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sideルーカス

12.

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「怪我の調子はどう?」

「ああ……ルーカスか」

軽く扉をノックして病室の中に入る。
胸の分厚い筋肉を、真っ白い包帯で覆うカミル兄に声をかけ、椅子をベッド近くに引き寄せて座った。
ワイバーンの討伐はSランクのみのパーティをもってしても熾烈を極めた。
何せ凶暴。一匹でも打ち漏らせば、そのまま近くの町や村を襲い壊滅させる恐れもある。

1日では討伐できず結局3日を要し、死人は出なかったものの6人いたパーティメンバー全員が、深い傷を負った。
特にカミル兄は前衛を担っていたから誰よりも傷が深く、こうして話せるようになるのに3日もかかった。

「度々見舞ってくれたんだってな。すまん」

ガリガリと頭を掻くカミル兄に、俺は首を振った。

「俺も肩やられてたし、これじゃヤクーには乗れない。カミル兄とも話がしたかったし丁度良かったさ」

「ああ……聞きたい事があるとか言ってたな」

「そう。番の事なんだけどさ……」

カミル兄の調子も悪くなさそうと判断して、俺はノアと接する時の衝動の事、番と出逢った時に感じる筈の運命を感じ取れない事を話した。
無言で、それでも真剣に話を聴いていたカミル兄は、俺が話し終わったあと眉間を揉んでため息をついた。

「……なる程なぁ」

ため息ついでに呟き、そして顔を上げて俺に目を向けた。

「お前は獣人独自の本能が強いんだろうな。爺さんもそうだったと聞いたが……」

「本能が強い……?」

逆じゃないのか?寧ろ本能が弱いから番が分からないんじゃ……?
眉を顰める俺に、カミル兄は苦笑いを漏らした。

「大昔の獣人の、最大の愛情表現はさ、相手を喰って身の内に取り込む事だったそうだ。そうやって一つになる事で最愛を表現するし、番を自分のモノに出来たって安心も得る」

俺は小さく目を見開いた。

「その昔には、先に死んだ番を喰うことで弔う時代もあったとか。流石に今の時代にはヤバいがな」

「…じゃ俺は………」

「先祖返り的なモンだろうなぁ。爺さんも番を見付けた時は喰いたい、襲いたいって衝動が強かったって話してたよ。それが獣人の本能からくる愛情表現だ。
よく言われる愛おしいと感じる、唯一の存在だって思うからこそ、身の内に取り込んで手放したくなくなるんだろうさ。その手段が喰う事、だ。」

俺は口元を掌で覆った。

―――じゃあ、やっぱりノアは俺の番……なのか……?
番なのに……、俺は…………。

頭を抱えて盛大に落ち込む俺に、カミル兄は何を感じ取ったのか、ポンポンと頭を撫でてきた。

「見付けたんだな、お前も。この世で唯一を」

暗く沈む俺の瞳を受けて、カミル兄は静かに笑った。

「ルーカス、おめでとう」

「………ああ。」

「ルーカス。何があったか迄は詳しくは聞かん。だがな、番がそこに存在していれば、挽回は可能だ。これからを間違えるなよ」

「……そう…だな……。ああ、そうだな」

俺は頷く。
今迄は番なのか分からず、俺の行動は曖昧だった。
だが、これからは………。
俺は拳を握り締めて、山の向こうを見据えた。

番ならば。
番であるのならば。

勿論俺は躊躇しない。余計なモノは排除する。
そして、最大級に甘やかして溶かしてしまおう。


俺の元に落ちてこい、ノア。

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