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sideルーカス

13.

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カミル兄の番にも挨拶をして、俺は自分の街に戻ることにした。
柔らかく微笑むカミル兄の番は冒険者ではなく、薬師を生業としていた。
確かに町に一人か二人居れば良い方である薬師であれば、この町から出るのは難しいだろう。兄がこの地に腰を落ち着け拠点としたのも頷けた。

「まぁ何だ。互いの拠点も分かったんだ。今度は遊びに来い」

まだ完全には癒えてはいない身体を推して見送りに来てくれたカミル兄は、ニヤリと笑った。

「次はお前の番を見せてくれると信じてるよ」

「善処する………」

詳しくは聞かないと言ったくせに、気付けば洗い浚い話をさせてしまう兄の話術は健在だった……。
クソっと思いつつ、話す事でスッキリできた感は否めず俺は短く別れの挨拶をしてヤクーに乗って自分の街を目指した。

まだ僅かに肩の傷は疼くけど、早くノアに会いたくて出来る限りのスピードでヤクーを走らせる。
行きよりは時間はかかったが、2日目の昼頃には街に着く事ができた。
その足でギルドに向かい、クエスト完了を報告する。

「すまんな、ルーカス。緊急クエスト任せちまって。お陰でギルドの面子も保てた」

「ワイバーンじゃ仕方ねぇよ。片付けとかなきゃ、いつこっちに被害が及ぶか分からん」

「それはそうなんだが……。ああ、怪我をしてるそうだな。治療費を向こうの町が支払うそうだ。今回の報酬と一緒に支払うわ」

「分かった。じゃあ………」

ギルマスと話をしていたが、目の端に紫紺色の髪が映りそっちに視線を向けた。

ノアだ………。

ギルマスとの事務的な用件をさっさと片付け、ノアがいる場所に向かおうとした。
すると俺が側に寄るより早く、1人の男がノアに話しかけた。よく見ると、あの夜俺を挑発してきたヤツだ。
苛つくのをぐっと堪え、ノアの反応を伺う。

にこやかに話しかけるヤツに対して、ノアは必要最小限の答えで対応しているようだ。人当たりが良いノアにしては珍しい。
まじまじと2人を見ている俺に気付いたのか、ギルマスが口を開いた。

「何だぁ?ありゃ、東の問題児じゃねーか。ノアのヤツ、狙われてんのか?」

「東の問題?」

「あぁ、ありゃ10代の頃から悪戯が過ぎて噂になってたヤツだ。親が貴族で町の長って事で誰も諌めねぇまま大人になった迷惑野郎だよ」

「そんなヤツが何でギルドに居るんだ?」

「アレ、あんなんでもギルドに登録してんのさ。好みのヤツ引っ掛けるのに都合が良いんだろ」

その言葉に更に苛つく。

遊びで冒険者やってんじゃねぇ。

俺とギルマスが見ている先で、ヤツは馴れ馴れしくノアの肩を抱き何処かへ連れ出そうとしていた。
俺のイライラが頂点となる。
ツカツカと2人に近付くと、ヤツの手を払い除けてノアを腕の中に囲った。

「何だ、お前っ」

に何か用?」

冷ややかな目でヤツを見る。俺の腕の中でノアは小さく身じろいだ。

「ルーカス?」

「ああ、今帰ってきた。ただいま、ノア」

見上げるノアに、愛おしさを込めて甘く微笑む。
ノアはパチクリと瞬いた後、気遣わし気な顔で俺を見つめた。

「怪我したって聞いたぞ、大丈夫か?」

「問題ない」

短く答える。そして忌々しげにこちらを睨むヤツに見せ付けるように、目尻に口付けた。

「横から割り込んできた上に失礼なヤツだな……っ」

怒りに歪む顔で吐き捨てる。そんな相手を威圧を込めて見据えた。

「もう一度聞いてやる。?」

その問で、流石にヤツも気付いたらしい。

「クソっ………っっ!!」

チッと舌打ちをして、足早に立ち去って行った。獣人の番に手を出す程バカじゃなかったらしい。

その後ろ姿をチラリと流し見て、ノアはふぅ…と息をついた。どうやら俺がいない間に随分振り回されていたようだ。

「お前こそ大丈夫か?」

グッと腕に力を込め、ノアの注意を引く。

「え?あ…、あぁまぁ。ありがと、助かったよ」

「ありゃ何だ?」

「よくあるやつさ。自分の土地を護るために高ランクの冒険者を引き込むって。手っ取り早く自分のモノにすれば話が早いだろ」

「胸くそ悪いな」

「いちいち気にしてたらキリがねぇよ。だけどアイツは特にしつこかった……」

ウンザリ顔のノアの髪をくしゃりと掻き混ぜ、そのまま自分の胸におしつけた。

「安直な考えのヤツは、バッサリぶった斬る方が話が早いだろ。次から俺を頼れよ」

「お前らしいよな、その考え。まぁ次に迷惑なヤツいたら頼むよ」

苦笑いと共に身を離し、軽く胸を叩く。

「お帰りルーカス」

「ああ、戻ったよ」

目を細めてノアを見た。身体の奥深くには、やはり『喰ってしまいたい』って衝動が蠢いてる。
その捕食への渇望も、番への想いだと理解すれば恐れる必要はない。
狩り手の顔をしているだろう自覚はある。湧き上がる歓喜の笑みを浮かべて、もう一度ノアに軽く口付けた。



「ほぉぉーん………?」

カウンターに腕を付いて見守っていたギルマスはニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべた。

「漸くルーカスのヤツの本格始動かい。荒れるだろうなぁ、ギルド内も」
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