婚約者に魔族みたいに醜いと蔑まれたので、魔王になって見返したいと思います〜魔王様は可愛い従者を溺愛して離さない〜

飛鷹

文字の大きさ
37 / 60

37話:魔王になりました!

しおりを挟む
一通り気持ちを叫んで、ふぅ……っと息をつく。
魔王様が執務室に在席しているのは、真っ黒さんに聞いて知っているんだ。

ーーちゃんと僕の声、届いたでしょうか?

じっと目を凝らして魔王城の入口扉の横、ぴょこっと飛び出した執務室の窓を見た。
窓辺に黒い人影が見える。ちょっと遠くて分かり辛いけど、頭にある二つの角が見えたから、絶対にあれは魔王様だ。

歴代の魔王様は皆さん短気で、魔王戦を挑むための口上を聞くや否や執務室を破壊して飛び出したってお話だったけれど。
僕の口上は、少し……いえ、だいぶん迫力に欠けるから、怒りに我を忘れて飛び出す程じゃないのかもしれない。

ドキドキと激しく打つ胸に手を当てて、魔王様の反応を待つ。
すると広場の石畳にふわりと青い魔法陣が浮かび上がり、仄かな風を吹き上げた。
ハタハタと制服の裾がはためく。
一体何が……と辺りを見渡していると、ふっと魔王様が目の前に姿を現した。

ゼロ距離で立つ魔王様は、背の高さも身体の厚みも、身に纏う威厳や迫力も、何もかも全て僕なんかとは桁違いに凄い。

それでも僕はじっと挑むように魔王様を見上げた。
何も言わず、無表情で見下ろしてくる魔王様は正直怖い。
でも、今、視線を逸らしたらそれで全てが終わってしまうと何となく感じたから、僕は脚に力を入れて魔王様からの圧に耐えた。

「……何故、魔王戦を望んだ?」

「僕が魔界に居続けるためです。魔王様に僕が必要なくても、魔界には魔王が必要でしょう?」

「オマエは何と言われようと人間だ。眩しき陽の光も差さぬ、美しき月の光も届かぬ魔界に、その内必ずむ日がくるだろう。従者であればまだしも、魔王ともなればその座を簡単に退く事はできんぞ」

「そんな事、知ってます!」

ムッとして、魔王様を睨む目に力を籠めた。

「眩しい太陽の光も、美しい月の光も、僕の人生の救いになった事なんて唯の一度もありません!」

誰も僕を必要としない人間界せかいは殺伐としていて、美しいものなんか一つもなかった。
でも、魔界は違う。
魔族の人達は個性的で変だし、お城は薄暗く機能性重視だし、外は万年曇りで日中でも明るくはない。

でも魔族の人達は優しく温かだし、魔王様に会えると思うと毎日が楽しく、人間界に居た時より何倍もキラキラ輝く日々だった。

この愛しい世界に、僕はずっと居たいんだ。

「僕は、僕の意思で魔界を選びます。審判を下す者の望まぬ事は強制できないって、望む事を妨げてはならないって教えてくれましたよね?」

魔王様は僕をじっと見つめたまま、微動だにしない。

「じゃ、僕が魔王の座を望むのを妨げないで。僕はこのまま魔界にいる。そして魔王様…………、ラニットが側にいてくれるように頑張る。だから………」

そっと手を伸ばす。魔法陣から拭き上げる仄かな風に揺らめく魔王様の漆黒のマントをぎゅっと握り締めた。

「ーーずっと……僕の側に……。僕と一緒に居て」

何も言わない魔王様に、声は尻すぼみ、視線も自信なく上目遣いになったけど、でも言いたい事は全部言った。
凄く長く感じた、その一瞬。

「ふっ………。魔王戦の口上でここまで熱烈に口説かれるとはな……」

くつくつと、いかにも堪えきれぬといった笑いを洩らし、魔王様が鋭い目をゆるりと緩めた。

「オマエの言う通りだ。審判を下す者の望みは妨げられない。
オマエが望むなら、今日からオマエが魔王だ」

その言葉に反応するかのように、青い光を放っていた魔法陣の色が徐々に変化していく。

「キレイに染まったな」

その魔王様の言葉が聞こえる頃には、魔法陣か放つ光は真紅へと変わっていた。

「これ……?」

「魔王の交代が成った。今、この瞬間から、レイル、オマエが魔王だ」

魔王様……違う、ラニットの両掌が僕の頬を包む。すりっと目元を撫でると、ラニットは愛しそうに微笑んだ。

「美しい赤に染まったな」

「……染まる?」

僕の問に、ラニットは片方の手を頬から外し、自分の目尻を指先でポンと示す。
指先を追って改めてラニットの瞳を見ると、金赤の瞳はほんのり赤みを帯びた鮮やかな金色へと変化していた。

「魔王様の瞳………」

「俺は魔王じゃない。ラニットと呼べ」

「………ラ、ラニットの瞳の色が変わってます」

「そうだ。魔族は一様に漆黒の髪、金の瞳と決まっている。赤い色を持つのは魔王のみ」

そう言われて、僕も自分の目元を指先でソロリと撫でた。

「もしかして、僕の瞳の色も変わってますか?」

「勿論。今までに見たこともないくらい美しい、真紅になっている」

嬉しそうに笑みを深めたラニットは、身を屈めると僕の瞼に唇を落としてきた。

「俺の愛しき魔王よ。オマエの望みを叶える栄誉を俺にくれ」

睦言のように甘く囁きながら、瞼から鼻筋、頬と顔中に接吻キスを降らせてくる。
僕は嬉しいやら恥ずかしいやらで思わず身を捩ると、ラニットはすかさず片腕で僕の腰を抱き、逃げられないように動きを封じ込めてきた。

「あらん………。ラニットの最後の理性が外れた気がするわぁ。ねぇ、プルソン?」

「そうですねぇ……。今までに上に立つものとして理性を総動員させて我慢していたんでしょうけど。どう見ても据え膳を喰う直前ですよね、アレ」

「未成年への手出しは、人間界では犯罪では?」

『ヴィネ、ここ魔界だよ?犯罪もなにも、魔族は本能で動くもんだし問題ないでしょ。まぁ敢えて言うなら、ちょっとショタ入った変態なのは問題かな?』

はっと我に返ると、魔法陣の外側には四将軍達が勢揃いしていて、好き勝手に喋っていた。

えっと………。これは勿論、僕の魔王戦の口上も聞かれているよね?……………う、恥ずかしくて、凄くいたたまれませんよ、僕。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される

水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。 しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み! 生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。 ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。 しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。 「――俺の番に、何か用か」 これは破滅を回避するためのただの計画。 のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。 悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年の乙女ゲー転生BLです。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

婚約破棄で追放された悪役令息の俺、実はオメガだと隠していたら辺境で出会った無骨な傭兵が隣国の皇太子で運命の番でした

水凪しおん
BL
「今この時をもって、貴様との婚約を破棄する!」 公爵令息レオンは、王子アルベルトとその寵愛する聖女リリアによって、身に覚えのない罪で断罪され、全てを奪われた。 婚約、地位、家族からの愛――そして、痩せ衰えた最果ての辺境地へと追放される。 しかし、それは新たな人生の始まりだった。 前世の知識というチート能力を秘めたレオンは、絶望の地を希望の楽園へと変えていく。 そんな彼の前に現れたのは、ミステリアスな傭兵カイ。 共に困難を乗り越えるうち、二人の間には強い絆が芽生え始める。 だがレオンには、誰にも言えない秘密があった。 彼は、この世界で蔑まれる存在――「オメガ」なのだ。 一方、レオンを追放した王国は、彼の不在によって崩壊の一途を辿っていた。 これは、どん底から這い上がる悪役令息が、運命の番と出会い、真実の愛と幸福を手に入れるまでの物語。 痛快な逆転劇と、とろけるほど甘い溺愛が織りなす、異世界やり直しロマンス!

処理中です...