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夢に見る

13.

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ざまぁの回……と言うには、マイナが黒過ぎる…………。
直接手を下すシーンはありませんが、ジワジワ精神的にクるお話となっております。
苦手な方はすっ飛ばしてください。
内容は、ブチギレたマイナがざまぁするお話とご理解頂ければ……。

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公爵家の屋敷の一室。二人の青年が優雅に午後のティータイムを楽しんでいた。
クスクスと笑う声には嘲りが含まれていて、聞いていて気持ちのいいものではない。なまじ二人とも生粋の貴族ならではの大変整った容貌をしているだけに、その笑い声を洩らす姿はいっそ醜悪でもあった。

「あの時の平民の顔!」

「所詮平民だから、魔法なんて見たことも無かっただろうしねぇ」

「ふふ、確かに」

「役立たずな平民の癖に、貴重な閣下のお時間を奪うなんて許せるわけがない。閣下の昼の巡視時間が減って、お話をする機会が無くなったんだよ?だと言うのに、彼奴は食堂なんて下品な場所で宰相閣下を引き止めて話をしているなんて」

「閣下からお声をかけて頂ける貴重な時間だったのに……」

「父上にも話は通しているから。彼奴を害した事が公になっても、父上がどうにでも処理してくれる」

「公爵家だからね、誰も異議は唱えれない、か。ふふ……それならもっと…………」「ーーーーもっと……何?」

「え?」
「…………は?」

その場に居るはずがない第三者の声に、二人はぎょっと目を見開き、慌てて辺りを見渡す。
見慣れた部屋……の筈が、切って落とされたとばりの様に一瞬にして闇に包まれ景色が変わった。

灯りのない地下なのか、何処も彼処も真っ暗闇に包まれている。先程まで昼の日差しも眩しいくらいの部屋にいた分、暗順応ができない。
自分の手を顔の前に翳してみても全く見えない真の闇に、ジワジワと不安と恐怖が増していく。

ーーーとその時、ぽぅ………っと、遠くに火が灯った。ぽ……ぽ……ぽ……と、ゆらゆらと等間隔に灯っていくそれは、蝋燭の明かりだろうか?ひどく心許ない。

やがて彼らの側にも1つ蝋燭が浮かび、火が灯った。
仄かな明かりではあったけど、それでも互いの存在を知る事はできる。自分以外の人の姿を見て、安堵の息をついた。

「何処だ、ここ?」

「さ……さぁ……?さっきまで君の屋敷の筈だったのに、どうやって………」

幾分か余裕が回復し、現状を把握しようとしたその時。

「ようこそ、私の世界へ」

耳に心地良い、柔らかな声が響いた。
一瞬、蝋燭の明かりが揺蕩たゆたい、一部闇が深くなる。僅かに空気が動く気配と共に人影が現れて、二人はビクリと身を震わせた。
ーーーーが、それも現れた人影が憧れて止まない人物と知ると、安堵に緩む。

「マイグレース様!どうして此処に?」

「知らない場所で不安だったんです。お会いできて嬉しいです」

出会えた事を喜び近付こうとしたが、マイグレースの顔を見てその足を止めた。

「マ……マイグレース、様?」

その顔に浮かべているのは笑顔。なのに冷え冷えとした雰囲気を感じる。

「貴方達に、私の大事なものが世話になったと知りまして、お礼に伺ったんですよ」

「だ…だいじな、もの、ですか?」

問う声が震える。

「ええ。私の命よりも大切で、美しく愛しいもの」

ふふ………っと笑う。整いすぎて眺めるのも畏れ多いと感じる美貌に、つい震えていたのも忘れて見惚れてしまう。ーーーが。

「私の全身をかけて慈しみ護りたいと願う存在を、貴方達は害したのですね……」

ピシリと固まる。害した?そうだ。昨日あの平民を………。
何故それでマイグレース様が出てくるんだ?命より大切なもの……って………まさか…………。

「ーーーーーーーーつがい?」

「そう、正解」

優しく微笑む。柔らかな表情が、現状と一致しなくて更に恐怖心を煽ってくる。

「も……申し訳ございませ……ん」

「知らな、くて………私達は……あ………」

カタカタとおこりのように震えだす。許しを請わなければ……。震える唇を必死に動かすけど、凍り付いたように声帯は固まったまま。

「ふふ、謝罪の言葉を受ける気はありません。貴方達には自分達がしたことの責任を取って頂きます」

「な……に、を」

「………あ」

「獏というのは、夢の世界に入り込むだけじゃなくて、相手を夢に引き摺り込むこともできるんですよね」

優しく優しく語りかける。

「人は暗闇の中で、どのくらい持つか知ってます?」

ぽ………っ、と直ぐ側の火が消える。

「早ければ6時間で狂うそうですよ?」

更にもう1つ、明かりが消える。

「自死の手段はありません。餓死が先か発狂死が先か………」

1つまた1つ…………容赦なく蝋燭の火が消えていく。

「ふ………楽しみですね」

最後の1つが消える間際に見えたのは、冴え冴えと凍てついた美貌の蔑んだ嗤いだった。



「マイグレース様!お許しください!お許しください!!」
「こんな……っ!暗闇など、嫌です!助けてください!」
「マイグレースさま!!!」
「あ、ぁあああ………嫌だーーーーーーっ!!」

響く絶叫は誰の耳にも届く事はなく、軈て漆黒の闇に呑まれて消えた。





キィキィと、執務室の立派な革張りの椅子を揺らしながら行儀悪く座る。自分の屋敷の様に寛いでいるが、此処はマイグレースが潰すと決めた公爵邸。
屋敷の主に断りもなく、有ろうことか執務室に入り込み、その主がやって来るのを待つ。
ゆったりと座り心地の良い椅子を堪能していたその時、カチャリと取手が動き扉が開いた。

片手に持つ書類に目を落としながら入ってきた人物は、人の気配に顔を上げ、自分の席に傍若無人に居座るマイグレースを見ると眉を顰めた。

「これはこれは、ダンカン宰相。私に何か用かね?」

共に公爵位であるが、役職が宰相であるマイグレースの方が地位は上位となる。幾ら礼に欠く行動をしていても、ぞんざいに対応していい相手ではない。

「ライト公爵、お久し振りですね?」

背凭れに身体を預け、ニコリと微笑む。長い脚を組み替え、首を少し傾げた。人差し指で自身の顳顬こめかみをトントンと軽く叩き、続けて言葉を発する。

「そして永久のお別れを申し上げます」

「ーーーーはっ、何を………」

ジワリと額に汗が浮かぶが、表情は崩さない。高位貴族として政に携わってきたのだ。表情を作る事など造作も無い。

「貴方のご子息が『うっかり』私の番に手を出したようで。お陰様で、私も正攻法で行動に出る事ができました」

ピクっと眉が動く。

「貴方、ですね?私の番を害して、自分の息子を充てがおうと画策していたのは」

「何の言い掛かりかな?」

「言い掛かり、ですか?」

クスクスと笑う。身を乗り出し机に肘を着くと、乗せてあった書類をパサリと放った。

「施設に在籍していた時から、私の番は狙われていましたが。最近は更に酷くなっていましてね。暗殺者が来ることもありましたよ」

「ーーーーそれで?」

「番の保護法……ご存知ですよね?」

「……………」

番を盾に不本意な行動がなされた場合、軽微な内容であっても私刑が許される。

「筆頭公爵家、宰相の位がそんなに魅力的でした?」

自分の息子と婚姻を結ばせ、子を成した後に宰相を殺害。孫の地位確立を御旗に、外戚としてダンカン家に喰い込むつもりだったのか。随分と杜撰で稚拙な計画に、失笑が漏れる。

「流石に悪質だと陛下もお認めになりまして。王室の影を使わせて頂く事ができました」
お陰様で調査が楽になって……と、微笑んでいる。

その言葉にヒュッと喉が鳴った。息子の行動が切っ掛けではなく、それよりも以前から目を付けられていた?

「……………私はライト公爵家当主だ。いくら番の保護法といえど、手を出す事は……」

「ああ、ちゃんと陛下の許可も頂きましたよ?『公爵家を潰して良い』と、ね」

「……………っつ!!!」

「レイに手を出さなければ、見逃したものを。貴方は私の地雷を踏み抜くのがお上手ですね?」

マイグレースはクスクスと嗤う。どっと恐怖から汗が滝のように流れ出す。

「ああ、そうそう。楽に死ねるとは思わないでくださいね?」


目の前に迫る掌から逃れる術は………もう無い。




その日以降ライト公爵を見たものはおらず、軈て後継者不在の理由に因って貴族籍からその名は消え去ることとなる。
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