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星に願う sideソルネス
5話
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扉の向こうに広がる部屋は、流石は一国の宰相閣下の執務室だった。趣味の悪い子爵家のものとは違い、品のある落ち着いた調度品で整えられている。
唯一、その場にそぐわないモノがあるとしたら、それは宰相閣下の存在そのものかもしれない。余りにも人離れした美貌に、落ち着いた雰囲気の部屋では浮きまくっている。
これは、あれだ。パーティ会場や華やかな場所が映えるパターンだよね。
礼儀に則った挨拶をしながら、閣下をちらりと見て僕は思う。
ーー普通の生活に馴染まない美貌って、何か不思議だ……。
思わず緩みそうになる口元を、何とか引き締めて宰相閣下の言葉を待った。
「話を聞きましょう。そちらにお座りなさい」
執務室の机に座る彼は、僕にソファを勧めてきた。
僕は閣下に一礼して、そのソファに腰を下ろす。専属の侍女が手早くローテーブルにお茶をセッティングし終わるのを待って、僕は手にしていた書類ケースから準備していた書類を取り出した。
「先日、ライト公爵邸の捜索が終了したと聞きました」
僕のその言葉に、閣下の目が少しだけ細くなる。まぁ、ライト公爵に関する情報は極秘事項としていたのに、僕があっさりその事に触れたから警戒したんだと思う。この反応は想定内だから問題ない。
「……で、それが君となんの関係が?」
「ライト公爵って裏で何やら画策していたみたいですけど、その計画の主軸は公爵ではないみたいです」
僕は情報を小出しにして閣下の反応を待つ。いくらライト公爵が証拠隠滅を図っていたとしても、これくらいの情報は掴んでいて貰わなきゃ話にならない。
どんな反応が返ってくるのかと、わくわくしながら待っていると、宰相閣下はあっさりと肯定してきた。
「そのようですね」
全く顔色も変えずに言ってのける彼に、笑いが込み上がってくる。思わず手にした書類で口元を覆い隠し、僕はくすくすと笑った。
これが小物なら、絶対「何でお前がそんな事を知っているんだ」とか、「証拠はあるのか」って言うんだよね。
でも彼は違った。
僕の存在を胡散臭いと警戒しつつ、僕が告げる情報を疑う事はしない。きっと僕とパーストン伯爵家との繋がりを把握しているからだ。
パーストン伯爵は、王家の暗部を担う一族だ。その一族が齎した情報を疑う事は、その情報を元に様々な判断を下す王家を疑うにも等しい。
閣下の、柔軟に対応できる点は評価できる。彼ならば、きっと過去の事はどうあれ、レイを守ってくれるだろう。
そう判断した僕は、手にしていた書類を宰相補佐官へと渡しす。そして、恐らく閣下を最も怒らせてしまうだろう情報を出すことにした。
「様子を見ていたら、何かレイの情報も集め始めていたんですよね、あの人」
ムカつくバラハン子爵の顔を空中に思い浮かべ、それを睨む様に告げる。その言葉に、宰相閣下が身に纏う気配が変わった。
これが殺気ってヤツなんだろう。腹の底がゾクリと冷え込むような強い圧を感じる。
そう、それでいい。
ねぇ、閣下。僕の親友を手に入れようと思うなら、その本心の欠片でもいいから、僕に見せてよ。
「僕の大切な友達に手を出すんなら話は別。あの子に害を為すつもりなら、僕は絶対に許さない。容赦なく排除するつもり」
そう、それが例え宰相閣下でも、あの子の気持ちを無視して行動するなら、僕は容赦なく排除してやる。
そう強く思った僕に、彼はふと纏う雰囲気を緩めて尋ねてきた。
「素晴らしい友情ですね。しかし君は事の影響をちゃんと理解していますか?」
探るような声音での問に、僕は空中に向けていた視線を閣下へと向けた。ファイヤオパールの様な複雑な色の瞳が、これまた複雑な感情を乗せて僕を見つめている。その瞳を、僕はしっかりと見つめ返す。
「なんのことてしょう?」
すっとぼけてみせたけれど、十中八九、バラハン子爵の反逆罪が確定した後の僕の立場のことだ。
反逆罪に問われた罪人は、その血筋に連なる者全てが処刑の対象となる。それを知った上であの書類を出したのか? と、閣下は問うているのだ。
予想通り口を開いた閣下は、僕を脅すような口振りで告げてくる。
「君が渡した書類はなかなか興味深いものです。もう少し内容を詰めれば、バラハン子爵くらいは反逆罪に問えますね」
試すような言葉に、僕は涼しい顔で頷いてみせる。
「それはよかったです」
「反逆罪は、あとに禍根を残さぬように一族すべてに責を負っていただきます。ですので一族諸共に処刑になりますよ」
「そうでしょうね」
何度も確認するように尋ねてくる閣下に、僕は笑いが込み上がってくるのが止められなくて、短く相槌を打つと、誤魔化すように冷めてしまった紅茶を一口含んだ。
誰だよ、『冷酷・冷徹な宰相閣下』なんて言った奴?
彼は、僕自身が処刑の対象となる事を、僕自身が本当に理解しているのかと、何度も聞いているんだ。
これは別に僕が心配な訳じゃなくて、僕が死ぬことでレイが傷付くのを恐れているんだろう。
番に関しては、閣下もただの男ということか。そんな不器用なところは、実に可愛らしいじゃないか。
そんな事を考えていたら、焦れた閣下はとうとう直球で質問するという手段にでた。
「一族すべて。もちろん君も例外じゃない」
その言葉に、僕は耐えきれずにくすくすと笑ってしまった。
遠回しな言い方を好む貴族らしくないその直球さ、僕は好きだよ。だから、ここら辺でちゃんと答えることにした。
「世間ではひどく恐れられる閣下も、本当にレイには甘いんですね。僕が死んだらレイが傷つくと思って心配になったんですか?」
そう言うと、閣下は驚いたように少し目を大きく開いた。
「君は分かっていて、これを渡したのですか?」
「もちろん」
僕はにっこりと微笑んでみせる。
ここからが一番大事なところだ。絶対にしくじる訳にはいかない。
「こんな風に言うのはおこがましいかもしれませんが、閣下にとってレイがかけがえのない唯一の存在であるように、僕にとっても彼は特別な存在なんです」
そう、あの淋しい施設に放り込まれ絶望しかなかった僕が、再び顔を上げて前を見ることができるようになったのは、あの子が居てくれたお陰だ。
レイが居なければ、今の僕はない。
だから、レイの幸せのためなら、僕は何だってする。例えそれで僕が処罰されようと、何ら関係はないんだ。
僕はソファからゆっくりと立ち上がると、許可を得ないまま閣下の机の前まで進んだ。閣下の補佐官がさっと身構えたけれど、閣下自身がそれを視線で制し、再び僕へとその瞳を向ける。
僕はその赤い瞳から一瞬たりとも目を逸らすことなく、静かに彼へと告げた。
「大切な親友の迷惑になる血なら、この世に存在する意味もありませんよ。たとえそれが自分の身に流れるものであってもね」
そう、レイの迷惑になるのなら、それが僕自身だろうが……、そしてそれが宰相閣下であろうが、僕はその存在を排除してみせる。
言外に含ませるその言葉が、彼に伝わっただろうか?
僅かに瞳を揺らしただけの彼からは、内心どう思ったのかはっきりと伺い知ることはできない。
これは僕が彼の気を引くために売る喧嘩なんだ。
ここで閣下の気が引けないと、僕とレイの絆は、彼によって切られてしまう。切れてもレイのためにできる事はあるけれど、恐らくこれからレイは、国が絡む陰謀の渦中に巻き込まれるはずだ。
その時に、僕は彼の近くに居たい。
理由も分からず放り込まれたあの施設で、「大丈夫」だと、「僕が側に居るよ」と僕を慰めてくれたように、僕も彼を支えてあげたいんだ。
頼むよ閣下、僕の決死の覚悟を無にしないで。この喧嘩、買ってよ。
なんの反応を返さない彼に、僕は手を変えて再度アプローチを掛ける。スーツの内ポケットに忍ばせていたキューブを取り出すと、僕は机の上にコロンと転がした。
「映像キューブ、ご存知ですよね?」
コロリと転がって止まったキューブを、閣下の赤い瞳が見つめる。その顔は、不可解そうに眉を顰めていた。
「平民が手に入れられるくらいのキューブなので質はよくありませんけど、これにはレイの昔の映像か収められています。お近づきの記念にどうぞ」
僕の言葉に閣下は視線を上げて僕を見て、そしてもう一度キューブに目を向け、じっとそれを凝視した。少しの間のあと、閣下が口を開く。
「ーー見返りは?」
その言葉に、僕は内心で「よしっ!」と叫び、大きくガッツポーズを作った。これで、レイとの繋がりが保てる!
狂喜乱舞する気持ちを押し隠し、僕は冷静を装う。
「別に? あえて言うなら、レイを守るために僕も協力させてほしいってことくらいでしょうか」
そう告げると閣下は僕を見上げて言葉を詰まらせた。その顔に僕がにんまりと笑うと、彼は「はぁ……」っとため息をついた。
「いいでしょう」
その言葉を待っていた僕は、安堵の気持ちとともに溢れ出す喜びを抑える事ができなくて、ついつい破顔してしまった。
閣下からの言質は取れたから、もうこの場に留まる理由はない。
僕は退室の挨拶をして、その場を立ち去ろうとした。でも、ほんの少しのイタズラ心が湧き上がり、さり気なくキューブのスイッチに触れて起動させる。
「では、また情報が入り次第ご連絡致します。……ゆっくりお楽しみください」
そして閣下がキューブの映像に釘付けになっている隙に、さっさと扉の所へと移動する。
扉を閉める間際にちらりと閣下を見てみると、冷酷と噂される宰相閣下は、愛しさと切なさと、そしてほんの少しだけ罪悪感を滲ませた赤い瞳で、その短い映像をただじっと見つめているのだった。
唯一、その場にそぐわないモノがあるとしたら、それは宰相閣下の存在そのものかもしれない。余りにも人離れした美貌に、落ち着いた雰囲気の部屋では浮きまくっている。
これは、あれだ。パーティ会場や華やかな場所が映えるパターンだよね。
礼儀に則った挨拶をしながら、閣下をちらりと見て僕は思う。
ーー普通の生活に馴染まない美貌って、何か不思議だ……。
思わず緩みそうになる口元を、何とか引き締めて宰相閣下の言葉を待った。
「話を聞きましょう。そちらにお座りなさい」
執務室の机に座る彼は、僕にソファを勧めてきた。
僕は閣下に一礼して、そのソファに腰を下ろす。専属の侍女が手早くローテーブルにお茶をセッティングし終わるのを待って、僕は手にしていた書類ケースから準備していた書類を取り出した。
「先日、ライト公爵邸の捜索が終了したと聞きました」
僕のその言葉に、閣下の目が少しだけ細くなる。まぁ、ライト公爵に関する情報は極秘事項としていたのに、僕があっさりその事に触れたから警戒したんだと思う。この反応は想定内だから問題ない。
「……で、それが君となんの関係が?」
「ライト公爵って裏で何やら画策していたみたいですけど、その計画の主軸は公爵ではないみたいです」
僕は情報を小出しにして閣下の反応を待つ。いくらライト公爵が証拠隠滅を図っていたとしても、これくらいの情報は掴んでいて貰わなきゃ話にならない。
どんな反応が返ってくるのかと、わくわくしながら待っていると、宰相閣下はあっさりと肯定してきた。
「そのようですね」
全く顔色も変えずに言ってのける彼に、笑いが込み上がってくる。思わず手にした書類で口元を覆い隠し、僕はくすくすと笑った。
これが小物なら、絶対「何でお前がそんな事を知っているんだ」とか、「証拠はあるのか」って言うんだよね。
でも彼は違った。
僕の存在を胡散臭いと警戒しつつ、僕が告げる情報を疑う事はしない。きっと僕とパーストン伯爵家との繋がりを把握しているからだ。
パーストン伯爵は、王家の暗部を担う一族だ。その一族が齎した情報を疑う事は、その情報を元に様々な判断を下す王家を疑うにも等しい。
閣下の、柔軟に対応できる点は評価できる。彼ならば、きっと過去の事はどうあれ、レイを守ってくれるだろう。
そう判断した僕は、手にしていた書類を宰相補佐官へと渡しす。そして、恐らく閣下を最も怒らせてしまうだろう情報を出すことにした。
「様子を見ていたら、何かレイの情報も集め始めていたんですよね、あの人」
ムカつくバラハン子爵の顔を空中に思い浮かべ、それを睨む様に告げる。その言葉に、宰相閣下が身に纏う気配が変わった。
これが殺気ってヤツなんだろう。腹の底がゾクリと冷え込むような強い圧を感じる。
そう、それでいい。
ねぇ、閣下。僕の親友を手に入れようと思うなら、その本心の欠片でもいいから、僕に見せてよ。
「僕の大切な友達に手を出すんなら話は別。あの子に害を為すつもりなら、僕は絶対に許さない。容赦なく排除するつもり」
そう、それが例え宰相閣下でも、あの子の気持ちを無視して行動するなら、僕は容赦なく排除してやる。
そう強く思った僕に、彼はふと纏う雰囲気を緩めて尋ねてきた。
「素晴らしい友情ですね。しかし君は事の影響をちゃんと理解していますか?」
探るような声音での問に、僕は空中に向けていた視線を閣下へと向けた。ファイヤオパールの様な複雑な色の瞳が、これまた複雑な感情を乗せて僕を見つめている。その瞳を、僕はしっかりと見つめ返す。
「なんのことてしょう?」
すっとぼけてみせたけれど、十中八九、バラハン子爵の反逆罪が確定した後の僕の立場のことだ。
反逆罪に問われた罪人は、その血筋に連なる者全てが処刑の対象となる。それを知った上であの書類を出したのか? と、閣下は問うているのだ。
予想通り口を開いた閣下は、僕を脅すような口振りで告げてくる。
「君が渡した書類はなかなか興味深いものです。もう少し内容を詰めれば、バラハン子爵くらいは反逆罪に問えますね」
試すような言葉に、僕は涼しい顔で頷いてみせる。
「それはよかったです」
「反逆罪は、あとに禍根を残さぬように一族すべてに責を負っていただきます。ですので一族諸共に処刑になりますよ」
「そうでしょうね」
何度も確認するように尋ねてくる閣下に、僕は笑いが込み上がってくるのが止められなくて、短く相槌を打つと、誤魔化すように冷めてしまった紅茶を一口含んだ。
誰だよ、『冷酷・冷徹な宰相閣下』なんて言った奴?
彼は、僕自身が処刑の対象となる事を、僕自身が本当に理解しているのかと、何度も聞いているんだ。
これは別に僕が心配な訳じゃなくて、僕が死ぬことでレイが傷付くのを恐れているんだろう。
番に関しては、閣下もただの男ということか。そんな不器用なところは、実に可愛らしいじゃないか。
そんな事を考えていたら、焦れた閣下はとうとう直球で質問するという手段にでた。
「一族すべて。もちろん君も例外じゃない」
その言葉に、僕は耐えきれずにくすくすと笑ってしまった。
遠回しな言い方を好む貴族らしくないその直球さ、僕は好きだよ。だから、ここら辺でちゃんと答えることにした。
「世間ではひどく恐れられる閣下も、本当にレイには甘いんですね。僕が死んだらレイが傷つくと思って心配になったんですか?」
そう言うと、閣下は驚いたように少し目を大きく開いた。
「君は分かっていて、これを渡したのですか?」
「もちろん」
僕はにっこりと微笑んでみせる。
ここからが一番大事なところだ。絶対にしくじる訳にはいかない。
「こんな風に言うのはおこがましいかもしれませんが、閣下にとってレイがかけがえのない唯一の存在であるように、僕にとっても彼は特別な存在なんです」
そう、あの淋しい施設に放り込まれ絶望しかなかった僕が、再び顔を上げて前を見ることができるようになったのは、あの子が居てくれたお陰だ。
レイが居なければ、今の僕はない。
だから、レイの幸せのためなら、僕は何だってする。例えそれで僕が処罰されようと、何ら関係はないんだ。
僕はソファからゆっくりと立ち上がると、許可を得ないまま閣下の机の前まで進んだ。閣下の補佐官がさっと身構えたけれど、閣下自身がそれを視線で制し、再び僕へとその瞳を向ける。
僕はその赤い瞳から一瞬たりとも目を逸らすことなく、静かに彼へと告げた。
「大切な親友の迷惑になる血なら、この世に存在する意味もありませんよ。たとえそれが自分の身に流れるものであってもね」
そう、レイの迷惑になるのなら、それが僕自身だろうが……、そしてそれが宰相閣下であろうが、僕はその存在を排除してみせる。
言外に含ませるその言葉が、彼に伝わっただろうか?
僅かに瞳を揺らしただけの彼からは、内心どう思ったのかはっきりと伺い知ることはできない。
これは僕が彼の気を引くために売る喧嘩なんだ。
ここで閣下の気が引けないと、僕とレイの絆は、彼によって切られてしまう。切れてもレイのためにできる事はあるけれど、恐らくこれからレイは、国が絡む陰謀の渦中に巻き込まれるはずだ。
その時に、僕は彼の近くに居たい。
理由も分からず放り込まれたあの施設で、「大丈夫」だと、「僕が側に居るよ」と僕を慰めてくれたように、僕も彼を支えてあげたいんだ。
頼むよ閣下、僕の決死の覚悟を無にしないで。この喧嘩、買ってよ。
なんの反応を返さない彼に、僕は手を変えて再度アプローチを掛ける。スーツの内ポケットに忍ばせていたキューブを取り出すと、僕は机の上にコロンと転がした。
「映像キューブ、ご存知ですよね?」
コロリと転がって止まったキューブを、閣下の赤い瞳が見つめる。その顔は、不可解そうに眉を顰めていた。
「平民が手に入れられるくらいのキューブなので質はよくありませんけど、これにはレイの昔の映像か収められています。お近づきの記念にどうぞ」
僕の言葉に閣下は視線を上げて僕を見て、そしてもう一度キューブに目を向け、じっとそれを凝視した。少しの間のあと、閣下が口を開く。
「ーー見返りは?」
その言葉に、僕は内心で「よしっ!」と叫び、大きくガッツポーズを作った。これで、レイとの繋がりが保てる!
狂喜乱舞する気持ちを押し隠し、僕は冷静を装う。
「別に? あえて言うなら、レイを守るために僕も協力させてほしいってことくらいでしょうか」
そう告げると閣下は僕を見上げて言葉を詰まらせた。その顔に僕がにんまりと笑うと、彼は「はぁ……」っとため息をついた。
「いいでしょう」
その言葉を待っていた僕は、安堵の気持ちとともに溢れ出す喜びを抑える事ができなくて、ついつい破顔してしまった。
閣下からの言質は取れたから、もうこの場に留まる理由はない。
僕は退室の挨拶をして、その場を立ち去ろうとした。でも、ほんの少しのイタズラ心が湧き上がり、さり気なくキューブのスイッチに触れて起動させる。
「では、また情報が入り次第ご連絡致します。……ゆっくりお楽しみください」
そして閣下がキューブの映像に釘付けになっている隙に、さっさと扉の所へと移動する。
扉を閉める間際にちらりと閣下を見てみると、冷酷と噂される宰相閣下は、愛しさと切なさと、そしてほんの少しだけ罪悪感を滲ませた赤い瞳で、その短い映像をただじっと見つめているのだった。
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