上 下
37 / 46
sideルーカス

21.

しおりを挟む
意識を飛ばしたノアは、ぐったりと力なく俺にもたれ掛かった。今にも儚くなってしまいそうなくらい顔色が悪い。
俺はそっとノアを床に横たえた。
段々熱が上がってるのか、漏らす息がゼイゼイと苦しげだ。

あんなに喰ってしまおうと思っていたのに……。
結局、俺にはノアを殺す事はできないみたいだ………。

眉間を寄せてノアを見る。
俺が傷付けて、俺が苦しめたノア。
そっと額にかかる髪を払い、その顔を見る。

そうか。

殺せないのか…。

俺は俯き瞳を閉じた。そしてキツくキツく唇を噛み締める事しかできなかった。
水で濡らしたタオルで丁寧に身体を拭う。
背中は勿論、身体中血塗れだ。
背中の傷は俺が抉り喰んだせいで醜く広がり、悲惨な様を呈していた。

哀れだと思うのに、同時にその傷跡を愛おしく感じている自分が忌々しい。
止血の処置をして、たっぷり薬を塗りガーゼを当てる。
余程ノアは街医者に気に入られたんだろう。
バカみたいに沢山の薬やら軟膏やらガーゼを持たされていた。
有ろう事かノアをキレイとしょうした街医者だけど、薬に罪はないから遠慮なく使う。

処置の間にも熱は上がり続け、カタカタと震え始めた。
額は燃えるように熱いのに、触れた指先は氷のように冷たい。
俺は慌てて自分の天幕用の布を引っ張り出し、そこに薄手の毛布を掛けて簡易のベッドを作った。
そっとノアを抱え、傷に負担とならないように腹這いに寝かせる。
俺はひたすら傷の手当てを繰り返し、その夜を過ごした。


明け方。
か細い、ヒューヒューと笛のような呼吸の音を漏らしながら、ノアが薄っすらと瞳を開けた。
熱のせいか、その瞳は潤みとろんと溶けていて、瞼は開いていても何も見ていないのが伺えた。

「ノア……これ飲んで」

カサつくノアの唇に熱冷ましの丸薬を押し付ける。
意識が僅かでも戻った今の内に薬を飲ませないと、下がるものも下がらない。
なのにノアは全てを拒絶するように僅かに首を振ると、再び瞼を閉じてしまった。

俺の声が聞こえただろうに……。
それなのに拒絶するのか…?

いや、だからこそ拒絶するのだろうか………。

絶望が襲う。
番に拒否られることが、こんなにも苦しいなんて。

「………っ。ノア、頼むよ……」

思わず口から出た言葉は情けないほど慄える。
だけどノアは反応しない。
その姿は生を諦める様でもあって、俺は血相を変えて叫んだ。

「俺から離れて行くくらいなら殺してしまおうと思ったけど!やっぱり無理だっ!頼むよ、置いて逝かないでくれ…」

ぴくんっと瞼が微かに反応したけど、答える声はない。

「許さないからな。離れるなんて、絶対に許さない!」

ノアの肩に腕を回し持ち上げる。熱い息を吐く唇をこじ開けて、薬を押し込んだ。
水袋に口をつけて水を含むと、そっとノアに唇を合わせ流し込む。
コクリ、と喉が上下に動き水を嚥下したのが分かった。
何度か繰り返し、水を飲ませる。

「……っはぁ……」

ため息のように息を吐出したノアは、疲れたのか再びウトウトと眠りの縁に引きずり込まれていった。

ノアを抱えたまま、その顔を見つめる。
ぽつりと、ノアの頬に雫が滴った。

なんて醜悪で、なんて無様なんだろう。
何故、番を純粋に愛することができないんだ……。

ノアに知られたくない。
こんな打算に塗れて、自己中心的な愛しか注げないなんて。

でも。それでも受け入れて欲しいんだ……。


涙は止まる事なく流れ落ち、俺は祈るようにそっと口付けた。
程なくして、薬が効いたのかの呼吸も穏やかになってきた。依然顔色は悪くて意識も戻らないけど、移動するなら今の内か……と考えて、荷物を纏める。

二人分の荷物は担げないため、後から取りに来ようと目立たないように隠す。
できるだけ揺らさないようにノアを抱き上げると、街へ戻るべく足早に街道を歩き始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜

N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間) ハーレム要素あります。 苦手な方はご注意ください。 ※タイトルの ◎ は視点が変わります ※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます ※ご都合主義です、あしからず

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...