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悪魔と呼ばれた戦利品
第35話 五分の魂 1
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戦からアージェスが無事に帰ってきた。
ルティシアはそれだけで嬉しく、アージェスの所有物でいられるならそれで良かった。
けれど、ルティシアが王妃に選ばれたことで、家臣らの怒りを露わにした視線は一層厳しくなった。
王命もあり、不満を直接ぶつけてくる者はいなかったが、風のようにどこからともなく、不満の声は聞こえてきた。
「宰相閣下のご令嬢をはじめ、名だたる名家の貴婦人がいらっしゃるというのに」
「陛下はもう側近方の話すらお聞きになられぬそうだ」
「悪魔め、陛下のお心を掴むとは忌々しい」
「あの女の食事に毒でも盛ってやれ」
「そうだ。あんな女、死んでしまえばいい」
物語の結末は、幸福でなければならない。
国をまたも救った凛々しく雄雄しい英雄は、美しいお姫様と結婚し、末永く幸せになるものだ。
醜い悪魔が寄り添う結末などありはしない。
誰も望まない。
多くの家臣らから愛される国王の結婚が、誰にも祝福されないものになってしまう。
そんな結婚が幸せであるはずがない。
「まだ、起きているのか?」
寝台の毛布の中、ルティシアはアージェスの毛布を、彼だと思っていじり続けていた。
不意にすぐ近くから声をかけられて、無骨な手が頬を撫でた。
彼はすぐ隣にいて、ルティシアに腕枕をしてくれている。
自分などにはもったいない優しさだ。
身じろぐと、アージェスが質問を変えた。
「何をそんなに考えている?」
以前の陛下からは考えられないほど柔和な口調。
王宮に帰還してからというもの、彼はルティシアをまるでガラス細工のように大切に扱っていた。
寝台を共にしても、ルティシアの肌に触れようとはしてこない。
その代わりに、腕に納めて離そうとしなかった。
「何も考えていません」
「それならいいが、……何か気に病んでいることがあれば話してくれないか?」
婚約を解消して、御家臣が勧められる婦人をお選びください。
話したところで、王を怒らせてしまう。
戦前もそれでこっぴどく怒りをかい、挙句何度も抱かれた。ルティシアにとってアージェスに抱かれることは決して嫌なことではない。
寧ろ悦びだった。
辛いのは、子種を授かることだ。
ルティシアが懐妊することを、王の性生活を管理する侍女長官が恐れているのだ。口には決して出さないが、ルティシアが王に抱かれた残骸のシーツを見るたび、国家の一大事ぐらいに恐々としていた。
それはすなわち家臣らの本音を意味し、拒絶されているルティシアには、激しく精神を抉るほどの居心地の悪さだった。
けれどルティシアは、アージェスに分かってもらえるように伝える術もなく、彼は他の婦人の事を少しでも彼女が口にすると、怒って口を塞いでしまう。
全く話にならない。
それでも気の弱いルティシアにしては、精一杯反論し、抵抗してきた。懐妊していなかったことは、彼女にとっても、家臣らにとっても幸いに他ならなかった。
ベルドール人の大半が褐色の髪と目を持つ中、異なった色を持っていても、ルティシアはベルドール人だ。愛国心もあれば、誇りもある。
王が、アージェスだと思えばなおのこと。
国のため、愛する我が王の栄光のためにありたい。決して、足枷になどになりたくない。
「何もございません」
愛する人の傍にいられる幸せを噛み締めて、ルティシアは微笑んだ。
ルティシアはそれだけで嬉しく、アージェスの所有物でいられるならそれで良かった。
けれど、ルティシアが王妃に選ばれたことで、家臣らの怒りを露わにした視線は一層厳しくなった。
王命もあり、不満を直接ぶつけてくる者はいなかったが、風のようにどこからともなく、不満の声は聞こえてきた。
「宰相閣下のご令嬢をはじめ、名だたる名家の貴婦人がいらっしゃるというのに」
「陛下はもう側近方の話すらお聞きになられぬそうだ」
「悪魔め、陛下のお心を掴むとは忌々しい」
「あの女の食事に毒でも盛ってやれ」
「そうだ。あんな女、死んでしまえばいい」
物語の結末は、幸福でなければならない。
国をまたも救った凛々しく雄雄しい英雄は、美しいお姫様と結婚し、末永く幸せになるものだ。
醜い悪魔が寄り添う結末などありはしない。
誰も望まない。
多くの家臣らから愛される国王の結婚が、誰にも祝福されないものになってしまう。
そんな結婚が幸せであるはずがない。
「まだ、起きているのか?」
寝台の毛布の中、ルティシアはアージェスの毛布を、彼だと思っていじり続けていた。
不意にすぐ近くから声をかけられて、無骨な手が頬を撫でた。
彼はすぐ隣にいて、ルティシアに腕枕をしてくれている。
自分などにはもったいない優しさだ。
身じろぐと、アージェスが質問を変えた。
「何をそんなに考えている?」
以前の陛下からは考えられないほど柔和な口調。
王宮に帰還してからというもの、彼はルティシアをまるでガラス細工のように大切に扱っていた。
寝台を共にしても、ルティシアの肌に触れようとはしてこない。
その代わりに、腕に納めて離そうとしなかった。
「何も考えていません」
「それならいいが、……何か気に病んでいることがあれば話してくれないか?」
婚約を解消して、御家臣が勧められる婦人をお選びください。
話したところで、王を怒らせてしまう。
戦前もそれでこっぴどく怒りをかい、挙句何度も抱かれた。ルティシアにとってアージェスに抱かれることは決して嫌なことではない。
寧ろ悦びだった。
辛いのは、子種を授かることだ。
ルティシアが懐妊することを、王の性生活を管理する侍女長官が恐れているのだ。口には決して出さないが、ルティシアが王に抱かれた残骸のシーツを見るたび、国家の一大事ぐらいに恐々としていた。
それはすなわち家臣らの本音を意味し、拒絶されているルティシアには、激しく精神を抉るほどの居心地の悪さだった。
けれどルティシアは、アージェスに分かってもらえるように伝える術もなく、彼は他の婦人の事を少しでも彼女が口にすると、怒って口を塞いでしまう。
全く話にならない。
それでも気の弱いルティシアにしては、精一杯反論し、抵抗してきた。懐妊していなかったことは、彼女にとっても、家臣らにとっても幸いに他ならなかった。
ベルドール人の大半が褐色の髪と目を持つ中、異なった色を持っていても、ルティシアはベルドール人だ。愛国心もあれば、誇りもある。
王が、アージェスだと思えばなおのこと。
国のため、愛する我が王の栄光のためにありたい。決して、足枷になどになりたくない。
「何もございません」
愛する人の傍にいられる幸せを噛み締めて、ルティシアは微笑んだ。
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