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sideイリアス
1話
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「私、イリアス・ダンカンは、ウィリテを生涯守り愛する事を眠りの樹に誓い………」
目の前に立つまだ若い樹を見上げた。愛しい君がここで眠りについている。
私が後先考えずに行動した結果、彼を酷く傷付けてしまったから………。
傷付つけた………と分かっていても、でもやっぱり君を諦めきれない私は、まともな思考を持つ人間とは言えないだろう。
私は一歩、樹の根元に近付いて片膝をつき跪いた。
「ただ一匹の獣として、君の愛を希う。ウィリテ、私の愛しい君。君の愛の一欠片でもいい、この獣に与えてくれはしないだろうか……」
出会う前から君が森の民であること、とてつもない不幸が君を襲ったこと、それを私は知っていた。
でも君は私の番なのだから全力で君を守るし幸せにしてみせるのだと……、そうすれば君も安心できるだろうと思っていたんだ。
でも違った。
君が何に怯え、何を恐れているのか。
それを知ろうともしなかった私が、君を手に入れれなかったのは当然だ。
頭を垂れて待つ。
どれほどの時が経とうとも、君が返事をくれるまで待つから………。
ーーーーどうか、もう一度。その姿を見せて欲しいんだ………。
□□□
「はぁ?またアイツら、国境破って来やがったのかよ!?」
イライラとした様子で、年若いライティグス国王陛下は言い放った。前日、国境辺りに怪しい動きがあると報告を受けて騎士団を派遣してみれば、隣国のトランファームが魔石欲しさに国境を侵してきたらしい。
一応、あの国とは同盟を結んでいるから、恐らく動いたのは目先の欲に溺れた一部の下位貴族辺りだろう。とは言え、実際に国境を乗り越えて侵入しているわけだから、あの国へは厳しく制裁を下す必要がある。
激高する陛下をチラリと見る。陛下は先日愛しい番を見付けたばかり。大事な大事な番がいる国を脅かす存在が我慢ならないのだろう。
私はまだ番を得てはいないが、獣人として陛下の気持ちは良く分かる。
今はまだ冷静さに欠く陛下の代わりに、何が一番あの国のへの制裁に相応しいか素早く考えた。そして、実際にこちらに乗り込んできたバカ共を尋問し、事の発端となった奴らを洗い出そうと考えた私は、報告に来ていた看守に尋ねた。
「捕虜たちはどこに?」
「第三監獄に投獄しております!」
直立不動のまま、ビシっと返答をする看守。私は彼に冷やかな目を向けた。監獄にもいくつか種類がある。貴人用であったり、力が強い獣人用であったりと様々。しかし第三監獄は、所謂『拷問用』の監獄であった。
確かに、国境を侵す輩が素直に話をするとは思えない。………が、最初から拷問は考えていないのだか。
私の視線を感じたのか、看守はじっと空中に目を向けたまま口を開いた。
「まだ確認は取れていませんが、奴らは傭兵上がりのようです。素直に口を割らないでしょう。それに……」
少し迷うような素振りを見せた看守は、僅かに眉間の皺を深めて視線を泳がせた。
「上手く言えませんが、あの第三でなければならないと、強く感じたためであります」
彼は猫の獣人だ。猫は特に不思議なカンが働きやすいというし、これもその一環なのかもしれない。まぁ場所が知りたかっただけだし、収容されている場所はどこだっていいのだが……。
私は軽く頷くと、陛下に断りを入れて第三監獄へと向かった。結論から言うと、看守の選択は本当に正しかったのだが、その時の私にはさして問題にもしていなかった。
目の前に立つまだ若い樹を見上げた。愛しい君がここで眠りについている。
私が後先考えずに行動した結果、彼を酷く傷付けてしまったから………。
傷付つけた………と分かっていても、でもやっぱり君を諦めきれない私は、まともな思考を持つ人間とは言えないだろう。
私は一歩、樹の根元に近付いて片膝をつき跪いた。
「ただ一匹の獣として、君の愛を希う。ウィリテ、私の愛しい君。君の愛の一欠片でもいい、この獣に与えてくれはしないだろうか……」
出会う前から君が森の民であること、とてつもない不幸が君を襲ったこと、それを私は知っていた。
でも君は私の番なのだから全力で君を守るし幸せにしてみせるのだと……、そうすれば君も安心できるだろうと思っていたんだ。
でも違った。
君が何に怯え、何を恐れているのか。
それを知ろうともしなかった私が、君を手に入れれなかったのは当然だ。
頭を垂れて待つ。
どれほどの時が経とうとも、君が返事をくれるまで待つから………。
ーーーーどうか、もう一度。その姿を見せて欲しいんだ………。
□□□
「はぁ?またアイツら、国境破って来やがったのかよ!?」
イライラとした様子で、年若いライティグス国王陛下は言い放った。前日、国境辺りに怪しい動きがあると報告を受けて騎士団を派遣してみれば、隣国のトランファームが魔石欲しさに国境を侵してきたらしい。
一応、あの国とは同盟を結んでいるから、恐らく動いたのは目先の欲に溺れた一部の下位貴族辺りだろう。とは言え、実際に国境を乗り越えて侵入しているわけだから、あの国へは厳しく制裁を下す必要がある。
激高する陛下をチラリと見る。陛下は先日愛しい番を見付けたばかり。大事な大事な番がいる国を脅かす存在が我慢ならないのだろう。
私はまだ番を得てはいないが、獣人として陛下の気持ちは良く分かる。
今はまだ冷静さに欠く陛下の代わりに、何が一番あの国のへの制裁に相応しいか素早く考えた。そして、実際にこちらに乗り込んできたバカ共を尋問し、事の発端となった奴らを洗い出そうと考えた私は、報告に来ていた看守に尋ねた。
「捕虜たちはどこに?」
「第三監獄に投獄しております!」
直立不動のまま、ビシっと返答をする看守。私は彼に冷やかな目を向けた。監獄にもいくつか種類がある。貴人用であったり、力が強い獣人用であったりと様々。しかし第三監獄は、所謂『拷問用』の監獄であった。
確かに、国境を侵す輩が素直に話をするとは思えない。………が、最初から拷問は考えていないのだか。
私の視線を感じたのか、看守はじっと空中に目を向けたまま口を開いた。
「まだ確認は取れていませんが、奴らは傭兵上がりのようです。素直に口を割らないでしょう。それに……」
少し迷うような素振りを見せた看守は、僅かに眉間の皺を深めて視線を泳がせた。
「上手く言えませんが、あの第三でなければならないと、強く感じたためであります」
彼は猫の獣人だ。猫は特に不思議なカンが働きやすいというし、これもその一環なのかもしれない。まぁ場所が知りたかっただけだし、収容されている場所はどこだっていいのだが……。
私は軽く頷くと、陛下に断りを入れて第三監獄へと向かった。結論から言うと、看守の選択は本当に正しかったのだが、その時の私にはさして問題にもしていなかった。
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