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第1章
2.月に一度
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(……最悪だ)
盛大に息を吐く。
せっかく早めに眠りにつけたというのに、あんな夢を見てしまうなんて。
お陰で叔父に叩き起こされる前に、目が覚めてしまった。
泣きながら眠っていたようで、目が腫れぼったい。
(夢の中で母さまに会えたことは嬉しかったけど…)
よりによって、あの日の夢だなんて。
しかも今日は――――
「皇宮神官のエレノア・ルーベンスです。陛下の往診に伺いました」
扉の前に立つ近衛兵に訪問を伝える。
エレノアの姿を認めた近衛の一人が、入出許可を貰いに室内へ入っていく。
毎月のように顔をあわせているため、ほぼ顔パスだ。
今日は、月に一度の父・皇帝イグナティウスの定期往診日だ。
(毎度のことながら、緊張するな…)
入室の許可が降りるまで、呼吸を整えて待つ。
ふと、客間に飾られた皇帝の肖像画を見上げる。
とても穏やかな表情をしている。
どこか神々しく威厳を放つ、金髪碧眼の青年。朱の正装に身を包んだ若かりし頃の父の姿だ。
かつては快活で心優しく、国民から愛される皇帝だった父。
皇后ツェツィーリエを深く愛しており、この国にその寵愛ぶりを知らない者はいなかった。
皇女エレノアの誕生の際も泣いて喜んでいたと伝え聞く。
だが、そんな幸せな日々は突然に崩れ去る。
神力を暴走させた娘を救うため、ツェツィーリエは自らの神力を使い果たし絶命した。
夢に見た、白バラ宮での出来事だ。
訃報を聞きつけた皇帝は、嘆き、絶望する。
意識の戻らない娘の見舞いにも通ったが、ツェツィーリエの葬儀を機にそれもパタリと止まる。
愛する妻の命を奪った娘の存在が煩わしく、次第に遠く、城の片隅に追いやってしまう。
意識を取り戻したエレノアのもとに、父が訪れることはなかった。
(…あんな夢みた後に父さまと会うことになるなんて)
顔を隠す官服に救われる。神の遣いである神官は、業務中は極力、目元以外人目に晒さない。
上手く表情を作れる自信が無かった。それはいつものことだが、特に今回は。
幼い頃のエレノアは、父に会いたい一心で、父の住まう宮殿に何度もこっそり通った。
どうにか父の姿が見れないか。どうにか気づいてもらえないかと期待もしていた。
白バラ園で母を想い、一人涙し苦しむ父の姿を目にするまでは。
(……)
「神官様、陛下から入室許可を頂きましたのでお入り下さい」
ぼーっと過去に想いを馳せていたところに、戻ってきた近衛兵から入室許可が伝えられた。
もう一度、父の肖像画を見上げて姿勢を正す。
「ありがとうございます」
盛大に息を吐く。
せっかく早めに眠りにつけたというのに、あんな夢を見てしまうなんて。
お陰で叔父に叩き起こされる前に、目が覚めてしまった。
泣きながら眠っていたようで、目が腫れぼったい。
(夢の中で母さまに会えたことは嬉しかったけど…)
よりによって、あの日の夢だなんて。
しかも今日は――――
「皇宮神官のエレノア・ルーベンスです。陛下の往診に伺いました」
扉の前に立つ近衛兵に訪問を伝える。
エレノアの姿を認めた近衛の一人が、入出許可を貰いに室内へ入っていく。
毎月のように顔をあわせているため、ほぼ顔パスだ。
今日は、月に一度の父・皇帝イグナティウスの定期往診日だ。
(毎度のことながら、緊張するな…)
入室の許可が降りるまで、呼吸を整えて待つ。
ふと、客間に飾られた皇帝の肖像画を見上げる。
とても穏やかな表情をしている。
どこか神々しく威厳を放つ、金髪碧眼の青年。朱の正装に身を包んだ若かりし頃の父の姿だ。
かつては快活で心優しく、国民から愛される皇帝だった父。
皇后ツェツィーリエを深く愛しており、この国にその寵愛ぶりを知らない者はいなかった。
皇女エレノアの誕生の際も泣いて喜んでいたと伝え聞く。
だが、そんな幸せな日々は突然に崩れ去る。
神力を暴走させた娘を救うため、ツェツィーリエは自らの神力を使い果たし絶命した。
夢に見た、白バラ宮での出来事だ。
訃報を聞きつけた皇帝は、嘆き、絶望する。
意識の戻らない娘の見舞いにも通ったが、ツェツィーリエの葬儀を機にそれもパタリと止まる。
愛する妻の命を奪った娘の存在が煩わしく、次第に遠く、城の片隅に追いやってしまう。
意識を取り戻したエレノアのもとに、父が訪れることはなかった。
(…あんな夢みた後に父さまと会うことになるなんて)
顔を隠す官服に救われる。神の遣いである神官は、業務中は極力、目元以外人目に晒さない。
上手く表情を作れる自信が無かった。それはいつものことだが、特に今回は。
幼い頃のエレノアは、父に会いたい一心で、父の住まう宮殿に何度もこっそり通った。
どうにか父の姿が見れないか。どうにか気づいてもらえないかと期待もしていた。
白バラ園で母を想い、一人涙し苦しむ父の姿を目にするまでは。
(……)
「神官様、陛下から入室許可を頂きましたのでお入り下さい」
ぼーっと過去に想いを馳せていたところに、戻ってきた近衛兵から入室許可が伝えられた。
もう一度、父の肖像画を見上げて姿勢を正す。
「ありがとうございます」
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