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第1章
7.見つけた
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――あとになって、父から教えられた。
あの女性は、皇后陛下のツェツィーリエ様で、
そして、たんぽぽの少女はエレノア皇女だったということ。
皇族の前で失態を犯してしまったことに叱責を受けるかと思ったが、何も言われなかった。
悲しみは癒えることはないけれど、あの親子のお陰で、心は救われた気がした。
喪に服して、しばらくして学院に復帰した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ふと、道端に咲くたんぽぽを目にする度、今でもあの親子の事を思い出す。
母の葬儀から1年後に、皇后陛下の訃報が突如国中に伝えられた。
その頃には既に、葬儀は皇族と父を含むごく限られた一部の人間のみで執り行われた後だった。事情があったようだ。
たんぽぽの姫君はどうしているだろうか。誰かに側についてもらえているのだろうか。
学院にいる身では、知る術がなかった。
学院の長期休暇には帰省し、何度か父について皇城を訪れた。
その度に、どうにか姫君の様子をうかがい知ることはできないか、そんなことを期待して。
だが、会えるはずもなく―――
『皇帝陛下は皇女様を敬遠されている』
ある時、そんなことを耳にした。
詳しい事情は知り得なかったが、皇后の死から、何かが変わってしまったらしい。
それをきっかけに、皇帝は娘を遠ざけるようになったようだ。
それでは、あの姫君はどうしているのか。
母を亡くし、父にも敬遠され、彼女の心は大丈夫なのだろうか。
皇城に来るたびに、もどかしさを感じていた。
そんな時、見つけた。
見つからないとでも思っていたのだろうか。
カサ…
カサカサ…
回廊の途中から下りられる開けた緑地で、父の用が終わるのを待っていた。
草むらから何かを覗く3つの小さな頭を見つけた。
『…?』
ここは皇宮だ。
どこかの貴族の子供たちが迷い込んだのだろうか。
声をかけようか迷っていた時、
『ちょっとジュード、レグ、押さないでよ!バレちゃうでしょ!』
『おい、じゃあもっと詰めろよ』
『なんで僕までこんなこと…』
3つのうち、1つの頭がこちらに振り返った。
彼女だ…
嬉しかった。
色々と心配していたが、元気なようだ。
噂では、陛下が彼女を遠ざけていると聞いていたが、会いにきたのだろうか。
否、こそこそしているということは、噂は事実なのだろうか。
それからは、半年に一度、皇城に来る度にどこかに隠れているだろう彼女を見つけることが、密かな楽しみになっていた。
何度か、彼女の横にいる少年たちと目があうこともあったが、特に警戒されている様子もない。
彼女のコロコロと変わる表情や、おっちょこちょいな行動を視線の端で捉えながら、どこか穏やかな気持ちになっていた。
だが、そんな数年続いた楽しみも、ある時を境に無くなってしまった。
陛下の様子を伺うことを、彼女が辞めてしまったようだった。
彼女は今、どうしているだろうか―――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴンッ
「う…」
数年ぶりに皇城を訪れた。
何を思ったのか、居もしない少女の姿を求めて人気のない緑地に立ち入った。
彼女は、よくこういうところに隠れていたよなと、なんとなく足を進めた時だった。
何かが胸元に激突し、衝撃で体が後ろに傾く。
…割と痛い。
これが飛んできたのか、と足元に転がる不思議な棒を眺め、
(…ん?…飛んできた?)
ふと不思議に思い、顔を上げたところに
彼女がいた。
いや、
彼女によく似た、神官がいた。
あの女性は、皇后陛下のツェツィーリエ様で、
そして、たんぽぽの少女はエレノア皇女だったということ。
皇族の前で失態を犯してしまったことに叱責を受けるかと思ったが、何も言われなかった。
悲しみは癒えることはないけれど、あの親子のお陰で、心は救われた気がした。
喪に服して、しばらくして学院に復帰した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――ふと、道端に咲くたんぽぽを目にする度、今でもあの親子の事を思い出す。
母の葬儀から1年後に、皇后陛下の訃報が突如国中に伝えられた。
その頃には既に、葬儀は皇族と父を含むごく限られた一部の人間のみで執り行われた後だった。事情があったようだ。
たんぽぽの姫君はどうしているだろうか。誰かに側についてもらえているのだろうか。
学院にいる身では、知る術がなかった。
学院の長期休暇には帰省し、何度か父について皇城を訪れた。
その度に、どうにか姫君の様子をうかがい知ることはできないか、そんなことを期待して。
だが、会えるはずもなく―――
『皇帝陛下は皇女様を敬遠されている』
ある時、そんなことを耳にした。
詳しい事情は知り得なかったが、皇后の死から、何かが変わってしまったらしい。
それをきっかけに、皇帝は娘を遠ざけるようになったようだ。
それでは、あの姫君はどうしているのか。
母を亡くし、父にも敬遠され、彼女の心は大丈夫なのだろうか。
皇城に来るたびに、もどかしさを感じていた。
そんな時、見つけた。
見つからないとでも思っていたのだろうか。
カサ…
カサカサ…
回廊の途中から下りられる開けた緑地で、父の用が終わるのを待っていた。
草むらから何かを覗く3つの小さな頭を見つけた。
『…?』
ここは皇宮だ。
どこかの貴族の子供たちが迷い込んだのだろうか。
声をかけようか迷っていた時、
『ちょっとジュード、レグ、押さないでよ!バレちゃうでしょ!』
『おい、じゃあもっと詰めろよ』
『なんで僕までこんなこと…』
3つのうち、1つの頭がこちらに振り返った。
彼女だ…
嬉しかった。
色々と心配していたが、元気なようだ。
噂では、陛下が彼女を遠ざけていると聞いていたが、会いにきたのだろうか。
否、こそこそしているということは、噂は事実なのだろうか。
それからは、半年に一度、皇城に来る度にどこかに隠れているだろう彼女を見つけることが、密かな楽しみになっていた。
何度か、彼女の横にいる少年たちと目があうこともあったが、特に警戒されている様子もない。
彼女のコロコロと変わる表情や、おっちょこちょいな行動を視線の端で捉えながら、どこか穏やかな気持ちになっていた。
だが、そんな数年続いた楽しみも、ある時を境に無くなってしまった。
陛下の様子を伺うことを、彼女が辞めてしまったようだった。
彼女は今、どうしているだろうか―――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ゴンッ
「う…」
数年ぶりに皇城を訪れた。
何を思ったのか、居もしない少女の姿を求めて人気のない緑地に立ち入った。
彼女は、よくこういうところに隠れていたよなと、なんとなく足を進めた時だった。
何かが胸元に激突し、衝撃で体が後ろに傾く。
…割と痛い。
これが飛んできたのか、と足元に転がる不思議な棒を眺め、
(…ん?…飛んできた?)
ふと不思議に思い、顔を上げたところに
彼女がいた。
いや、
彼女によく似た、神官がいた。
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