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sideウィリテ
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はぁはぁと息を切らしながら走る。草を踏み潰しながら走るから、ザクザクと音が響く。
僕は心のなかで『ごめんなさい』と植物たちに謝りながら、それでも一生懸命に足を進めた。
ーーーー大丈夫。これは夢だから大丈夫………。
そう思っても、恐怖心はなくならない。
捕まってしまう。逃げなきゃ………っ。逃げなきゃ!!
そして繰り返される、あの場面。
森の中のひと際大きな木の根元にたどり着いた時、僕の背筋を不穏な気配が襲ってきた。
ゾクリと背中を這う悪寒に身を震わせる。
ーーーーやっぱり逃げ切れなかった………。
大木の幹に縋りつくように手を置き、戦慄く身体を支えた。もう逃げる体力も気力もない。
背後からザクザクと乱暴な足音がしても、僕はもう振り返ることもできずに、ただ震えていることしかできなかった。やがて足音は僕の直ぐ後ろで止まる。
いつもの夢の通りだ。
そして伸ばされた腕が僕の肩を掴み、いつものように残酷な事実を告げてくる。
『残った森の民は、もうお前だけだ』
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたヤツが僕を見ている。
『キレイな顔が歪むのも、見ものだな。なに、ちゃんとお前もキモチよくしてやるよ……』
ーーーーそうだ、僕はこの後コイツに………。
唇を噛みしめる。これは夢だ。分かっている。何度も繰り返し見た、残酷な夢。
僕の一族である、森の民が死に絶えた日。
ーーーーそして、僕が名も知らぬ男に組み敷かれ蹂躙された、過ぎ去った日の悪夢。
僕は俯き、瞳を閉じた。
忘れたいのに。
残酷な神様は、忘れることを僕に許さない。
『誰か、助けてよ………』
小さな呟きは誰の耳にも入ることもなく、僕は目が醒めるまでこの残酷な夢の続きを見続けるしかないのだ。
僕は心のなかで『ごめんなさい』と植物たちに謝りながら、それでも一生懸命に足を進めた。
ーーーー大丈夫。これは夢だから大丈夫………。
そう思っても、恐怖心はなくならない。
捕まってしまう。逃げなきゃ………っ。逃げなきゃ!!
そして繰り返される、あの場面。
森の中のひと際大きな木の根元にたどり着いた時、僕の背筋を不穏な気配が襲ってきた。
ゾクリと背中を這う悪寒に身を震わせる。
ーーーーやっぱり逃げ切れなかった………。
大木の幹に縋りつくように手を置き、戦慄く身体を支えた。もう逃げる体力も気力もない。
背後からザクザクと乱暴な足音がしても、僕はもう振り返ることもできずに、ただ震えていることしかできなかった。やがて足音は僕の直ぐ後ろで止まる。
いつもの夢の通りだ。
そして伸ばされた腕が僕の肩を掴み、いつものように残酷な事実を告げてくる。
『残った森の民は、もうお前だけだ』
ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべたヤツが僕を見ている。
『キレイな顔が歪むのも、見ものだな。なに、ちゃんとお前もキモチよくしてやるよ……』
ーーーーそうだ、僕はこの後コイツに………。
唇を噛みしめる。これは夢だ。分かっている。何度も繰り返し見た、残酷な夢。
僕の一族である、森の民が死に絶えた日。
ーーーーそして、僕が名も知らぬ男に組み敷かれ蹂躙された、過ぎ去った日の悪夢。
僕は俯き、瞳を閉じた。
忘れたいのに。
残酷な神様は、忘れることを僕に許さない。
『誰か、助けてよ………』
小さな呟きは誰の耳にも入ることもなく、僕は目が醒めるまでこの残酷な夢の続きを見続けるしかないのだ。
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