姫で神官な私

Cham

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第1章

15.黒い少年

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先程まで、巨大化して荒れ狂っていた聖獣が、自分の足にすり寄って愛嬌を振りまいてきている。


(…謎)


「謎だわ…」

「…」


どうしてこんなことになってしまったのか。

先程までの、いつ食い殺されるか分からない状況よりはマシでは有るが。
シロの怒りの沸点が全く分からない。

ほんの少し治癒術をかけてやっただけで、こうもコロっと態度を変えるものなのか。
一体何がきっかけか。


「…どういう、こと?」

なんとなく、数分前までシロと壮絶な格闘を繰り広げていた少年に顔を向ける。
彼も眉間にシワを寄せたまま、困惑しているようだ。


仕方なく、すり寄りが激しいシロを抱き上げる。
もう触っても平気そうだ。
それに、少年に対する怒りも忘れてしまっているようだ。


「……」


「…抱っこ、してみる?」

一定の距離を保ったまま、訝しげな顔でこちらを眺める少年にたずねてみる。
彼が触わりたそうにしていたからというわけではなく、少年と打ち解けるための「つなぎ」として聞いた。

予期せぬ乱闘騒ぎが一段落して、漸く状況の把握ができそうだ。

膝丈まである黒いローブ姿と、先程までのシロとの戦いの身のこなしから見て、彼が「黒い影」の正体だろうと結論づけた。



少年は、エレノアよりも2、3歳は年下だろうか。背丈もエレノアと同じくらいで、まだまだ成長真っ只中といった印象だ。
短い黒髪の間から、鋭い切れ長の赤眼が覗く。
異国の血が流れているのだろうか。どことなくエキゾチックな風貌だが、この国の男性にはあまりいないタイプの美青年に成長するだろう。

―…そう、先程出会った彼とはまた違ったタイプの。


「…いえ、大丈夫です」

「…」

人に見つめられることが苦手なのだろうか。ローブで顔を隠そうとしてしまう。



「あなた…どうしてこの森に来たの?」

直球で聞いた。
この少年には回りくどい聞き方は不向きだろうと思ったからだ。


「……」


「……」


「……」


「……」



返答に悩んでいるのだろうか。それとも、黙秘に徹しているのだろうか。
彼の表情からは読み取れない。

ただ、なんとなく、なんとなくだが、彼は今回の事件には関与していないように思える。
何故かは分からないが、そう直感した。

(シロに襲われそうなところを助けてもくれたみたいだしね)
…方法は、あれだったけど。


だから、掘り下げて聞くことを辞めた。
…なぜ頭上から降ってきたのかは、気にはなるが。




「あの、さっきは助けてくれてありがとう。…それと、怒鳴ってしまってごめんなさいね。私も、気が動転してしまっていて…」
素直にお礼と謝罪の言葉を述べた。


「…!」
想像していなかった言葉だったからか、わずかに驚いた顔を覗かせた。
更に追及されるとでも思っていたのだろう。



「……いえ。ご無事でなによりです。」
躊躇いがちに、ボソボソと答えが返ってきた。






不覚にも、きゅんとしてしまった。
(…なかなか可愛いわね)

あんなに激しい格闘をやってのけた割に、なんたる奥手、なんたる口下手か。
所謂、ギャップ萌えというやつだろうか。


「…」


「…」


「…えーと」

言葉が続かず、シロを撫でながら、どうしたものかと考えていた時だった。






空気が揺れた。

(…!?)



気づいたときには、数メートル先にいたはずの少年の背中が目の前にあった。


一瞬、思考が追いつかなかったが、どうやら少年はエレノアを背後に庇ってくれているようだ。

「…」




サクリ…





森の奥から、こちらに向って歩いてくる人の姿が目に入った。
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