はしっかり覚えていて、慌てて宿へ出向いてくれた。
正直、例えそれが背中と言えど、他の男に素肌を見せるのは嫌だったが………。
しかし元の怪我と俺が喰み抉った傷は、今の処置だけでは限界がある。
実際に街医者は、ノアの傷を見て絶句していた。
チラリと俺を見る目は物問いたげだったけど、多分俺の執着具合から番だと当たりを付けたみたいだ。
何も聞く事なく、対応してくれた。
しかも彼は正確には街医者ではなく魔術医だと話し、治癒魔法との重ね処置を施した。
お陰であんなに青ざめていたノアの顔色は回復して、呼吸も段々穏やかになっていった。
でも、数日が経ってもノアは目を覚まさない。
「なぁ、ノア」
俺はベッドの横に座り、ノアの手を握った。
「頼むよ。起きてくれ。起きて、またお前の綺麗な瞳を見せて欲しい……」
穏やかな顔をして眠るノアに、俺を見ないノアに、切なさが募る。
握っていたノアの掌を、自分の頬に当てて目を閉じる。番独自の香りだろうか。心地よく芳しい香りが鼻腔を擽る。
「起きて、話を聞いて欲しいよ。ノア」
目を開けて頬に当てていた手をシーツの中に戻す。そしてクシャっとノアの髪を掻き上げながら撫でた。
―――気付いてる?お前、俺がこうして頭を撫でると、いっつもビックリした顔してさ。そして嬉しそうに笑うんだ。
何度だって撫でるし、抱き締めるし、口付けを贈る。
―――だから、起きて。
額にそっと口付ける。そろそろ街医者の所に薬を取りに行く時間だ。俺は重い腰を上げてその場を後にした。
付き合いが長くなってきた街医者とは、ノアの惨状に対してブツクサ文句を漏らされるくらいには親しくなったようだ。
今日もブツブツ文句を言っていたが黙殺し、薬をぶん取って早々にノアの元へ戻った。
今日こそは起きて欲しい……と願いながら、ふと残虐な振る舞いをした俺をどう見るんだろう…と恐怖がムクリと頭を擡もたげる。
フルっと首を振る。それはノアの気持ち次第だ。俺はどうこう言える立場じゃない。
ガチャリと取手を捻り扉を開ける。身体を滑り込ませたその時。
「……ルーカス?」
少し掠れた声で呼ばれて、俺は慌てて振り返る。
「良かった!目が醒めたんだ!気分はどう?痛みは?」
先程浮かんだ恐怖なんか、ノアの美しい黒曜石の瞳を見たらあっという間に霧散した。
でも、ノアにとっては俺の存在は恐怖だったのだろう。
状況が掴めないのか目を丸くしていたけど、次の瞬間はっとなり顔を強張らせていた。
「ルーカス、お前何でここにいるの?」
捻り出された声は硬く低い。
「お前が居なくなったから、追いかけて来たんだよ」
覚悟はしていても、番に示される拒絶の反応にぎゅっと締め付けられるように胸が痛んだ。
「何で?」
真顔で質問するノア。
「何でって、お前………」
どう説明しよう。自分の愚かしさと、自己中心的な愛情からの行動は、どんなにキレイな言葉を並べたって払拭できはしない。
言葉を詰まらせた俺を、ノアは怪訝な顔をして見ていた。
ゴクリ、と唾を飲み込み口を開いた。
「お前が………俺の番……だから」
「……は?」
絞り出した言葉に、ノアは理解できないって顔をする。
――――だよな………。その反応が普通だろう。
話したいと思っていたけど、ノアがどう反応するのかが怖くて思わず俯いてしまった。
「俺、番って出会ったら直ぐに分かる、運命の半身だと思ってたんだ」
――――コレは言い訳だ。
「だけどノアと出会ってさ。俺よく分からなくなって。ノアと一緒に居れたら嬉しいし、セックスも凄く相性が良いと思う。それだけなら疑問には思わなかったけどさ」
「うん……」
話し出す俺に、取り敢えず聞く姿勢を見せてくれた。
「お前が側から居なくなると、スゴく不安になるんだ。誰かと話してるのを見ると苦しくなるし、相手を殺したくなる」
「…………」
「……俺のモノなのにって」
俯く俺の視界に、僅かに震えるノアの手が入る。
「ホント訳分かんなくなってさ。でも俺がクエスト受けて、あの街を離れてみて気付いた。ノアが……ノアこそが、俺の番だって」
「……おまえ、それいつ気付いたんだ?」
「…………。」
――――それ、やっぱ聞く?俺が愚かでバカバカしい奴だった期間を………。
「ルーカス?」
強めに名前を呼ばれた。
「………2年半前………」
絶句しているような気配に、思わず顔を上げて言い募った。
「最初にセフレ発言しといて、どのツラ下げて言えるってんだよ……」
「…………」
「…お前が俺の…、番だ、なんてさ……」
ノアは困惑した表情で俺を見るだけ。言葉は何も発さなかった。
「……………」
「……………」
重い沈黙がその場を支配する。
ノアは俺を……許してくれるだろうか………。
手近な宿を取ると、直ぐに街医者の所に向かい往診を願う。
沢山薬を持たせたノアの事はしっかり覚えていて、慌てて宿へ出向いてくれた。
正直、例えそれが背中と言えど、他の男に素肌を見せるのは嫌だったが………。
しかし元の怪我と俺が喰み抉った傷は、今の処置だけでは限界がある。
実際に街医者は、ノアの傷を見て絶句していた。
チラリと俺を見る目は物問いたげだったけど、多分俺の執着具合から番だと当たりを付けたみたいだ。
何も聞く事なく、対応してくれた。
しかも彼は正確には街医者ではなく魔術医だと話し、治癒魔法との重ね処置を施した。
お陰であんなに青ざめていたノアの顔色は回復して、呼吸も段々穏やかになっていった。
でも、数日が経ってもノアは目を覚まさない。
「なぁ、ノア」
俺はベッドの横に座り、ノアの手を握った。
「頼むよ。起きてくれ。起きて、またお前の綺麗な瞳を見せて欲しい……」
穏やかな顔をして眠るノアに、俺を見ないノアに、切なさが募る。
握っていたノアの掌を、自分の頬に当てて目を閉じる。番独自の香りだろうか。心地よく芳しい香りが鼻腔を擽る。
「起きて、話を聞いて欲しいよ。ノア」
目を開けて頬に当てていた手をシーツの中に戻す。そしてクシャっとノアの髪を掻き上げながら撫でた。
―――気付いてる?お前、俺がこうして頭を撫でると、いっつもビックリした顔してさ。そして嬉しそうに笑うんだ。
何度だって撫でるし、抱き締めるし、口付けを贈る。
―――だから、起きて。
額にそっと口付ける。そろそろ街医者の所に薬を取りに行く時間だ。俺は重い腰を上げてその場を後にした。
付き合いが長くなってきた街医者とは、ノアの惨状に対してブツクサ文句を漏らされるくらいには親しくなったようだ。
今日もブツブツ文句を言っていたが黙殺し、薬をぶん取って早々にノアの元へ戻った。
今日こそは起きて欲しい……と願いながら、ふと残虐な振る舞いをした俺をどう見るんだろう…と恐怖がムクリと頭を擡もたげる。
フルっと首を振る。それはノアの気持ち次第だ。俺はどうこう言える立場じゃない。
ガチャリと取手を捻り扉を開ける。身体を滑り込ませたその時。
「……ルーカス?」
少し掠れた声で呼ばれて、俺は慌てて振り返る。
「良かった!目が醒めたんだ!気分はどう?痛みは?」
先程浮かんだ恐怖なんか、ノアの美しい黒曜石の瞳を見たらあっという間に霧散した。
でも、ノアにとっては俺の存在は恐怖だったのだろう。
状況が掴めないのか目を丸くしていたけど、次の瞬間はっとなり顔を強張らせていた。
「ルーカス、お前何でここにいるの?」
捻り出された声は硬く低い。
「お前が居なくなったから、追いかけて来たんだよ」
覚悟はしていても、番に示される拒絶の反応にぎゅっと締め付けられるように胸が痛んだ。
「何で?」
真顔で質問するノア。
「何でって、お前………」
どう説明しよう。自分の愚かしさと、自己中心的な愛情からの行動は、どんなにキレイな言葉を並べたって払拭できはしない。
言葉を詰まらせた俺を、ノアは怪訝な顔をして見ていた。
ゴクリ、と唾を飲み込み口を開いた。
「お前が………俺の番……だから」
「……は?」
絞り出した言葉に、ノアは理解できないって顔をする。
――――だよな………。その反応が普通だろう。
話したいと思っていたけど、ノアがどう反応するのかが怖くて思わず俯いてしまった。
「俺、番って出会ったら直ぐに分かる、運命の半身だと思ってたんだ」
――――コレは言い訳だ。
「だけどノアと出会ってさ。俺よく分からなくなって。ノアと一緒に居れたら嬉しいし、セックスも凄く相性が良いと思う。それだけなら疑問には思わなかったけどさ」
「うん……」
話し出す俺に、取り敢えず聞く姿勢を見せてくれた。
「お前が側から居なくなると、スゴく不安になるんだ。誰かと話してるのを見ると苦しくなるし、相手を殺したくなる」
「…………」
「……俺のモノなのにって」
俯く俺の視界に、僅かに震えるノアの手が入る。
「ホント訳分かんなくなってさ。でも俺がクエスト受けて、あの街を離れてみて気付いた。ノアが……ノアこそが、俺の番だって」
「……おまえ、それいつ気付いたんだ?」
「…………。」
――――それ、やっぱ聞く?俺が愚かでバカバカしい奴だった期間を………。
「ルーカス?」
強めに名前を呼ばれた。
「………2年半前………」
絶句しているような気配に、思わず顔を上げて言い募った。
「最初にセフレ発言しといて、どのツラ下げて言えるってんだよ……」
「…………」
「…お前が俺の…、番だ、なんてさ……」
ノアは困惑した表情で俺を見るだけ。言葉は何も発さなかった。
「……………」
「……………」
重い沈黙がその場を支配する。
ノアは俺を……許してくれるだろうか………。
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