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sideルーカス

9.

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ギルドから少し離れた所にある脇道を進み、目的の食堂兼酒場に辿り着く。
迷う事なく扉を潜り店内に足を踏み入れた。

まだ夜と言うには早い時間だったが、早々にクエストを完了させた冒険者で店は賑わっている。
空いているテーブルに腰を落ち着かせ、適当に料理と酒を注文した。

「クエスト完了おつかれ!」

「ありがと。久々の酒に旨い料理が染みる」

コツンとカップを合わせ、ノアは嬉しそうに酒に口をつけた。

「今回のクエストは討伐系?」

「そう。レッドボアのね。収穫前の畑があるから慌てて依頼を出したってさ」

「ああ……、もう収穫の時期か。確かに今収穫がダメになるのはイタイわ」

「うん。お礼に討伐したレッドボア喰わせてくれたけど、畑の作物以外に山の実もたんまり食べてたせいか、めっちゃ旨かった」

クスクス笑いながら何気ない話をする。そんなノアを目を細めて眺めた。
さっきまでモヤついていた気持ちも消え、穏やかな気分になる。自分の気分の変化が不思議なような、至極当然のような………不思議な感覚が襲う。

でもそれは決して不快じゃなく………。

俺は正面に座るノアの口元に手をのばした。

「っ!な…何?」

急に触れられて、ノアはさっきのイタズラを思い出したのか小さく身構えた。

「……ソース。口の端に付いてんぞ」

そっと親指で唇を拭う。ノアの視線を感じつつ、そのままペロリと指を舐めた。

「っっっ!!!」

その瞬間、真っ赤になったノアはガタンと音をたててと立ち上がる。

「お前は……っ!!」

テーブルに両手を着いた状態でぷるぷる震えた後、

「飲み物、注文してくる…っ!」

くるりと身を返してカウンターに逃げてしまった。
ちょっとイジメ過ぎたか……?
逃げるノアの後ろ姿に苦笑する。
気を引くためにイジメるなんて、ガキじゃあるまいし………。

………………………………。

「………………あー………」

椅子の背もたれに片腕を乗せ背中を預けて天井を見上げた。
――――番であればと思う時もある。でもただの肉欲と言われたら、否定できない所もある。
自分が分からない。……もどかしい。

――――と。

ふと店のランプの灯りが遮られテーブルに影が落ちる。
ピリッとした気配に眉間にシワを寄せた。
苛立つ気持ちを目に含ませ、テーブルの脇に立つ男に視線を向ける。

「何か用?」

「んー?いや、ノアに挨拶しとこうかと思って」

男は片目を眇めて、俺を見下ろした。

「挨拶?」

「そー。今回共に旅をした仲間として……ね」

言外に含むモノを察知して男を睨む。
ヤツは俺の視線を受け、目を逸らす事なく肩を竦めた。

「怖いなぁ、そんなに睨まなくてもいいじゃん」

クスクス笑う仕草が癇に障る。

「今回の旅で彼とはなってね。良かったら今晩もって誘うつもりだっただけさ。
だけど、そんなに牽制してくるなら、今日は遠慮しておこうかな」

――――その言葉に頭が真っ白になった。
口の端を持ち上げて、ニヤリと男は嗤う。

「じゃあね。ノアに宜しく」

踵を返して男は立ち去る。
俺は何も言葉を返す事ができず、指が白くなる程キツく拳を握る事しかできなかった。


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