お一人様希望なので、その番認定は困ります〜愛されるのが怖い僕と、番が欲しい宰相閣下の話~

飛鷹

文字の大きさ
上 下
13 / 29
sideイリアス

1話

しおりを挟む
「私、イリアス・ダンカンは、ウィリテを生涯守り愛する事を眠りの樹に誓い………」

目の前に立つまだ若い樹を見上げた。愛しい君がここで眠りについている。
私が後先考えずに行動した結果、彼を酷く傷付けてしまったから………。
傷付つけた………と分かっていても、でもやっぱり君を諦めきれない私は、まともな思考を持つ人間とは言えないだろう。
私は一歩、樹の根元に近付いて片膝をつきひざまずいた。

「ただ一匹の獣として、君の愛をこいねがう。ウィリテ、私の愛しい君。君の愛の一欠片でもいい、この獣に与えてくれはしないだろうか……」

出会う前から君が森の民であること、とてつもない不幸が君を襲ったこと、それを私は知っていた。
でも君は私の番なのだから全力で君を守るし幸せにしてみせるのだと……、そうすれば君も安心できるだろうと思っていたんだ。
でも違った。
君が何に怯え、何を恐れているのか。
それを知ろうともしなかった私が、君を手に入れれなかったのは当然だ。

頭を垂れて待つ。
どれほどの時が経とうとも、君が返事をくれるまで待つから………。

ーーーーどうか、もう一度。その姿を見せて欲しいんだ………。


□□□


「はぁ?またアイツら、国境破って来やがったのかよ!?」

イライラとした様子で、年若いライティグス国王陛下は言い放った。前日、国境辺りに怪しい動きがあると報告を受けて騎士団を派遣してみれば、隣国のトランファームが魔石欲しさに国境を侵してきたらしい。

一応、あの国とは同盟を結んでいるから、恐らく動いたのは目先の欲に溺れた一部の下位貴族辺りだろう。とは言え、実際に国境を乗り越えて侵入しているわけだから、あの国へは厳しく制裁を下す必要がある。


激高する陛下をチラリと見る。陛下は先日愛しい番を見付けたばかり。大事な大事な番がいる国を脅かす存在が我慢ならないのだろう。
私はまだ番を得てはいないが、獣人として陛下の気持ちは良く分かる。
今はまだ冷静さに欠く陛下の代わりに、何が一番あの国のへの制裁に相応しいか素早く考えた。そして、実際にこちらに乗り込んできたバカ共を尋問し、事の発端となった奴らを洗い出そうと考えた私は、報告に来ていた看守に尋ねた。

「捕虜たちはどこに?」

「第三監獄に投獄しております!」

直立不動のまま、ビシっと返答をする看守。私は彼に冷やかな目を向けた。監獄にもいくつか種類がある。貴人用であったり、力が強い獣人用であったりと様々。しかし第三監獄は、所謂『拷問用』の監獄であった。

確かに、国境を侵す輩が素直に話をするとは思えない。………が、最初から拷問は考えていないのだか。
私の視線を感じたのか、看守はじっと空中に目を向けたまま口を開いた。

「まだ確認は取れていませんが、奴らは傭兵上がりのようです。素直に口を割らないでしょう。それに……」

少し迷うような素振りを見せた看守は、僅かに眉間の皺を深めて視線を泳がせた。

「上手く言えませんが、あの第三でなければならないと、強く感じたためであります」

彼は猫の獣人だ。猫は特に不思議なカンが働きやすいというし、これもその一環なのかもしれない。まぁ場所が知りたかっただけだし、収容されている場所はどこだっていいのだが……。

私は軽く頷くと、陛下に断りを入れて第三監獄へと向かった。結論から言うと、看守の選択は本当に正しかったのだが、その時の私にはさして問題にもしていなかった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

断罪された悪役側婿ですが、氷狼の騎士様に溺愛されています

深凪雪花
BL
 リフォルジア国王の側婿となるも、後宮の秩序を乱した罪で、リフルォジア国王の側近騎士ローレンスに降婿させられる悪役側婿『リアム・アーノルド』に転生した俺こと笹川望。  ローレンスには冷遇され続け、果てには行方をくらまされるというざまぁ展開が待っているキャラだが、ノンケの俺にとってはその方が都合がいい。  というわけで冷遇婿ライフを満喫しようとするが、何故か優しくなり始めたローレンスにまだ国王陛下を慕っているという設定で接していたら、「俺がその想いを忘れさせる」と強引に抱かれるようになってしまい……? ※★は性描写ありです。

国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!

古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます! 7/15よりレンタル切り替えとなります。 紙書籍版もよろしくお願いします! 妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。 成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた! これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。 「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」 「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」 「んもおおおっ!」 どうなる、俺の一人暮らし! いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど! ※読み直しナッシング書き溜め。 ※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。  

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

モブ兄に転生した俺、弟の身代わりになって婚約破棄される予定です

深凪雪花
BL
テンプレBL小説のヒロイン♂の兄に異世界転生した主人公セラフィル。可愛い弟がバカ王太子タクトスに傷物にされる上、身に覚えのない罪で婚約破棄される未来が許せず、先にタクトスの婚約者になって代わりに婚約破棄される役どころを演じ、弟を守ることを決める。 どうにか婚約に持ち込み、あとは婚約破棄される時を待つだけ、だったはずなのだが……え、いつ婚約破棄してくれるんですか? ※★は性描写あり。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

お飾り王婿ライフを満喫しようとしたら、溺愛ルートに入りました?

深凪雪花
BL
 前世の記憶を取り戻した侯爵令息エディ・テルフォードは、それをきっかけにベータからオメガに変異してしまう。  そしてデヴォニア国王アーノルドの正婿として後宮入りするが、お飾り王婿でいればそれでいいと言われる。  というわけで、お飾り王婿ライフを満喫していたら……あれ? なんか溺愛ルートに入ってしまいました? ※★は性描写ありです ※2023.08.17.加筆修正しました

処理中です...