愛しい番の囲い方。 半端者の僕は最強の竜に愛されているようです

飛鷹

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番外編

大人の夢、子供の夢【前編】

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「___え、私?」

「うん……」

コトの後。気怠げにうつ伏せになったティアは顔だけをこちらに向けてほんのり笑んだ。

「あの真っ白な空間で見た鏡にね、アスティアが映ってた。まだ小さい頃の。可愛かったなぁ………」

眠気が訪れているのか、少し話し方が幼く瞼が重そうだ。私はティアの細い肩を抱き寄せて、その肩にそっと唇を落とした。

「私より、貴方の方が絶対に可愛かったと思うよ。叶う事なら、私は鏡越しではなく実際に見てみたい」

「僕?う~ん、随分小さかったし痩せっぽちだったし、
可愛くはなかったと思う。誰も僕とは話してくれなかったから、言葉も上手く話せなかったしなぁ……」

何でもない事の様にサラリと言う。その言葉の背後には、あの時あの場所で鏡越しに見た出来事があったのかと思うと、堪らなくなった私はティアをギュッと強く抱き締めた。

「その頃のティアに会えたら、ドロドロに甘やかしてあげたい………」

「……ふふ…、それはきっと幸せだろうね……」

ふわりと微笑むと、眠気が勝ったのかティアはゆるりと眠りの世界へと渡ってしまった。
腕の中に愛しい人を囲い込み、共に眠りにつく幸せを享受する。その温もりに誘われるように、私も眠りについたのだった。そんな、いつも通りの夜。いつも通りの幸せ。


____だったのだが。

翌朝。

「え………、ティア?これは一体どういう事、なんだろうか?」

その日、朝一番に漏れ出た声は、らしくもなく困惑に満ちた疑問の言葉を紡ぐ事から始まった。


★☆


廊下を歩き食堂へと移動していると、ルゼンダが前方から近付いてきた。

「おー、アスティア!やっと見付けた。なー、ティアが今日の授業に来てねーんだけど、どうかし…………」

片手を上げて呼び止めたルゼンダは、その言葉を最後まで紡ぐ事なく途切れさせて、私の腕の中を凝視する。

「え………。ナニコレ……」

「ティアだ」

「___チビくない?」

ルゼンダは表情が抜け落ちた状態でボソリと呟く。
その言葉にビクリと怯えたように肩を揺らしたティアを、抱っこしたまま宥めるように軽く揺すった。

そう。昨夜も甘いティアの身体を存分に堪能し、寝る直前に最近の習慣である思い出話をしながら、幸せな眠りについた……筈だった。
しかし、目が醒めてみたらティアの身体は驚く程小さくなっていて、その愛らしいコバルトブルーの瞳でキョトンと私を見上げていたのだ。
空の一族は本来、15歳前後で二次的羽化して翼を得るのだが、今のティアはどのような現象なのか幼児の姿で小さな翼が背中に生えている。そのあまりの無垢さ愛くるしさに思わず抱き上げて心ゆくまで頬ずりしてしまった。

その間パチクリと瞬くだけで何も言葉を発しないティアに、あれこれ話しかけてみたけど反応は乏しく、取りあえず朝食をと思い小さい彼を抱き上げて移動している最中だった。

「大丈夫、怖がる必要はないよティア。だけど不安なら排除してあげようか?」

「え?アスティア、ひっど!」

「ティアを怯えさせる方が悪い」

言葉遊びのようにキャンキャンとルゼンダが吠えるのを、軽くいなす。しかしほんの一瞬、ティアから注意が逸れてしまい、怯えたように俯いてしまった事に気付かなかったのは痛恨のミスだった。

ふるふると小さな身体を震わせた後、彼は小さな翼を羽ばたかせて私の腕の中からスルリと抜け出してしまったのだ。

「ティア!」

思わず手を差し伸べるけど、ティアは怯た顔を見せるとパタパタと翼を広げて高く飛び立つ。
慌てて後を追おうとしたが、丁度開けていた扉から外へ出てしまい、あっという間に姿を消した。

「ティア!」
「げっ、マジ!?」

空の一族の飛翔力は侮れない。速さだけなら、他の空の生き物の随従を許さないはず。
しかし今のティアは幼児の姿だから、速さはあっても飛び続けられるだけの魔力は無いはずだ。私は城全体に探知の術を巡らせてティアの居場所を探った。

「空竜さま!」

その時、転がるような勢いで侍従長が駆け寄ってきた。いつもは冷静沈着、品行方正を絵に書いたような人物である彼の、その慌てぶりに思わず足を止める。

「___どうした?」

「ウラノス国王陛下がお見えです!」

「え?どうやって?」

すかさずルゼンダがツッコむ。それもそうだ。アデルはウラノスを統べる国王になったが、基本は狐の獣人。空に浮かぶ空竜城に来る術はないはず。

眉間にシワを寄せてみると、コツリと足音が聞こえた。

「空竜殿、先触れもない突然の訪問を許して下さい」

にっこりと笑顔を見せるアデルの腕の中には、何故かティアがすっぽりと収まっていた。

「……………っ」

一瞬、動揺で言葉に詰まっていると、彼は片眉を上げて気の毒そうな顔でため息をつく。

「絶対、何かが起きているだろうなと思って来てみたら、予想通りでしたね。ちょうど階下の廊下を歩いていたら彼が飛んでいたので、保護しておきました」

「お前、どーやってココに来たんだよ?」

「ああ、プラシノスに頼んだんだ」

プラシノスは意外にアデルを気に入っているようで、竜種にしては珍しく番以外の人物に気を配っているようだった。

「何かが起きているとは?」

「先日、教典で言うところの『世界の始まりの日』という事で、創造神への畏敬の念と感謝を籠めて祭りを催したんですが……」

「え?建国したばっかなのにウラノス国、暇なの?」

「ワイバーンは黙ってろ。___で、その日神殿に祈りを捧げた国民にささやかな祝福が贈られたようなんです」

「祝福って誰からだってーの」

「神からだ。少しは考えろ。頭がないのか、ワイバーン」

黙って聞いてれば、アデルのルゼンダに対する当たりが随分強いようだが………。

「お前、俺に随分な態度だな?」

ルゼンダも流石に目を眇めてアデルを見やる。アデルは「はっ!」と鼻で嗤い、睥睨してきた。

「これくらいのティアを喰おうとして襲ってきたことがあったろ、お前。この可愛らしいティアを見ると、それが思い出されて腹が立つ」

「成る程、それは腹が立つな。殺すか」

思わず同意する。そうだルゼンダと出会った時に、コイツは『ティアを襲った』事を認めていたな。ふと思い出し、チラリとルゼンダに視線を向けると、流石に焦ったのかルゼンダは両手を突き出し首を振った。

「待て待て待て待てっ!いつの話をしてんだ!もう時効だろ?つか、アスティア!お前、今まで俺を散々扱き使っときながら、まだ文句をいうのか?鬼畜か?」

相変わらず一言多い男だ。だが、確かにルゼンダは襲った代償に、ティアを探すのに一役買ったのは事実。
『仕方ない生かしておくか』と考え直すと、アデルに向き直った。

「その祝福がどうした」

「まぁ、なんと言いますか………。その、大人の永遠の夢、と言いますか……」

「は?」

胡乱な眼差しで見やれば、アデルは乾いた笑いを洩らす。

「自分の伴侶の可愛らしい頃の姿を愛でる、というのは結構憧れませんか?幼馴染みでもない限り、大切な人の子供の頃の姿なんて見れないじゃないですか」

「___それがどうした?」

『幼馴染み』の言葉に、一瞬だけ苛つく。コイツはティアの可愛らしい姿をずっと見ていたのだと思うと、嫉妬の気持ちが湧き上がる。

「だから。『始まりの日』に因んで、祝福を受けた国民が、自我が芽生える人としての『始まり』の年代になってしまってるんです」

「……………………」

まさしく、昨夜の戯れに会話した内容そのものな状態に、私は創造神に感謝していいのか恨んでいいのか悩んでしまい、とっさに返事をする事ができなかった。

「その様子から見る限り、何か心当たりあります?」

ニヤリと意地悪く笑ったアデルは、ツカツカと近付くと私にティアを渡してきた。

「ティティ、しっかり甘やかして貰え。彼が君を傷付ける事は絶対にないから、大丈夫」

急に温かな腕の中から放たれ不安気な様子のティアに、アデルは甘い声をかけた。

「君は大人・・に甘えさせて貰った経験がないから。存分に甘えるといいよ」

その言葉に、僅かに目を見開いた。確かにティアは虐げられて育っている。彼にとっての『大人』は、『恐ろしい人』なのかもしれない。だからこそ、朝から幾度となく話しかけても返事がなかったのだろう。

「………」

ぱくり、と一度口を開いたものの再び噤んだティアは、服の前身頃を両手で掴むとおずおずとアデルを見上げた。

「どうした、ティティ。待ってあげるから、話してごらん?」

「あでぃは、ここに、いる?」

「俺は………」

ふと言葉を途切らせて、アデルは優しく微笑んだ。

「俺はティティが安心して暮らせるように今凄く頑張ってるから、下の世界に戻るよ。今度、ティティが下に遊びにおいで」

じんわりと、つぶらな瞳に涙が浮かぶ。だけどティアは泣くのを堪えて、コクリと頷いた。

「ん、てぃてぃ、遊びに、いくね。あでぃ、まっててね?」

「勿論!楽しみにしてる」

可愛らしい笑みを零すティアの頭にポンと手を乗せると、アデルは私に視線を向けた。

「大事な番に関する事を、俺から教えられるのは業腹でしょうけと……」

前置きをすると、彼は『ふ……』と柔らかな笑みを浮かべた。

ティティ・・・・は、甘いお菓子が好きです。それに炙ったマシュマロを浮かべたココア。そしてこのくらいの歳に、特に気に入っていたのがクマイチゴ。これを取りに山に入った時に、そこのワイバーンに襲われましたけどね」

スルリと手を滑らせてティアの柔らかな頬に触れると、名残惜しさを振り切るようにギュッと掌を握り込んだ。

「しっかりティティを甘やかして下さいね」

そう言い残すと、きびすを返して去っていった。
寂しそうにそれを見送る姿に、戴冠式時のティアを思い出す。

___あの時も、寂しかったのだろうか………。

ふと思う。しかし今は…………。

「じゃ、ティティ?私と遊びに行こうか」

高い高いするように持ち上げると、彼はキレイなコバルトブルーの瞳をパチパチと瞬かせ、こてんと愛らしく首を傾げたのだった。


★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

ティティをデロデロに甘やかすアスティアの姿は後編で♫

読んで頂き、ありがとうございました!

※本編完結SSを近況ボードに上げていましたが、もしご存知ない方がいらっしゃったら、覗いてみて下さいね☆


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感想 32

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