婚約者に魔族みたいに醜いと蔑まれたので、魔王になって見返したいと思います〜魔王様は可愛い従者を溺愛して離さない〜

飛鷹

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7話:カッコいい魔王様に会いました

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凄く楽しみにしていた食事を諦めることになってしまって、その場に膝から崩れ落ち両手を床に着いて項垂れた。

ーー過去を後悔しても仕方ないのですが、あの時午睡を楽しもうとさえ思わなければ、僕はご飯が食べれたのでしょうか……。

夢魔に付け入る隙を与えてしまった過去の自分が、返す返すも恨めしい。
しかし「でも!」と無理やり考えを転換させる。

ーー馬車代は浮いたから、そのお金で屋台の串焼きくらいは買って食べてもいいでしょうか……。いえ、それくらいの贅沢は許される筈です!

此処がどこかは分からないけど、後で絶対にお肉を食べよう!と決意して僕はぱっと頭を上げた。
すると直ぐ近くに立ち、僕を見下ろしていたライラと目が合う。もうライラは僕にどう接していいのか分からなくなったみたいで、しんなりと眉を寄せて困惑の顔をしていた。

「ごめんなさい、少し落ち込んでしまってました」

「………ウん、落ち込んだ理由ハ、聞かないことにするネ」

何て優しい!
心の傷を抉ることなくそっとしてくれるライラの優しさに感動して、涙が滲むのもそのままに胸の前で指を組んでにっこり微笑んだ。

「ライラは優しいのですね……!」

瞬間、ライラは「うっ」と言葉を飲み込んで、僅かに身体を後ろに仰け反らせた。

「……何デ無駄に目をキラキラさせてるのサ……。って、その上目遣い反則ダト思うんだケド!?そして何でコイツをカワイイとか思ってるんダヨ、ボクは。コレって状態異常の魔法なノっ?」

ちょっと何を呟いているのか聞こえないけど、少しライラの頬が赤い気がする。僕を連れて転移したみたいだし、魔力の使いすぎて気分でも悪くなった?

心配になって立ち上がると、体調を窺うため彼に近付き、俯き気味で見えない顔を下から覗き込んだ。

「ライラ……大丈夫、ですか?」

「っっつ!はイっ!大丈夫デスっ!!」

大丈夫じゃなさそう………。
敬語で返事をしたライラは掌でぺしんと顔を覆うと、「あー………」と地底から響くような低い声で呻いた。

「ダメだ……インキュバスの立場が………。ウん、訂正。大丈夫じゃナイ。コレはさっさと命令を遂行した方が無難だネ。行くヨ」

「?何処へですか?」

「君を連れてこいって命令したヒトのトコロ」

また耳に赤みを残したまま、ライラはさっさと踵を返して歩き始めた。僕は慌てて後を追って彼に並ぶ。

「因みに命令の主の正体は?」

「……魔王様ダヨ」

横を歩く僕にチラッと視線を流したライラは、さっき迄の狼狽えた態度が嘘のように表情を消してしまっている。
そのまま無言で先を進むライラを見上げて、僕はまだ見ぬ魔王の姿を想像しながら彼の後を付いて行った。


★☆★☆


蝋燭の灯りだけの薄暗い廊下を進み、案内された場所は大きくて真っ黒な両開きの扉の前だった。
扉をよく見てみると緻密な彫刻が施されていて、色が黒でさえなければ凄く優美なデザインなんだろうなって感じだ。

扉の両サイドには、黒曜石みたいに艶のある石でできた二本脚で立つ牛の像がある。普通の牛と違うのは、角が一本額から生えているのと、口から牙が見えているとこ。
そしてこの像も、扉と同様に凄く大きかった。

ーーこのコ達も魔族の種類なのでしょうか?

まじまじと像を眺めて、そして改めて扉を見つめた。
この扉、どうやって開けるんだろう?
普通に手でノックするには大きすぎるし、専用のノッカーも見当たらない。
んん?と首を傾げていると、横に立つライラが低い声で「開ケろ」と命じて顎を杓った。

すると扉の横の牛の像が、ギギギギ……と軋みながら動き出し扉を開け始めたのだ!

びっくりしてポカンと口を開けたまま扉を眺めていると、ポンとライラの掌が頭の上に乗って僕を正気に戻してきた。

「中へどウゾ」

もう片方の掌で先に進むように促してくる。
ライラは入らないのかな?と彼を見上げると、僅かに片眉を上げて肩を竦めた。

「魔王の間に入れルノは、四将軍と魔王様が招いた者だけダヨ」

ふむ、階級がよく分からないけど、ライラは入れないのは分かった。

「連れてきてくれてありがとうございます、ライラ」

コクリと頷くと、迷うこと無く魔王の間に脚を踏み入れていった。
僕の身体が完全に室内に入ると、再びギギギギ……と軋む音をたてて扉が閉まり始める。脚を止めてチラッと後ろを振り返ると、無表情のままライラが小さく手を振ってくれたのが見えた。

小さな笑みが零れる。
今まで知り合った誰よりも優しいのが、恐ろしいとされる魔族のライラっていうのが不思議だけど。
ちょっぴり心の底にあった不安は、ライラのお陰で綺麗サッパリなくった。

「では、行くとしましょう」

小さく呟くと、揺らめく蝋燭の灯りを頼りに前へ足を進めていった。




どのくらい歩いただろう?
扉の大きさから、この広間も大概広いんだろうなって思っていたけど、進んでも進んでも誰かがいる気配がない。

揶揄われているのかな?と僅かに首を傾げていると、ふわりと背後から風が流れて蝋燭の灯りをゆらりと揺らした。

ぴたりと足を止めて辺りを見渡すと、何もなかった筈の前方に数段の階段が姿を現した。
階段の一段毎に小さめの松明が現れ、パチパチと小さく木が爆ぜる音が響く。

階段に沿って視線を上げると、そこにある玉座に一人の男が足を組んで座っている事に気付いた。
ちょっと高めの肘置きに片腕を乗せ、身体を僅かに傾かせて頬杖を着いている。
此方を見下ろす冷ややかな瞳と目があった僕は、思わず感嘆のため息をついてしまった。

ーー成る程、これが魔王・・

凄まじい程の存在感を放つその男をじっと見つめる。
真っ黒で硬そうな質感の髪は物凄く短くて、此方を見つめる瞳は金赤、少し黄色みが強いのか松明の灯りの加減では金色にも見える。
しなやかな筋肉を纏う体躯は厚みがあって、百戦錬磨の戦士のような威厳を備えていた。


そして何より特徴的なのは、それぞれの耳の上から生える二つの角だった。
鈍い光を纏うその角は、黒く禍々しさを孕み少し歪に捻れて魔王の頭部を飾っている。

じっと見つめ過ぎた事に気付いて、僕は慌てて胸に右手を当て一礼した。

「お初にお目にかかります。魔族の作法を存じませんので、人族でのご挨拶になることをお許し下さい」

すると彼は僕を見極めるかのように、僅かに目を眇めた。

「……よく来た。お前を歓迎しよう」

ズッシリと腹に響くような低い声。僕は頭を上げると姿勢をただして、にっこりと微笑んでみせた。

ーー先ずは彼の行動をしっかり見て、『魔王』が何をする人か学びましょう!
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